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2-5 ドラゴンフルーツ

 バージの街を出て四日。

 旅は順調に進み、次の目的地であったドロントにたどり着いた。

 ドロントはバージと比べ一回り、いや二回りは小さな街である。

 だが、各地域への物流の拠点として機能しており、多くの商人・商品が集まる街である。

 俺とユリはバージからここまでの道で何度も商人と出会っている。

 そのほとんどがドロントからの商人である。


「この街はすごいですね」

「ユリはこの街を通っていないのか?」

「はい、私は別の道でバージに行きましたから。こんなに楽しそうな街なら寄るべきでしたね」

「いや、俺はこうして二人で初めてこの街を訪れることができて良かったよ」

「そ、そうですね」


 どこか照れ臭そうに俺とユリの会話は途切れた。


 それにしてもこの街は非常に面白い。

 右を見ても左を見ても、目新しいものが広がっている。

 通りに出れば、左右の道には多くの露店が立ち並び、せわしなく声が飛び交っている。

 

 だが残念だが、今日の目的は違う。

 あまりここで時間は……


「……見ていくか」

「はい!!」


 俺はユリの好奇心にあふれた目を見て少し露店を見ていくことにした。

 まぁ、当初の予定より少し早くついているため問題はないだろう。


「アルトさんは気になるものはありますか?」

「んー、浦島太郎状態の俺にはすべてが気になるところだが」

「浦島太郎?」

「気が付いたらものすごい年を取っていたお爺ちゃんだよ」

「そ、そんな人が!?」


 軽くユリをからかいながら俺は周囲に目を向ける。

 露店の種類は様々だが、多く売られているのは小道具である。

 骨董品のようなものも見られるが、正直あまり興味はわいてこない。


「ん?」


 そんな中、俺は一つの露店に並べられているものに目が惹かれた。


「あれは……」

「どうかしましたか?」

「あぁ、少し面白いものを見つけた」


 俺はユリを連れ、目当てのものが置かれた露店へと向かった。


「ここは、果物屋ですか?」


 その通り。

 俺がユリを連れてきたのは、大小様々、色とりどりの果物が並ぶ露店である。

 そしてその果物たちの中から俺は一つの果物を取り上げる。


「お客さんお目が高い!!それは珍味で有名なドラゴンフルーツだよ!!」

「ドラゴンフルーツ?」


 ユリはこの果物を初めて見るようだ。

 ドラゴンフルーツと呼ばれたそれは、地球の人が想像する皮が赤くて、白い果肉に黒いつぶつぶの果物ではない。

 半分が黄緑、半分が水色と奇妙な色をした丸い果物がこの世界におけるドラゴンフルーツである。


「これを二つお願いします」

「まいど!!」


 俺はドラゴンフルーツを二つ購入した。

 

「えーと、珍味なんですよね?」

「確かにあの店主はそう言っていたな。だけどそれは、本当の食べ方を知らないだけだ」

「本当の食べ方?」

「この果物はそのまま食べると、確かに雑味のある味だが、とある方法を使うと急激に甘みが増すんだ」


 俺は手元の二つの果実のうち一つをそのまま二つに割った。

 表面の色はきれいに二色に分かれているが、中身はどこを食べても同じ味である。

 俺は二つに分かれた果実の片方をユリに渡した。


「まずはそののままの味だな」


 俺は勢いよくドラゴンフルーツにかぶりついた。

 渋くて、やや苦みがある大雑把な味が口の中に広がる。

 決して不味いわけではないが、やはり珍味といえる味である。

 俺と同じようにドラゴンフルーツを口にしたユリもどこか渋みに耐える表情をしている。

 

「おいしくないだろ?」

「はい、正直に言って……」

「正直だな」


 かわいそうに。

 この果物は自身のポテンシャルを引き出されないまま、多くの人に珍味だと思われてきたのだろう。

 俺が必ず救ってやるからな!!


「この果物をおいしく食べるには、特別な工程が必要になる」


 俺は手元に残ったドラゴンフルーツを空中に放り投げる。


「リトルファイア」

「アイスボール」


 俺は同時に二つの魔法を発動する。

 あくまでも人が多くいる場所なので、威力は必要最低限にしている。

 二つの魔法は同時に果物へと向かい、炎は黄緑色の部分に、氷は水色の部分に当たった。

 

「はい、これで完成!!」

「えーと、今のがこの果物をおいしくする方法ですか?」

「その通り!!食べてみな」


 俺はドラゴンフルーツを二つに分けて、ユリに片方を分けた。

 ユリは一瞬不安そうな顔をしたが、すぐに思い切ってかぶりついた。

 

「ん!?」


 ユリの表情が180度変化した。

 不安が顔から取れ、ほっぺたが落ちそうな幸せな表情をしている。


「おいしいだろ?」

「はい!!」


 俺はユリの幸せそうな表情を見て、勢いよくドラゴンフルーツにかぶりついた。

 途端に口に広がる甘味。

 舌だけではない、体中に幸福感が伝わっていく。


「アルトさん……」

「ん?」

「この果物は確かにとても美味しいですけど……」

「けど?」

「こんな方法使える人はほとんどいないですよ」

「あっ、」


 言われてみれば確かにである。

 ドラゴンフルーツをおいしくいただくには、炎と氷の魔法を同時に扱えなければいけない。

 それはこの時代においては、普遍的な技術とは言えないだろう。


「でも、ユリならなんとかなるよね」

「確かに私なら……そもそも、この特別な工程をよく知っていましたね」

「それはだな……」


 俺はためをつくり、


「この果物に名前を付けたのは俺だからだ」

「そ、そうなんですか!?」


 ユリもまさかの答えに驚きの表情を見せている。

 果物の名付け親がまさか目の前にいるとは思っていなかったのだろう。

 いや、想像することなんて不可能である。


 ドラゴンフルーツは俺が勇者の旅をしている最中に見つけたものである。

 森の中で魔物と戦闘をしていて、偶然俺の炎魔法とレイの氷魔法が果実にぶつかったのが発見のきっかけである。

 その時戦っていた魔物がドラゴンであったため、勢いでドラゴンフルーツと名付けたのだ。

 名前は残ったが、具体的な食べ方は技術と共に失われてしまったのだろう。


「アルトさんと旅をしていると、私の知らないことがたくさん出てきますね」

「ふつうは逆だけどな」

「ふふ、そうですね。私たちエルフ族は長命ですから、エルフ族と旅をする人はその知識に驚かされるかもしれませんね」

「俺の知識はユリがこれからの長い人生で伝えてくれるから、俺も実質エルフ族みたいなもんだな」

「なんですかそれ」


 俺とユリはくだらない会話を広げながら、ドロントの露店を楽しんだ。

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