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1-41 目覚め

 夢を見ていた。

 長く、終わることがない夢を。


「いつまで寝てんだ?」


 勇者としてこの世界に来た俺は、仲間と共に旅をしている。

 エルフのレイ、人間のリンとザック。

 三人ともとても頼りになる仲間である。

 勇者として頼りない俺をいつも助けてくれる。


「いつまで……」


 前の世界に後悔がないわけではない。

 それでも、俺はこの世界が大好きだ。


「寝てんだ?」



---



「ザック?」


 俺の視界には知らない天井が広がっている。

 

 俺は勇者で……


 いや、違う。

 俺はアルトだ。

 

 どうやら俺は夢を見ていたようだ。

 懐かしい夢を。

 夢の中で聞こえた声もきっと幻聴なのだろう。


「ここは……」


 俺は体を起こして周囲を見渡す。

 俺が寝ていたのはベットで、どうやらここは寝室のようだ。

 それも、かなり高価な。


「いや、それより」


 俺は直前の出来事を思い出す。

 

 俺は森の中を駆けていた。

 そう、ゴブリンを狩るためだ。

 それもただのゴブリンではない。

 上位種のゴブリンだ。

 そして、ゴブリンエンペラーだ。

 いや、違う。

 あれは、ゴブリンエンペラーではなかった。


 悪魔だ。


 この世界では死後の世界は、天国と地獄に分かれていると信じられている。

 そして、地獄にいるとされる存在が悪魔である。

 そんな悪魔がなぜ。


「いや、考えるのは後だ」


 俺はすぐにベットから出ようとした。


「痛っ!」


 俺は腹部に強烈な痛みを感じてベットから転げ落ちた。


 ズドン!!


 鈍い音が周囲に響く。


 俺は直前に受けた傷を忘れていた。

 悪魔によって復活させられたゴブリンエンペラーに腹を一突きされている。

 幸いにも傷はふさがっている。

 

「ヒーリングライト」


 俺は自分の体に回復魔法をかける。

 腹部の痛みが少しずつ消えていく。


「何の音だ!?」


 アルトが床に激突した音を聞きつけて誰かが部屋へと入ってきた。


「君は、」

「あなたは、」


「アルト」「誰ですか?」


 二人の声が重なった。


「そうか、自己紹介がまだだったな。私はこの街の領主を務めているサンドルだ」

「領主様が、どうしてここに?」

「どうしても何も、ここは私の屋敷だからな」

「えっ」


 俺はどういうわけか領主の屋敷にいたようだ。


「えっと、俺はアルトです」

「あぁ、知っているよ。ユリやアルスから聞いているからな」

「ユリ!?いや、そうか」


 突然出てきたユリの名前に驚いたが、ユリが領主と関りがあったことを思い出した。

 おそらくそのときに聞いたのだと納得しておくことにした。


「それで……街は今どうなっていますか」


 俺は直接領主に疑問をぶつけた。



---



 俺は領主から現状を伝えられた。

 ゴブリンエンペラーが街に攻めてきたこと。

 南門と東門に冒険者が分かれて対処していること。


「ありがとうございます」

「いや、礼を言われることじゃない」

「それじゃあ、俺は行きますね」

「行く?そのボロボロの体で?」


 サンドルは知っている。

 目の前の青年が傷だらけだったことを。

 

 アルトは腹部に大きな傷を負って倒れているところを、街の兵によって発見された。

 領主にゴブリン村の存在を報告しに来ていたアルスたちによって、青年の名前を知ることができた。

 そしてその青年が、一人で上位種を複数討伐したという話を聞き領主の屋敷で治療を進めていたのだ。


「それは、戦いに行かない理由になりますか?」

「うっ、」


 サンドルは一歩足を引いた。

 サンドルは多くいる領主の中でも、武闘派であるという自覚がある。

 そんなサンドルは、アルトの言葉に戦慄を覚えた。

 これが若者が出していい覇気なのか。

 目の前の青年はいったいどれほどの経験を……


「それでは行きますね」


 アルトは壁に掛けてあった剣を取り、部屋を飛び出した。


 残されたサンドルは考える。

 もしかしたら、今の男は……

 いや、考えることはよそう。

 そんな奇跡にもすがりたくはあるが、自分が領主としてやるべきことは多くある。

 サンドルはすぐに領主としての仕事に戻った。



---



 「エンチャント:フェザー」


 俺は自身に羽を付与する。


「エクスプロージョン」


 爆発で空中に飛び上がる。

 これがお手軽に空中を移動する方法である。


「東か、南か」


 俺は街の上空から二つの門に視線を向ける。

 南門には大きな炎の幕が上がっている。

 あの魔法は「インフェルノ」だ。

 

「ユリは南門か」


 なら、アルトがとるべき行動は一つだ。


「俺は東門に行く」


 アルトはユリを信頼している。

 彼女なら大丈夫。

 敵は強大だ。

 だけど、ユリなら大丈夫だ。


「アイスロック」


 俺は空中に氷の岩を作り出す。

 

 起きてから俺の調子はかなり良い。

 尽きていた魔力も、いつのまにかかなりの量が戻っていた。

 誰かが魔力を渡してくれたのかもしれない。

 いや、誰かなんて言うのはやめよう。


「ありがとう、ユリ」


 俺は氷の岩に足をつける。


「フィジカルブースト」


 俺は脚力を最大限強化する。

 そして氷を全力で蹴った。


 街の上空でこんなに大きな氷を出したのだ。

 後始末もしておかなければいけない。


 アルトが蹴った氷の岩は砕け散る。

 下にいた街の人々はバージの街で初めての雹を味わうことになったが、それくらいは勘弁してもらおう。



---



 東門、ここでは苛烈な戦闘が行われていた。


「レオン!!」

「俺は大丈夫だ!!それより、ギルを!!」


 レオンはホブゴブリンの剣を受け止めながら一瞬視線をギルの方に飛ばす。

 先ほどレオンをかばってギルはホブゴブリンの一撃を喰らってしまった。

 すぐにシータが駆け付けたが、


「すみません、もう魔力が」


 戦闘が始まってから多くの人を癒し続け、アルスたちと合流してからも支援魔法を使い続けている。

 すでに魔力は限界が来ている。

 

 アルスは限界を迎えつつある仲間たちを見る。


 ここまでに倒した上位種は、ゴブリンシャーマン一匹、ホブゴブリン二匹である。

 正直言ってできすぎな戦績である。

 戦いの中で、彼女たちの実力は急激に成長した。

 それでも限界は来る。


「レオン!!」

「だい、じょう、ぶだ」


 レオンは地面に膝をついてもなお、ホブゴブリンの剣を受け止めている。

 だが、彼の体も限界が来ている。


「水よ、」

「アルス!!」


 アルスが詠唱を始めた瞬間、シータが声を張り上げた。

 アルスの視界の端に別のホブゴブリンが映る。

 

 あ、間に合わない。


 アルスの魔法は完成しない。

 レオンは押しつぶされる。

 ギルは立ち上がれず、シータは魔力切れだ。


「大丈夫!!」


 アルスの耳が声を捉えた。

 特別長い時間を過ごしたわけではない。

 それでも、彼女たちにとって最も安心する声が届いたのだ。


 アルスの目の前に白い翼が現れる。

 そして一瞬にして視界から消える。

 残ったのは、頭が体から離れたホブゴブリンだけだ。


「ハハ」


 レオンの乾いた笑い声が響いた。


「遅いっすよ」


 白い翼が消え、男の姿が現れる。


「後は、俺に任せろ!!」


 戦場に勇者が降り立つ。

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