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1-4 勇者として

 何度も夢に見た。

 決して忘れることはなかった。

 全ての重圧を背負い戦い抜いた。

 天まで届いたその一撃は確かに奴を切り裂き、トドメを刺した。



---



 二度目の異世界転移は、暗闇のダンジョンから始まった。

 暗闇の中、俺は一度目の異世界の魔法が使えることに気がついた。

 微かに違和感を感じたが、そういうものだと納得した。


 だが俺は目の前の光景を見て確信した。

 今いる世界は、一度目の異世界と同じなのだと。


 圧倒的な負のオーラを放つその人物は、見た目が人に近いだけでその本質は魔物に近い。


 かつて俺が倒し、この世界から消え去ったはずの「魔王」が今俺の目の前にいる。


「なぜお前がここにいる」


 前へと踏み出した俺の足はその声を聞いて踏みとどまる。

 魔王はこちらに背を向けていた。

 だが当然のように俺の気配に気がついた。


「それはこっちのセリフだ」


 俺は魔王の言葉に強気に返す。

 魔王はゆっくりとこちらに振り返った。

 大きさは約3メートルほど。

 俺が倒した時とその姿は変わらない。

 青みがかった肌に、額から生える日本の角。

 全身を黒いマントのようなもので包んだその姿は、紛れもない魔王そのものである。


「我は死んだはずだ」

「そうだ、俺が殺した」


 俺は魔王と睨み合いながら会話を続ける

 口は軽く動かしているが、目は魔王の動きを正確に捉えて、いつでも対応できるように準備している。


「あれからどれくらいの年月が過ぎた?」

「さぁな」


 魔王の問いからしてやはりここは前と同じ世界なのだろう。


「お前は本当にあの勇者なのか?」

「あぁ、そうだ。俺が勇者アルトだ」


 先ほどまでとは違い、俺の意識は完全にあの頃と一致している。

 勇者アルト、その人格が再び俺を形成している。


「随分と弱くなったな」

「くっ、」


 魔王の見下すような視線が全身に突き刺さる。

 心はあの時と同じ勇者アルトだ。

 だが体は、ただの小林在音である。


「まあよい、我は再び世界をこの手におさめる」

「させると思うか」

「今のお前に何ができる?」

「お前を倒せる」

「ならやってみろ」


 魔王はそう言うや否や、左手から風の鎌を飛ばしてきた。

 魔王の動きを全力で警戒していた俺は、横に飛ぶことでかろうじて攻撃を避けた。

 ほとんどノーモーション、そして当たり前のように無詠唱での魔法行使。

 目の前の魔王は以前と変わらぬ力を持っているようだ。

 そに比べて俺は、身体強化無しではまともに使えない体、いつまで続くか分からない魔力……劣勢である。

 

「アクアカッター」


 俺は魔王に向けて水の刃を飛ばす。

 魔王はそれを見てから炎の渦で俺の魔法を消し去った。

 俺も魔法の詠唱を短縮しているが、無詠唱とまではいかない。

 どうしても発動時間に差が生まれてしまう。


「一度は我を倒した勇者がそんな力しか出せないとは」


 魔王は笑みを浮かべ、まるで赤子を遊ぶかのようにこちらに魔法を飛ばしてくる。

 俺は身体強化を使い、己の勘を信じてギリギリと魔法を回避し続ける。

 だがその先を魔王は読んでくる。


 俺の回避先に置かれた闇の玉が弾け、鋭く鋭利な針となって俺の肩を貫いた。


「グッ」


 俺は強烈な痛みに片膝をついた。

 以前の俺ならこの程度何ともなく戦えたはずだ。


 いや違う。

 決してあの時俺は一人で魔王に勝てたわけではない。


「弱くなったな」

「お前もな」

「面白い冗談を言うな」


 俺は確信した。

 確かに魔王は全力で攻撃を仕掛けていない。

 だが、おそらく全盛期の力を引き出せているわけではない。

 俺がこうして生きているのが何よりの証拠だ。


「俺は勇者アルトだ」

「だからなんだ?」

「お前にはこの意味がわからねぇよ」


 俺は勇者アルトだ。

 この世界の期待を背負い戦い続けた男だ。

 絶対に負けられない男だ。

 

