2-9 十日間
「こちらで間違いありませんか?」
俺はひったくり犯から取り返したカバンを持ち主の女性へと返した。
カバンを受け取った女性にはすごく感謝された。
「よーし、これで一件落着だな」
少し離れた場所で待っていたゼインが気軽に声をかけてきた。
彼に対しては最初に抱いていた印象から大きく変化している。
強面だが、爽やかな印象を持つ青年といった感じだ。
「それにしても王都は物騒になってるな」
「そうなのか?」
おそらゼインは俺と同い年かほんの少し下だろう。
彼の話し方からして、こちらも少し砕けた感じでいいだろう。
「あぁ、俺は何度か王都に来たことがあるが、こんなに物騒な王都は初めてだぜ」
「理由は……「「勇者選定の儀式」」
俺とゼインの声が重なった。
「なんだ、気が付いてたのか」
「まぁ、それぐらいしか考えられないからな。今王都には多くの人が集まっている。そういう者たちが多くいても不思議ではない」
勇者選定の儀式は街の代表、冒険者協会の中で選ばれた者たちしか参加できない。
だがそのことを全員が知っているとは限らない。
勇者選定の儀式という話だけが広まり続け、力自慢な者たちが多くこの街に集まっている。
それが治安悪化につながっているのだろう。
「ところでアルトは勇者選定の儀式には出るのか?」
「ん?出ないけど」
「なんだ、もったいねーな」
「いや、俺なんかが出てもどうしようもないだろう」
俺はゼインの言葉に軽く返す。
「そうか、つまんねーな」
「ゼインは出るのか?」
「あぁ、こう見えても俺はAランク冒険者だからな」
ゼインを始めてみたときからただものではない実力者だと感じていたが、まさか儀式に出る人物だとは思っていなかった。
この世界に来てから初めて出会うAランク冒険者。
おそらくこの世界の確かな上澄み。
「若いのにすごいな」
「天才だからな」
実力に裏付けられた確かな自信。
やはりこの儀式はユリにとって一筋縄ではいかないものになるだろう。
「賭けるなら俺にすることをお勧めするぜ」
「賭けがあるのか?」
「おっと、これはまだ公になってない情報だったな」
ゼインはしまったという顔でそっぽを向いた。
どうやら出場者だけに知らされている情報のようだ。
「悪いが、賭けがあっても俺はお前には入れないぞ」
「なんだよ、他にも賭け先でもあるのか?」
「あぁ、俺の連れが儀式に出る」
「へぇー、そうか。アルトの連れなら楽しめそうだな」
「ゼイン、油断していると足元すくわれるぜ」
「はっ、おもしろい!!」
俺はゼインとバチバチに視線を交わした。
「楽しみにしてるぜ!!」
ゼインはその言葉だけを残し、離れていった。
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「アルトさーん!!」
ユリと別れてから一時間半、王城の前で待っていたところにユリが駆け寄ってきた。
一人で周囲を散策し、三十分ほど前からこの場所で待っていた。
「問題なく参加できたか?」
「はい!!バッチリです!!」
ユリは満面の笑みで俺に向けて親指を突き上げた。
夕日に照らされ、彼女の金髪がより一層輝いて見える。
「よし、それなら早めに宿を取って夕食を取りに行こう」
「わかりました!!」
俺とユリは日が落ち始めた王都で宿を探すことにした。
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王都という街は少し特殊な形を成している。
まず、王都の中心には王城が建っている。
名前の通り王族が住む城である。
その王城を囲うように、富裕層のエリア、庶民のエリアへと広がっている。
行き来は自由だが、住み分けはされているといった感じだ。
「王都でも安めの宿があるもんだなー」
「そうですね、ここの区画ならそれほどほかの街と変わらないと思います」
俺は勝手に王都は様々な相場が高いという考えを持っていた。
だが実際は、他の街とそんな大差はない。
これはうれしい誤算である。
「王都はいい街ですね。ご飯もおいしいです」
俺とユリは宿を決めてから、近くの店で夕食を取っている。
ここ最近は旅のご飯だったため、よりいっそうこの店のご飯がおいしく感じる。
いや、それを抜きにしてもこの店の料理はかなりおいしい。
やはり王都なだけあるようだ。
「勇者選定の儀式の手続きは問題なく行えたか?」
「はい、無事にバージの街の代表として認められました」
「儀式について詳しいことを聞いてもいいか?」
「もちろんです!!」
ユリは一度水を飲みこんで話を続けた。
「勇者選定の儀式は今から十日後に行われます。場所は街の東にある闘技場です」
闘技場、確か千年前にも似たようなものがあった気がする。
「参加者についての告知は五日後に行われるそうです。私もまだどのような人が参加するかは分かりません。ただ30人ほどが参加すると聞きました」
30人、街の数と10人ほどの冒険者が加わった人数だろう。
そしてその一人はゼインだ。
「一対一で戦い勝者が次に進みます。そして最後まで勝ち進んだ者が新たな勇者となるそうです」
「実際に戦うのは危険すぎないか?」
この儀式に参加するのは全員が強者である。
そんな者たちが本気で激突したら、無事では済まないことになるだろう。
「そこは問題ないそうです。自身の傷を肩代わりさせる魔道具を使うことで、傷を負わずに戦うことができるみたいです」
「それは便利な魔道具だな」
要は本気の模擬戦が行えるということだ。
「アルトさん、私はこの勇者選考の儀式に向けてもう一回り強くなりたいと考えています」
ユリとは王都までの旅の間、合間の時間を活用して魔法の練習などを行った。
だが移動時間が多く、正直まとまった時間が取れてはいない。
「ここから十日間稽古の方をお願いできますか?」
「あぁ、もちろんだ。俺も少しづつだが昔の感覚を取り戻しつつある。これから新たな脅威に立ち向かうためにも、素の力で戦えるようになっておきたい。こちらからも特訓をお願いしたい」
俺は今、一分間の制限付きの力で戦っている。
魔力の消費が極端に多いという体質は改善しようがないが、少しずつ戦える体に戻りつつある。
あのころまでとは言わないが、最低限の力は身につけておきたい。
「それじゃ早速明日から頑張ろう!!」
「はい!!」
残された時間は十日間。
俺は必ずユリを一段階上へと引き上げて見せる。




