怒涛の薔薇茶会
茶髪の髪を結わえ、薄緑色の大胆な胸元が見えるドレスを着た女性は冷や汗を掻いていた。
名をビクトリア・ピタン。
ピタン伯爵婦人で、自称社交界を牛耳ってる貴婦人だ。
それもそのはず。
筆頭公爵家であるピアーズ公爵令嬢から、突然茶会に呼ばれたからだ。
ピアーズ公爵令嬢と言えば、引きこもりで有名な令嬢である。
社交界で夜会などに参加しても、侍女と共に一度も踊らずに退席してしまう令嬢だった。
姿もほとんど見たことないし、付き合いは挨拶程度。
だが、筆頭公爵家令嬢直々の茶会に誘われたので緊張はするが御近づきのチャンスだと野心を募らせていた。
ビクトリアは、ピタン伯爵家の馬車に揺られながらピアーズ公爵家に向かって居た。
一方、会場である公爵家の中庭には仲の良い腐カップルが集結していた。
身分問わず集めた腐カップルは全員が若くて見目麗しい。
「ピアーズ公爵令嬢、随分と楽しそうですね?」
「まあね」
学園の教師に聞かれルナは微笑む。
「どういった反応するか見物だな」
騎士団長の息子は笑みを浮かべ、隣に立つ宰相の息子と頷き合う。
「計算では、発狂するか気絶するものかと思われます」
ハッピーエンドシーンに、トーンを貼りながら少しカッターで削るマチルダは予想を立てる。
「誤字見付けたので訂正しますね」
花屋の息子は、小説の原稿を見て書き直して行く。
「こっちトーン足りないぜ。ドアップのシーンは花柄トーンだろ?ひまわり?それともアサガオにするか?」
酒屋の息子は、漫画の原稿を見て指摘する。
「薔薇の方が良いだろう。そこは見せ場のシーンだからな。想いが通じ合ったんだから薔薇に決まってる」
第二王子が薔薇のトーンを酒屋の息子に渡した。
「こっちも誤字見付けましたよ。訂正入れます」
財務大臣の息子がチェックして漫画の原稿に修正液を付け直していく。
そして30分後。
「クルオルナお嬢様、ピタン伯爵婦人がお見えになりました」
腐カップルの侍従がクルオルナに報告する。
「そう、わかったわ。お通しして」
クルオルナは漫画原稿にペン入れしながら答えた。
「はっ」
侍従は返事をすると去っていく。
クルオルナ専属護衛騎士は、侍従の後ろ姿を見て名残惜しそうにしていた。
程無くして。
侍女の案内でピタン伯爵婦人が中庭に訪れた。
「此度の茶会にお招き下さりありがとうございます。ピタン伯爵婦人のビクトリア・ピタンと申します」
ビクトリアは緊張しながらカーテシをして、クルオルナに名乗る。
「楽にしなさい」
クルオルナは優雅に微笑んでビクトリアに言う。
「どうぞ、席に付いてくださる?」
「はっはい」
クルオルナに言われビクトリアは席に着いた。
……茶会よね?呼ばれたの女性は私だけ?
あそこにいる男性の方々は有名人ばかりだわ。
例えば、オーケド酒屋商会の跡取り息子ラルフ・オーケド。
こっちはカズガイ花屋商会の跡取り息子ミゲル・カズガイ。
市井で人気ある男性じゃない!!
しかも第二王子リーグルト殿下もいるし、側近の皆様も揃ってる!!
病弱な第一王子様に代わり、王太子に即位なされると注目されてるわ!!
あぁ……やっぱり挨拶するべきかしら?
ビクトリアは視線をさ迷わせた。
「昨日の朝刊、拝見させて頂きましたわ。随分と、腐作家ルナを目の敵になさいますのね」
クルオルナは原稿にペン入れしながらビクトリアに言う。
「当然ですわ。世間を混乱させる腐作家ルナは害虫でしてよ。厳格な貴族社会のみならず、市井をも巻き込む暴挙。見逃せませんわ。早急に騎士団に調べさせて身柄を拘束し裁くべきだと思っております」
鼻息荒くしてビクトリアはクルオルナに言い切った。
パチンッ
クルオルナが合図すると、腐カップル達が目配せをして絡み合う。
「随分と面白い事を言うな?娯楽を生み出す作家を害悪と見なすか?」
第二王子リーグルトは、財務大臣の息子シュバルツ・ビネガーを抱き寄せて笑みを浮かべる。
「え?は?こっこれは?」
目の前で絡み合う男達を見てビクトリアは混乱する。
「私の執筆を手伝って頂けてたら、互いを愛するようになってカップルになったのですわ」
クルオルナはビクトリアに原稿を見せる。
そのシーンは、極めて濃厚なシーンだった。
「はう!?こっこれは……もしや腐作家ルナは……」
気付いたビクトリアは思わず立ち上がる。
「腐作家ルナは私でしてよ?騎士団に訴えるなら……」
「俺に言えば?まあ、揉み消すけどな」
クルオルナが言うと、騎士団長の息子アーノルド・ナイトソードが笑みを浮かべた。
アーノルドは腕に抱く宰相の息子ハリス・トワイスと見つめ合う。
「王族を含め、実力者や高位貴族達が……こうなってると知れたら……この国が大混乱に陥りますわ!?」
ビクトリアは青ざめて叫ぶ。
「言いたければ、言えば良い。ただし、王族や高位貴族を敵に回すことも視野に入れて下さい。あぁ……貴女の命があれば良いですね」
学園の教師キシリウスは、抱き締める新人文官アゲハに口付けた。
「なっ!?脅すと言うのですか?」
ビクトリアは更に青ざめる。
「高位貴族や王族は清廉潔白では入られませんわ。秘密を知る者には消えていただかないと行けませんもの」
薄くクルオルナは笑みを浮かべる。
「ビクトリア伯爵婦人、貴女が選べるのは二つだ。一つはこのまま墓場まで秘密を持って行くこと。二つ目は、我々の秘密を公表して闇に消されるかの二択だ」
リーグルトはビクトリアに突き付ける。
「私は悪には屈しませんわ!!必ずや事実を公表して世間に知らしめます!!すみませんが、これで失礼しますわ!!」
ビクトリアは鼻息荒くして言うと、中庭から去って行った。
「伯爵婦人には見えない言動と言葉遣い。王族に挨拶しないなど常識も無いんですのね」
「ピタン伯爵は最近爵位を上げたばかりの新興貴族だ。ましてや、ビクトリアは男爵家の出身。貴族的な考え方も出来ないんだろう」
リーグルトはクルオルナに頷いた。
「どうしますの?彼女、公表するつもりでしてよ」
「放っておくさ、俺達には関係無い。勝手に自滅するだろう」
クルオルナにリーグルトは答えた。
ピタン伯爵家馬車の中では。
「早く新聞社に行かなくては!!全てを公表しますわ!!腐文化など私が破壊してやりましてよ!!」
ビクトリアは鼻息荒くして叫んでいた。




