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2-8 王都の出会い2

 忍者について説明しよう。

 いや、忍者については多くの人が知っているだろう。

 だがそれは「日本」における忍者である。


 ここでは「この世界」における忍者について説明しよう。

 忍者、正確には彼らは忍びと呼ばれる組織である。

 忍びは王族の懐刀で、さまざまな任務をこなしている。

 才能のある子供に、王族が支援することで最高峰の教育を受けさせる。

 そして、忍びを作り出すのだ。

 忍びの歴史は長く、千年前の戦いの中で生まれてから今日まで続いている。

 

 これがこの世界における忍びについての説明である。

 さて、どうして俺はこんなに忍びについて詳しいのでしょうか?


 そう、俺が忍びをつくったからである。


「どうして私の存在がばれているのかな?」


 目の前の少女、いや忍びなら年齢不詳のため外見はあてにならないだろう。

 とりあえず女性として扱っておこう。

 俺はこの女性の問いに対して何と答えるのか悩んでいる。

 おそらく、この忍びは王都の警備の一端を担っているのだろう。

 そんな忍びに目を付けられて良いことなど一つもない。

 だから、決して俺が忍びをつくったなんて言うことができない。


「あー、エルフ族ね」


 忍びの女性はユリに視線を向けてどこか納得したような表情をした。

 俺はその考えを完全に理解した。

 そして理解したのは俺だけではない。


「私が忍者について知ったのは祖母に聞いたからです。そしてこの人には私が話しました」


 ユリが忍びについて知ったきっかけはおそらく今話した通りだろう。

 だが、後半の補足は俺の存在を怪しませないためだ。


「ふーん、そういうこと」


 まるで何かを見極めるかのような、鋭くまとわりつく蛇のような視線が忍びから向けられる。


「私たちは、この国の方々の味方ですから。悪さを働かない人には何も危害を加えませんよ」

「よかったです」

「恋人に人気なのは東にある誓いの鐘ですよ」

「そ、そうなんですね」

「おや?二人は恋人ではないのですか?」

「こ、恋人ですよー!!ねぇー?」

「あぁ、もちろん恋人だ」


 俺はユリの演技に合わせて、彼女の体を近くへと引き寄せた。

 一瞬ユリの体が硬直したがすぐに自然な感じに合わせてくれた。


「……噓ですね」


 一瞬和やかになった空気が再び張り詰める。

 忍びの目つき一つで場をこれだけコントロールできるのだから恐ろしい。


「まぁいいでしょう。特に悪い点もありませんので、この場はこの者たちを回収するだけにしておきましょう」


 そう言いながら忍びはチンピラ三人組の方へと振り返る。


 その瞬間、


 俺はとっさにユリの前に手を伸ばした。


「本当に何者ですか?」


 忍びは顔だけこちらに向けながら、疑問をはらんだ声色で話を続ける。


「えっ?」

「エルフの方は全く反応できていなかった。いや、実際に行動していたら躱されていたかもしれない。それほどの実力者です」


「だが、あなたはいったい何者ですか?私が放ったのはほんのわずかな殺気、予備動作の一つも見せていない。それなのにあなたは、私が次にとるであろう行動への完璧な対処に動いた。見たところ、たいした実力者には見えません。ですが、あなたがこの場で放つ存在感、私が現れてからすべての行動を見通すかのような視線、こんな経験ははじめです」

「あ、アルトさんは悪い人ではありません!!」

「……正直、私の勘がただものではないと言っているが、これ以上関わるのも面倒ですね。名前は覚えましたよ、アルトさん」

「あっ、」


 ユリが思わず俺の名前を口にしてしまったことに気が付き、両手を口に当てた。

 そんな動作が行われる頃にはもう、忍びの女性の姿は消えていた。



---



「それでは私はこの信書を届けてきますね」

「俺は少しここら辺を散策してるよ」

「分かりました」


 忍びとひと悶着あった後、なんとか王城の近くまでたどり着くことができた。

 ユリはバージの代表として信書を預かっているため、それを衛兵に届けに向かった。

 おそらくそれなりに時間がかかるだろう。

 俺はその時間を活用して少し王都の散策を行うことにした。

 王城の付近はこの街の中心であり、最も栄えている場所だ。


「さて、どこから見るかなー」


 今までの街と違い、この場所には露店のようなものはない。

 整理された美しい通りには、建物に入った店が並んでいる。

 