 その思いが全身を伝い、身体中が熱くなっていく。

 俺は出血の止まらない左肩に右手を添えた。


「ヒーリングライト」


 暖かな光に包まれ左肩の出血は止まった。


「リンみたいに全身回復はできないか」


 俺は再び立ち上がる。

 全身の痛みは残っている。

 それでも俺に託された使命が、思いが俺を前へと進ませる。


「俺がお前を倒す」


限界到達点オーバーリミット


 俺に与えられた能力。

 この世界を救うための力。

 なら出し惜しみは無しだ。


 体から魔力が溢れる。

 自身の反射神経が研ぎ澄まされていく。

 体は軽く、全身が作り替えられたようだ。


 あぁ、懐かしい感覚だ。

 俺は勇者だ。


「なっ、なんだその力は……まるであの時の」


 俺の体から溢れる魔力を見て魔王は一歩後ろに引いた。

 

 俺はここでひとつ確信した。

 自身の体から溢れる魔力の源の存在に。

 これは一度目の能力である「魔力貯蓄チャージ」の力だ。

 おそらく、同じ異世界に転移させられた影響で俺の体にはこの力が残っていたのだろう。

 だが、未完成の器ではその力を引き出すことができず、最低限の魔力出力しか出せなかった。

 

 そして今、「限界到達点オーバーリミット」によって自身の最大限の力を引き出した俺は、たまに溜め込まれた魔力を全て引き出すことができる。


「クリエイト」


 俺は地面に手をつき、一本の剣を創造した。

 材質は床と同じ石だが、俺の魔力を纏わせれば決して折れない剣になる。


「インフェルノ」


 魔王が放った無数の闇の玉を地獄の業火で焼き払う。

 今の俺なら、魔王の動き全てを捉えることができる。


「アクアランス」

「サイクロン」

「タイタンウォール」


 俺は魔王の魔法を全て相殺していく。

 水の槍が飛び、竜巻が起こり、土の壁が生える。

 とてもこの世のものとは思えない光景が広がっている。


「なぜだ、なぜ、我の攻撃が通じない!!」


 魔王は苛立ちの表情を見せている。

 

「闇より深く、」


 ここで魔王が詠唱を始める。

 今までの無詠唱とは違い、この魔法は詠唱が必要なのだ。

 それ故に、これは魔王の秘技。

 俺も聞き馴染みのある詠唱を耳で捉え、すぐに行動を開始する。

 俺にも残された時間は少ない。

 次の一撃がこの勝負を決める。


「エンチャント:サンダー」


 俺は剣に雷の力を付与する。

 これは俺が最も愛用し、磨いてきた技だ。

 そして、魔王を倒した技だ。


「全てを深淵に」


 魔王の魔法が完成するのと同時に俺は前へと飛び出す。

 魔王との距離を一瞬にして詰め、懐へと飛び込んだ。


「ダークマター」


 上から黒が迫ってくる。

 黒としか表現できないそれは、全てを飲み込む闇である。

 ひとたび飲みこまれてしまえば、即死は免れない。


 俺は全ての魔力を剣へと纏わせる。

 雷を纏った剣は眩い光を放つ。


「天雷」


 俺の振り上げた剣は全てを切り裂いた。

 闇を、魔王を、そして天を。


「グハッ、我は再び負けたのか」

「あぁ、ここでおしまいだ。お前も、俺も」


 俺は全身の力が抜け、両膝から地面に崩れ落ちた。

 目の前の魔王が塵となって消えたのを見届けると、俺は地面へと体を預けた。

 床の冷たさが体に伝わる。

 もう体は動かせそうにない。

 未完成の器で、あれだけの力を引き出した反動なのだろう。

 それに先ほどの一撃で俺の魔力は全てなくなってしまった。

 どれほど溜め込まれていたかは分からないが、魔王を倒すだけの力が残っていて助かった。

 

 俺の一撃は天まで届いた。

 既に天井の一部は崩れ始めている。

 あと数分でここは瓦礫に埋まるだろう。


「終わりだな」


 長い戦いだった。

 いや、短い戦いだった。

 小林在音と勇者アルトが混ざり合ってよく分からなくなっている。

 

 この世界はどうなっているのだろうか。

 

 消えかけた意識の中で俺はそんな疑問が頭に浮かんだ。


 この世界は俺が前に過ごした異世界だ。

 俺がいなくなってからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 ザックとリンはまだ生きてるのか?

 レイは多分生きてるだろうな。

 魔王が再び現れた影響は無いのか?

 世界は平和になったのか?


「あぁ、死にたく無いな」


 俺は残された力を振り絞って地面を這う。

 正直残された力なんてものはない。

 俺が今振り絞っているのは生きたいという思いだけだ。


「あっ、死んだわ」


 頭上から落ちてきた岩を見て俺は自分の死を確信した。

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