1-42 悪魔と勇者
周囲を見渡す。
今二匹のホブゴブリンを仕留めた。
残っているのは、三匹。
「サンダーアロー」
「アクアランス」
二種類の魔法を同時に発動し、別方向に飛ばす。
現在進行形でホブゴブリンと戦い、危険な状況の場所を優先する。
そして俺自身は少し離れた場所にいるゴブリンシャーマンに接近する。
「フィジカルブースト」
遠距離からの魔法ではゴブリンシャーマンに相殺されてしまう。
だが、あいにく俺は剣も使える。
ゴブリンシャーマンの懐に一瞬で潜り込み一撃で仕留めた。
「これで全部だな」
周囲を見渡す限り、ゴブリンは一匹たりとも残っていない。
そもそも、東門には冒険者もあまり配置されていなかったようだ。
見た限り、高ランク冒険者らしき人物は見えない。
その戦力でよく上位種相手に戦い抜いたものだと素直に関心する。
「四人とも無事か?」
俺はアルスたちの所に戻り、声をかける。
「ギルが、私の魔力が切れて」
シータの腕には傷だらけのギルが抱きかかえられていた。
幸いにも命に別状はなさそうである。
それにしても、魔力がなくなるまで戦い続けるなんて……
「強くなったな」
彼らはこの戦場を戦い抜いた。
数日前、まだゴブリンとの戦闘もままならなかった彼らだが、今は上位種と戦えるまでの力を身に着けている。
俺はそのことがとても嬉しかった。
「アルス、魔力はまだ残っているか?」
「はい!!」
「またで悪いが、魔力を分けてもらえるか」
「もちろんです」
俺はアルスの肩に手を置く。
自身の魔力の流れ、そしてアルスの魔力の流れに集中する。
そして、アルスの魔力を自身へと移動させる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
俺はアルスから魔力を受け取った。
そして今受け取った魔力を使い、とある魔法を使用する。
「エンチャント:ヒール」
俺が使うエンチャント魔法は、対象に様々な効果を付与するものだ。
そしてその対象は、生物に限らない。
俺が剣に対して付与を行っているように、物体に対しても付与が可能なのだ。
その方法を活用すれば、
「これは……体が癒されていく」
「ギルの傷も癒えてます」
俺は大地に対してエンチャントを行った。
俺が手をついた場所から半径50mほどのエリアを癒しの大地へと変化させたのだ。
今の俺では、この範囲で「ローヒール」程度の効果しか発揮できない。
「負傷者をこの付近に寝かせれば、ある程度は回復するはずだ」
「アルトさん……」
俺に残された魔力は決して多くない。
だがまだ切り札は残っている。
東門にいなかった以上、あいつは南門にいるはずだ。
あの時、俺が仕留められなかった責任を果たさなければいけない。
この戦いでは、おそらく死者も出ている。
戦場、そして死者は幾度も経験してきたが、決して慣れるものではない。
「俺は南門に向かう。いろいろと聞かれると思うが、いい感じにごまかしといてくれ」
「わかりました」
おそらくアルスは俺の事情にはあらかた気が付いている。
細かいことは、賢い彼女に任せてしまおう。
そしてこの戦いが終わった後、必ずお礼を伝えに行こう。
俺は東門をアルスたちに託し、南門へと向かった。
---
「ユリ」
俺は大切な者の名前を呼ぶ。
南門にたどり着いたとき、事態は極限状態を迎えていた。
冒険者三人がゴブリンエンペラー、そして悪魔に追い詰められていたのだ。
そしてその三人の冒険者の一人は、俺が今この世界で最も大切に思っている存在だった。
そんな彼女に振り下ろされた拳を、俺は剣で跳ね飛ばした。
そしてそのまま、ゴブリンエンペラーの胸に剣を突き立てた。
復活したばかりのゴブリンエンペラーの体は傷だらけで、とどめを刺すのは簡単なことだった。
「頑張ったな」
俺は手を差し出しながら彼女に言葉をかける。
彼女の体は全身ボロボロだ。
自身の体を完全に癒せないほどの、極限の戦いを経験したのだろう。
だから俺は、彼女にこの言葉をかけた。
「うん!!」
涙でぐしょぐしょになった顔で彼女は笑うと、優しく俺の手を握った。
