2-1 王都へ
疲労感がすごい。
目が覚めて最初に抱いた感想がそれである。
正直ここ数日は無理をしすぎたと思っている。
魔力切れるまで森を駆けまわり、とんでもない重症を負い、そしてボロボロの体で悪魔と戦った。
千年前でも、稀にみる高密度な時間だっただろう。
そしてそんな時間を過ごした俺は、バージの街の外れの宿屋で目を覚ましたところである。
昨日のゴブリンたちとの戦い、そして悪魔との戦いは無事に決着した。
いや、無事というには死傷者が多く出すぎてしまった。
俺がもっと動けていれば……そんな後悔が無いことは無いが、やれる限りのことはやったと区切りはつけてある。
正直自分でもドライな人間だと思う。
俺は良くも悪くも、人の死に慣れすぎてしまったのだろう。
とにかく、あの騒動には一件落着といった形で区切りがついた。
だが、一つの問題が派生した。
それは、他でもないとつぜん戦場に現れた謎の男である。
そして、その男こそ……
俺である。
「さてどうしたものか……」
俺は部屋の窓から外を覗いた。
ここは街の外れだが、それでも明るく装飾された家々が目に入る。
この場所でこれなのだから、中心部はすごいことになっているだろう。
そしてこのように派手な街と化している理由の一つは俺にある。
ゴブリンエンペラーという脅威を退け、今街は絶賛お祭りモードである。
さらに、この状況を加速させているのはあの戦いに勇者が参戦したのではないかという噂が回ったことにある。
絶望的な戦場で、未知の魔法や技が使われていたのだ。
勇者という存在にたどり着くのも無理はない。
「アルトさん、起きていますか?」
「あぁ、入ってくれ」
部屋の外からユリの声が聞こえた。
寝起きだった頭も冴えはじめている。
できれば洗顔した顔で会いたかったが、まあ問題はないだろう。
「おはようございます。よく寝れましたか?」
「この通り、ぐっすり眠れたよ」
俺は手を大きく広げて見せた。
「ふふ、元気そうで何よりです」
お互い体に傷は残っている。
それでもこうして気軽に会話ができていることが、元気なことの証明だろう。
ゴブリンエンペラー、そしてラムダと名乗った悪魔との戦いが終わった後、ユリに行き先を伝えてすぐにその場を離れた。
その際に、残りの魔力のほとんどを使い東門と同じようなヒーリングエリアをつくっている。
その魔法の効果もあり、ユリの体調もかなり良いものである。
「街は今勇者の話題で持ちきりですね」
「それが噂じゃないんだから、恐ろしいよ」
「ロイドさんやアルスさんたちは話してないと思いますが」
「まぁ、あれだけ派手にやったんだ。確証がなくても、噂は広まるもんさ」
勇者の話が出ることは正直想定していた。
俺はあの時、それも覚悟して再び勇者として戦場に立った。
だけど、これからどのように立ち回るかは考えがまとまっていない。
一つは、俺が勇者アルトだと認めて、大々的に悪魔の対策を考えていく方法。
もう一つは、勇者アルトの存在は公にはせず、悪魔の対策を進めていく方法。
正直、どちらが正解かは分からない。
だけど、どちらにせよ俺が次に取るべき行動は決めている。
「ユリ、王都に行こう」
「王都ですか?」
旅を始めた時、俺はこの世界の地図を一度見ている。
そこで王都の存在は確認している。
場所は千年前と変わっていない。
俺が勇者として呼び出された場所、それが王都である。
「俺たちが戦った悪魔、あれは明確にこの世界にとっての脅威だ。そして、あの悪魔の言葉からして同様の存在があと12はいるだろう」
13柱、あの悪魔はそう言っていた。
他の12の悪魔がどれほどの存在かは分からないが、今の状態では不味いことはわかる。
「俺の正体を公にするか、秘密にするかはまだ決めかねている。だが、この世界を守るためには力を出し渋るつもりはない。だから、一部の者には俺の存在を伝えておきたい」
今人間の国をまとめている王はどのような人物かはわからない。
だが、王家である以上勇者についてもある程度は知っているはずだ。
俺の存在も上手い具合に扱ってくれるかもしれない。
「分かりました。すぐに準備しますね」
「いや、焦る必要もないだろう。俺もこの街でやり残したことがいくつかある。この街を旅立つのは、二日後の朝にしよう」
「わかりました。私は一度ロベルトさんに呼ばれているので、屋敷の方に向かいますね」
「了解。それじゃあ、夕方にこの宿で再開しよう」
短い間だったが、この街にも愛着が湧いている。
そして、この街で出会った者たちもいる。
彼らにも別れの挨拶を済ませておきたい。
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「それにしても、賑やかだな」
俺は宿を出て街の通りを歩いている。
目的地は冒険者協会である。
今回の騒動で多くの被害が出たが、幸いにも街の中まで被害は到達しなかった。
だからこうして、戦いの決着を祝って祭りのような催しができているのだ。
「なぁ、聞いたか?」
「実は勇者が……」
「いや、ロイドさんが……」
「俺は、謎の美少女エルフって……」
通りを歩いていると様々な声が聞こえてくる。
店への呼び込み、子供たちの声、そして噂話をする声。
今日はとりわけ最後の声が良く聞こえる。
幸いにも、俺の顔はこの街の人に知られていない。
勇者の噂と俺の存在を結びつけられる人物はほとんどいないだろう。
「おばちゃん、串焼き4本!!」
「はいよー」
そして、そんな俺の正体に辿り着く可能性のある人物が四人、俺の目の前で買い物をしている。
「元気そうだなー、レオン」
「ん!?あうとあん、おうしておおに?」
「あぁあぁ、食べるか話すかどっちかにしろ」
食事中に話しかけた俺も悪かったが、レオンももう少し落ち着いた方がいい。
「アルトさんも元気そうですね」
「あぁ、この通りバッチリだ!!」
アルス、レオン、シータ、ギル、四人とも揃っている。
一番重症だったギルも問題なく動けている。
「アルトさん、俺聞きたいことが!!」
「まぁ、そうだよな」
レオンは口に頬張っていた肉を飲み込むと、ものすごい勢いで俺に飛びかかってきた。
「今日はその疑問に答えにきた」
「いいんですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
おそらく俺の正体に気がついていたアルスが心配そうな顔でこちらを伺った。
だけど、すでに彼らには伝えると決めている。
短い時間だったが、彼らとは信頼関係が生まれている。
それに、目の前で力使って見せたのだ。
彼らには聞く権利が当然あるだろう。
「少し場所を変えようか」
俺はアルスたちと一緒にその場を離れ……
「っと、その前に。おばちゃん俺にも一本頼む!!」
「はいよー!!」
せっかく出店が出てるのだ。
俺も存分に満喫してやる。




