2-4 旅立ち
「よし、行くか!!」
「はい!!」
俺は荷物の整理を終え、ユリと共に宿を出る。
カラッと晴れたいい朝である。
昨晩は雨が降り天気も怪しかったが、出発を晴天で迎えることができ幸先が良い。
勇者選定の儀式について俺は昨日ユリと話し合った。
バージの領主が持つ推薦の権利についての話だ。
そして話し合いの結果、ユリは快く勇者選定の儀式への参加を決めてくれた。
本人も成長の場として考えているようだ。
まぁ、勢いのまま勇者になってくれてもいいのだが。
ユリが勇者になれば俺もかなり楽である。
彼女の成長を見守りながら、俺も元勇者として新しい勇者の補佐ができる。
現実的に考えて、ユリが勇者になるのが一番良い気がしてくる。
「ユリ、勇者にならないか?」
「ふふ、それもいいですね。ですが、私では実力不足です。私はまだアルトさんのように強くありません」
「んー、そういうもんか」
良くも悪くも、ユリの中では勇者に対して基準ができてしまっている。
俺としては、勇者が完璧に強い存在である必要はないと思う。
俺自身も、勇者になりたては本当に弱い存在だった。
確かに才能はあったかもしれないが、そこから努力したことであの強さを手に入れたのだと思う。
実際、身体能力が落ち、魔力効率も落ちた今でも、瞬間的には当時に近い動きができたり、魔法の質はあまり変化していない。
これは俺の努力を技術として覚えているからだろう。
だから新しい勇者も、少しずつ成長していけば良いと思う。
それこそ、ユリのように。
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「ん?あれは……」
出発地点である東門まであと少しというところで、俺は前方の見覚えのある人影に気がついた。
どうやらそれはこちらに向かって手を振っているようだ。
「アルトさーん!!」
まだそこそこ距離があるのに大きな声が響いてきた。
それなりに賑わってきたとはいえ、まだ朝なのだからもう少し静かにした方がいいだろう。
そんなことを思いつつも、俺の顔には笑みが浮かんでいた。
「別れは二日前に済ませたはずだけど?」
「まさか、あれでサヨナラはないでしょ」
「そうですよ」
「きちんと見送らせてください」
「とてもお世話になりましたから」
アルス、レオン、シータ、ギルの四人が揃って俺を待っていた。
出発について詳しいことは伝えてなかったはずだが、おそらくユリが伝えたのだろう。
「アルトさん、私たちがEランクになれたのは、あの戦いを生き残れたのはあなたのおかげです」
「アルスたちの努力の賜物だよ」
「ふふ、ありがとうございます。これは、私たちからのほんの気持ちです」
そう言うとアルスは何やら小さな指輪を取り出した。
「これは?」
「姿隠しの指輪です」
見た目と名前からして魔道具のようだ。
「短時間ですが、自身の姿を他人から認識しづらくする効果を発動できます」
「えっと、魔道具ってかなり高価だよね?」
「今回の戦いの報酬を出し合って買いました」
「そうか……ありがとう!!大切に使わせてもらう!!」
この街の魔道具屋で魔道具の相場はある程度把握した。
おそらくこの指輪は、彼ら四人の今回の報酬だけでは買えないだろう。
俺と共に狩ったゴブリンの討伐報酬も含めて買ったのだろう。
彼らの思い、大切に受け取ろう。
「俺たちは必ず強くなるぜ!!」
「あぁ、またどこかで会った時は冒険の話を聞かせてくれ」
「楽しみにしていてくださいね」
「またな!!」
旅に別れはつきものだ。
以前の俺には、別れたものと再び会う機会は無かった。
だが今回は違う。
おそらく彼らとも再開できるだろう。
別れとは寂しいものではない。
次会う日を想う、期待に溢れた時間である。
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「また二人になったな」