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「それで、お前はいったいなんだ?」
俺は後ろへと振り返る。
そして視線を目の前の人物に向ける。
いや、人物なんて言うのもおかしな話だ。
この世界で人としてまとめられているのは、人間・獣人・エルフである。
つまり、目の前の存在はそのどれでもない、いわば未知の存在である。
「ソレハ、コチラノコトバデスヨ」
「驚いた、言葉が通じるとは」
俺は本当に驚いた。
言葉というものを悪魔が使用していても不思議ではない。
だが、それが俺たちのものと同じであったから驚いたのだ。
「ソレモ、コチラノコトバデスヨ」
「どういうことだ」
俺は悪魔と会話ができている。
だが、今の悪魔の言葉は本来言葉が通じないと言っているようである。
「アルトさん、あれが何を言っているのかわかるのですか?」
「え?」
「私にはあの悪魔が発しているものを、言葉として認識できません」
ユリには悪魔の言葉が理解できていない。
「そういうことか」
ユリの言葉を聞き、俺が悪魔と会話ができた理由に心当たりが生まれた。
俺は別の世界から来た人間だ。
そして、この世界に来た際に言語が自動で翻訳されるようになっている。
すっかり忘れていた能力だ。
能力といっても、異世界転移のおまけのようなものだが。
「どうやらこの中でお前と会話できるのは俺だけみたいだな」
「マサカジゴクノコトバヲハナサレルトハ、ココカラハこちらの言葉で話しましょう」
悪魔の声色が変化した。
「アルトさん、今の言葉は聞き取れました」
「それは、最悪な情報だな」
悪魔は独自の言語だけでなく、俺たちの言語まで扱うことができる。
正直言って最悪の情報だ。
悪用されれば、嫌な想像はいくらでもできる。
「改めまして自己紹介を、私は13柱の11の柱『癒しのラムダ』。どうぞお見知りおきを」
「それは丁寧にどうも」
適当に返事をしながら俺は情報を整理する。
今目の前にいた悪魔は自身を13柱の11の柱だと言った。
つまり、奴ではなく奴らということだ。
千年前の時代でも、悪魔なんてものは空想の世界の存在だった。
いや、俺は実際に女神と接触している。
なら、悪魔が実在していても何ら不思議ではない。
「随分とおしゃべりなんだな」
「えぇ、私は話が好きなんです。死に行くものに、聞かせる話が」
「とても癒しの悪魔とは思えない言葉だな」
奴らの狙いは何だ。
すでにどれだけこの世界に侵食しているかもわからない。
「お前たちの目的はなんだ?」
「目的ですか?それは秘密ですよ」
「お前は話が好きなんじゃなかったか?」
「えぇ、ですがすべてを知らずに死んでいく姿も大変美しいものですよ」
恐ろしいほどに会話が成立する。
魔物のように会話も通じないバケモノならどれほど楽だったが。
だがこんな感覚を抱くのは、初めてではない。
おれは、魔王を通じて……
似ている。
奴の雰囲気は魔王にとても近いものを感じる。
いや、もっと濃い、言うなればオリジナルのような。
「千年前は失敗でした。まさか、神々があんなものをよこすとは想定外でしたから」
あぁ、やっぱりそうか。
「だが、今私たちを止められるものは誰一人としていない」
これは、誰かの戦いではない。
「今、勇者はいないのだから」
これは、俺の戦いだ。
「アルトさん?」
ユリ、あの時俺は自分を元勇者だと言った。
だけど今、この瞬間はもう一度名乗ることを許してほしい。
「おいラムダ」
「なんでしょうか」
「お前は俺が何者か尋ねたな」
「えぇ、あなたの言葉をそっくり返させていただきました。あなたは、私が一度殺したはずです。それなのにどうしてここに?」
「そうだな、そっちが自己紹介したんだ。こっちも自己紹介しないとフェアじゃない」
「フェア?」
「公平って意味の言葉だよ」
俺は一歩前に踏み出す。
今一度、俺はこの名を語ろう。
「俺の名はアルト!!この世界を救うために呼び出された勇者だ!!」
「は?」
俺が告げる魔法は一つ。
これは女神から与えられた勇者の証。
「限界到達点」