「それにしても千年か」


 俺はこの世界に来てから何度も時の流れを実感した。

 それでもこうしてなじみ深い場所に来ると、より強く時の流れを実感する。


 王都における大きな通りの位置などは昔から変化していない。

 それでも、建物や道、水路、様々な設備など大きく変化している。

 特に、周囲のいたるところに感じる魔力に千年間の技術の進歩が現れている。

 この千年間で最も発達した技術は、魔道具だと言われている。

 実際、千年前はほとんど普及していなかった魔道具だが、今では多くの人が日用的に愛用している。

 武器に関しては、それなりに値段もするためまだまだではあるが、その他の分野での普及率はすさまじいものである。

 俺も王都までの旅の間で様々な魔道具にお世話になった。

 そのなかでもお気に入りなのは、一瞬で体を清潔にしてくれる魔道具である。

 あれは長期間の旅には必要不可欠なものだと思う。


 そんな魔道具が、おそらくこの王都中で利用されている。

 それはここで使用されている魔道具などという小さな話ではなく、街全体で使われているという大きな話である。

 そもそも、日常使いするような魔道具から感じる魔力はほんの微々たるものである。

 これだけ多くの人がいれば、魔力の流れを見ることなど不可能に近い。

 俺が感じとった魔力はもっと大きなもので、道路や建物の壁などあらゆる場所に存在している。

 ちまり、この街自体が大きな魔道具のようなものであるのだ。


「さて、そこに行ったものかなぁー」


 俺は目的もなく、面白そうなものを探して曲がり角を曲がった。

 

「ひったくりよーー!!」


 曲がった先の視界に最初に飛び込んできたのは、地面に倒れこんでいる女性とその少し先を全力で走っている男の姿だった。

 女性の叫び声、そして状況的にあの男がひったくり犯で間違いないだろう。

 いったいいつから王都はこんなにも治安が悪くなってしまったのだろうか。


「大丈夫ですか?」


 俺はすぐに倒れている女性に近づいた。

 身なりもよく、いかにもお金を持っていそうな女性である。


「私のバックが」

「取り返します!!」


 俺は女性の発言を聞き、すぐにひったくり犯へと視線を移す。

 正直魔法で氷漬けにできる距離だが、こんな人のある往来で派手な魔法を使ったら必ずめんどくさいことになる。

 ただでさえあの忍びに目を付けられているのだ。


「フィジカルブースト」


 俺は自身への身体強化だけを発動し、ひったくり犯を追うことにした。

 幸いひったくり犯はそこまでの速さではない。

 俺も怪しまれない程度の身体強化で追いつくことができる。


「っと、そう簡単にはいかないか」


 男は通りから脇道へと逃走ルートを変えた。

 俺もすぐにその脇道へと入る。

 脇道の先には、男以外にも誰かがいた。

 

 危ない


 俺が叫ぼうとした瞬間、男の体が宙へと投げ出された。

 

「まったく、何の騒ぎだ?」


 ひったくり犯を吹き飛ばしたのは間違いなく目の前の男である。

 ひったくり犯が道をふさいでいた男を吹き飛ばそうと手を伸ばした瞬間、男は一歩前へと踏み込み、そのまま腹へと拳をねじ込んだ。

 俊敏な動き、そして確かなパワーである。


「それでこれはいったいどういう状況だ?」


 赤い髪を立ち上げ、ほほに大きな傷を持つ非常に体格の良い男が俺に迫ってきた。

 正直言って、あのチンピラ三人組とは比較できないほど怖い見た目だ。


「その人はひったくり犯で、俺はそれを追いかけてきました」

「そういうことか。チッ、最近は王都も物騒になってきやがった」


 そうやら怖いの見た目だけで、俺の話を聞いてくれる程度には優しいようだ。


「おい、とりあえずひったくった物を返しに行くぞ」

「そのカバンです」

「これか……けっこうなものが入ってるじゃねえか。ほらよ」


 男は一瞬カバンの中身を確認して、俺へと投げ渡してきた。

 

「俺はゼインだ」

「俺はアルトです」

「そうか、アルトか。なかなかいい動きだったぜ!!」


 先ほどまで怖いと感じた彼の顔が、爽やかに笑った。

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