「そうですね」
バージにいた時間は長くはない。
だけど、とても濃く賑やかな時間だった。
俺とユリが二人で過ごす時間の方が、大勢で過ごす時間より短かっただろう。
不思議な感じだ。
「王都まではここから約三週間。勇者選定の儀式には間に合いそうだな」
「そうですね。焦らずゆっくりと行きましょう」
俺とユリの王都への旅の行程はこうなっている。
今日から四日かけて隣街へ行く。
そこで軽く依頼をこなし、ある程度資金を貯める。
そこからは馬車で王都まで移動する。
全ての日程を合わせて、約三週間。
1ヶ月後に開催される儀式には間に合う計算だ。
「さて、ここから四日間の地味な旅だが……
最初は景気良く行こうか?」
「景気良く?」
ユリが俺の言葉の意味を理解できず首を傾げた。
「使えるようになったんだろ?」
「えーと、何を出すか?」
どうやらまだ分からないようだ。
「エンチャント」
「あっ、はい!!」
彼女はゴブリンエンペラーとの戦いの中で自身にエンチャントをかけることに成功したそうだ。
さらに、剣への氷のエンチャントも成功している。
コツを掴んだとはいえ、やはり驚異的な成長速度だ。
羽以外のエンチャントは正直すぐにできるようになると思っていた。
羽も氷も、他の物体にエンチャントをすると言う行程は変わらないからだ。
だが、自身へのエンチャントはもう少し時間がかかると思っていた。
やはり、他者と自分では感覚が異なるからである。
だがユリは、極限状態を経験することで自身の殻を破り、自身へのエンチャントに成功したのだ。
と、これらの話をやり自身の口から聞いた。
だが、まだ実際に彼女がエンチャントを成功させたところは見ていない。
つまりこれは、シュレディンガーの猫というやつだ。
いや、正確には使い方が違うかもしれないが、雰囲気的にそうというやつだ。
「旅の始まり、パーンと空を飛んで行こうぜ!!」
あまりむやみに魔力を使うようなことはしたくない。
ユリから受け取れるとはいえ、彼女の負担になることは変わらない。
だけど今は、自分の魔力もそれなりに溜まっている。
ほんの少し飛んで移動するくらいなら問題ないだろう。
「アルトの誰でも簡単に飛べる!!飛行解説のコーナー!!」
イェーイ‼︎
キョトンとした顔の百合を横目にコーナーは進んでいく。
「まず始めに、自身に『エンチャント:フェザー』をかけます!!」
俺は視線でユリに真似をするように合図する。
「エンチャント:フェザー」
真っ白な羽がユリの背中に生える。
エンチャントは問題なく使いこなしているようだ。
「次に自身の体を守るために『ウインドコート』これで安全に空中は飛び出し、移動ができます!!」
「風よ、私を守れ『ウインドコート』」
俺とユリの体を風の鎧が包んだ。
「そして、最後は一緒に爆発魔法を!!威力は自分が怪我しないように調整して……」
『エクスプロージョン』
「爆けろ、『エクスプロージョン』」
二つの爆発が同時に起きる。
一瞬にして周囲が砂埃に包まれる。
だが10秒ほどで砂埃は地面へと戻り、視界がクリアになる。
そして、そこには既に二人の姿はない。
「空は気持ちいいだろ?」
「はい!!」
俺はユリと並んで空を飛んでいる。
空というには低く、飛ぶというより滑空に近いが、それでも俺はこれを飛行と言いたい。
人にとって空はロマンだ。
科学技術の発展したあの世界でも、人がこのように飛ぶことは困難だった。
だがこの世界には魔法がある。
魔法はイメージで、自由で、無限の可能性がある。
そんな魔法を心の底から愛して、こんなにも楽しんでいる。
彼女は勇者にはならないだろう。
だけど、別に世界を救うのが勇者である必要はない。
魔法を愛し、魔法に愛された彼女ならこの世界を救うことができるかもしれない。




