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1-5 願い

「ん?」


 突然の静寂に俺は顔を上げた。

 壁や天井が崩れる音は突然鳴り止んでいる。

 

「止まってる……」


 俺の頭上では今にも落ちてきそうな岩が空中で静止している。

 頭上の岩だけではない、周囲全ての空間が時間が停められたかのように静止している。


「これはいったい……」

「やっほーー!!」


 突然の状況に困惑していた俺の耳に、とても懐かしい声が届いた。

 場違いなほどに気の抜けた、それでいてどこか底の知れない恐ろしさを持ったその声の持ち主は……


「危ないところだったね!!」

「女神様!?」


 どこから現れたのか、俺の目の前にはいつの間にか女神様が立っていた。

 女神様といっても、二度目の異世界転移でお世話になった女神様ではない。

 一度目の異世界転移で俺を送り出した女神様だ。


「アルト君、おっひさー!!」

「お、お久しぶりです」

「なになにー、やけに他人行儀じゃん。私とアルト君の関係でしょー!!」

「そ、そんな関係ではないと思います」


 つかみどころのないこのテンション。

 初めての会話で苦労したことを思い出す。


「えっと、これは女神様が?」


 俺は周囲の状況を確認しながら女神様に尋ねる。


「そうそう、ほんとギリギリだったんだからね!!」

「えっと、ありがとうございます」

「そうだよー、もっともーっと感謝してくれてもいいんだからね!!」


 どうやら俺は女神様に助けられたらしい。

 でもどうして?

 それになぜ一度目の女神様が?

 俺の頭の中には様々な疑問が駆け巡った。


「ふっふーん、賢い私は分かるわ!!なぜ私がここにいるのかを考えているでしょ!!」

「はい、俺はあなた様との約束通りこの世界を一度救いました」

「あぁー、やっぱその感じ気がついてる?この世界が君が一度いた世界だって」

「はい、あの魔王を見れば」

「うんうん、それなら話は早いね!!」


 女神様は笑顔のまま話を続ける。


「この世界はまた危険を迎えてしまいました。その脅威を排除するため、異世界から勇者を呼び込みました。しかし、その勇者はかつてこの世界を救った勇者でした。本当は王都にでも送られるはずだったんだけど、その勇者は魔王との繋がりを持っていたため、直接魔王の元に送られてしまったのです。そして、勢いのままこの世界の脅威である魔王を倒してしまったのです!!はい、おしまい!!」


「……はぁ、」


俺は怒涛の勢いで語られる真相に驚きを隠せなかった。


「えっと、つまりこの世界の脅威はもうなくなったということですか?」

「うん、そのはずだよ」

「それじゃあ俺の役割は、」

「終わりだね」


 驚くべきことに俺の二度目の異世界生活はあっという間に終わりを迎えた。


「えっと、それでなんで女神様がここにいるんですか?二度目の女神様ではなくて、あなた様がここにいらっしゃるのですか?」

「そ・れ・は、だねー……私がもう一度あなたに褒美をあげるため!!」

「えっ?」


 確かに俺はこの世界に来る際、女神様と褒美の約束をしている。

 だがそれは二度目の女神様とだ。

 一度目の女神様とは、元の世界へ帰してもらうという約束で終わっているはずだ。


「私との約束覚えてる?」

「えっと、世界を救ったら元の世界へ帰してもらうというものでした」

「んー、70点!!正確には、元の世界に帰してあげる。さらに、ちょっとした優遇を付け加えて、だね!!」


 確かに、女神様は俺が元の世界に戻った際、少なからず恩恵があると言っていた。

 だがそのような恩恵を受けた覚えはない。


「本当はねー、君が大人になってから素敵な女性と出会えたり、宝くじに少しばかり当たったり、少しずつ良いことがあるはずだったんだよ」


 まさか俺の未来にそんなことが起きるとは想像もしていなかった。


「だけど、君がこうしてもう一度異世界に来るのは想定外だったの!!だから、あの約束の代わりに、一つ願いを叶えてあげることにしました!!パチパチ」


 自分で宣言して、自分で拍手をしている。

 

「はい、ということで願いをどうぞ!!」


「……」


 俺は考える。


「もしもーし、聞こえてますかー?」


「……」


 俺の頭に様々な考えが浮かんでくる。

 そして一つの答えを見つけた。


「この世界を見てまわりたい」


 俺が導き出した答えはこれひとつだ。

 俺が一度救い、そしてもう一度救ったこの世界が今どうなっているのかを知りたくなった。


「そんな願いでいいの?」

「えぇ、俺にはそれで充分です」


 いや、それこそが俺の唯一の願いだ。


「僕がもしあの時に戻っても、きっと同じ選択肢を取ると思います」


 そうだ、俺は後悔はしていない。

 魔王を倒し、その褒美として元の世界に戻れたことを。


 だけど今、俺は別の選択肢を取るチャンスを得た。


「俺が魔王を倒してから、どれくらいの年月が過ぎたのかは分かりません。かつての仲間たちがどうなったのかもしれません。それでも、俺は見たいのです。自分が守った世界を」


 俺ははっきりと、そして力強く伝えた。


「そうね。私もそれがいいと思うわ!!あなたはこの世界の勇者……ううん、元勇者!!あなたが守ったこの世界、存分に楽しんできなさい!!」


 今日一番の笑顔で女神様は両手を前に出した。

 同時に俺の足元に魔法陣が現れた。


「言っとくけど、今のあなたにはかつてのような力は残っていないわ。さっきの戦いで、残ってた魔力全部使っちゃうんだもん。私の後輩からもらった力もあるようだけど、それだけに頼らないことね!!」

「忠告ありがとうございます」

「まぁ、昔のように仲間でも集めて旅をするといいわ!!私はその旅を面白おかしく見守ってるから!!」


「それじゃあ、楽しんでね!!」


 女神様のとても楽しそうな笑顔を最後に、俺の視界は真っ白な世界に包まれた。

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