2-2 やり残したこと
俺はアルスたちを連れて冒険者協会を訪れた。
バージの街の賑やかさと比べてこの場所はたいへん静かである。
あんな激闘の後だ、誰も依頼など受けたくないだろう。
それに今回の騒動で、冒険者にはそれなりの報酬が出ている。
その報酬を使ってこのお祭り騒動を楽しむ者がほとんどだろう。
「ここでいいか」
俺は冒険者協会の奥の方の席に腰を下ろした。
アルスたち4人も同じように腰を下ろした。
「いろいろと聞きたいことはあるけど、まずはあれを伝えないとな!!」
席についてすぐレオンが笑顔で話を始めた。
そして他の三人と視線を合わせた後、4人がそれぞれの冒険者カードを取り出した。
冒険者カードのランクの欄に目を向けると、そこにはEの文字が記されていた。
「俺たち全員Eランクに昇格したぜ!!」
「おめでとう」
彼らはあの襲撃で上位種を複数倒すという戦果を挙げている。
Dランクにも届く可能性はあるが、あくまでワンランクの昇格にとどめておいたのだろう。
まぁ、妥当な判断だと思う。
彼らは上位種を倒すことができたが、あくまで直前のゴブリンとの戦闘経験が役に立ったに過ぎない。
「あまり調子に乗るなよ」
「分かってるって」
本当にわかっているのかどうか。
とにかく、彼らをEランクにするという当初の目標は達成できた。
これで心置きなくこの街を離れることができるだろう。
「アルトさんはランクが上がらないのですか?」
シータがもっともな質問を投げかけてきた。
「俺は今回正式な形で活躍できなかったからな」
俺は今回の戦いに冒険者アルトとして参加していない。
だから、冒険者ランクの昇格は無い。
森で駆けまわった戦いを報告すればランクは上がるかもしれないが、それはそれで面倒ごとに巻き込まれそうなのでやめておこう。
「さて、本題に入ろうか」
俺の言葉に周囲の空気が変わる。
「……アルトさん」
張り詰めた空気の中、アルスが話を始めた。
「アルトさんは何者……いえ、アルトさんは勇者アルトですか?」
「あぁ、そうだ」
4人の息をのむ声が聞こえた。
薄々気が付いていても、正式に認められるとなると話は別だ。
「それじゃあ、アルトさんはものすごい年寄りなんですか?」
「いや、それは違う」
ギルの純粋な疑問に返事を返す。
「俺の話は知っているよな?」
自分で言っていて少し気恥しいが、そういうものだと受け止めるしかない。
四人は俺の問いに対して同時に首を縦に振った。
千年前の俺の話は、勇者の伝説として今もこの世界で語り継がれている。
「俺は別の世界から来た人間だ。千年前の戦いの後、一度元の世界に戻った。そして今、再びこの世界に戻ってきたというわけだ」
「えっと、それはどうしてですか?」
どうして……
そうだな、俺は一度目も二度目も望んでこの世界に来たわけではない。
だけど、どうしてと尋ねられたのなら、その答えは最初から決まっている。
「もう一度この世界を救うためさ」
正直格好をつけた。
いや、格好つけてなんぼだろ。
勇者とはそういうものだ。
「今この世界には、千年前と異なる脅威が迫っている」
彼らは悪魔については知らない。
ここで情報を増やす必要はないだろう。
「これからこの世界は、想像もつかない未来へと進むかもしれない。俺は、元勇者としてこの世界を救うために精一杯動くつもりだ。だけど、これからの時代は君たちのような次の世代の力が必要だ」
俺は老兵だ。
老兵には老兵の役割がある。
「あぁ、俺は強くなるぜ!!」
「もー、俺じゃなくて俺たちでしょ」
「そうですよ」
「強くなろう」
彼らは強くなる。
きっと、いや絶対。
「勇者が保証する。君たちは強くなるよ!!」
この世界の未来にどのような脅威が待っているか分からない。
だが、それ以上に未来への希望はあふれている。
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「やっぱりユリもランクが上がったか」
「はい、これでようやく高ランク冒険者の仲間入りです!!」
ユリの冒険者ランクはBに上がった。
この世界の人々が今、どれ程の強さを持っているのか分からない。
ユリがBランクが適正だとは思えないが、彼女以上の冒険者が多くいるなら嬉しいことだ。
アルスたちと別れたあと、俺は一日街を探索し、ユリとの待ち合わせに合わせて宿へと戻ってきた。
活気にあふれた街を探索するのはとても楽しかった。
そして、ユリと合流してからは今日一日の出来事を共有した。
ユリの方は領主との会話などで、とても忙しそうであった。
明日は特に予定がないらしいので、ぜひゆっくりして欲しいものである。
「それではまた明日」
「あぁ、また明日な」
話を終え、俺はユリと別れて自分の部屋へと戻った。
「さて、行くか」
俺は部屋の窓を開ける。
心地の良い夜風が体を伝う。
この街は年中を通して、温暖な気候で過ごしやすい。
だが夜は肌寒くなる日もあるため、そこだけには注意が必要だ。
俺はそんな夜風を浴びながら、部屋の窓から外へと飛び出した。
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俺はとある屋敷の屋根に体を下ろす。
例えるなら、闇夜に暗躍する謎の盗賊と言ったところだろうか?
いや、残念。
今日は闇夜ではなく、月光眩い夜である。
そのおかげで、警備に見つからないように苦労したのだ。
「ずいぶん遅い時間に来たな」
「今ならお一人かと思いまして」
俺はなびくカーテン越しに話しかける。
彼の言動からして、俺が訪れるのは予想できていようだ。
「お休みでしたか?」
「いや、今日は風が気持ち良いからな」
彼もこの涼しい夜を楽しんでいたようだ。
「まぁ、入りたまえ」
「失礼します」
俺は窓から部屋の中へと飛び込んだ。
「どうやってここに?」
「警備がしっかりしていましたので、空から」
「ハハハ、それなら仕方がない」
どうやら警備の人たちに責任が向かうことはなさそうだ。
「それじゃあ話を聴こうか」
「はい、領主様」
心地よい夜風がカーテンを動かし、部屋に月光が差し込む。
お互いの顔が見えたところで、俺と領主二人の密談が始まった。




