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1-38 バージの戦い1

「必ず倒しましょう」


 ユリの言葉に心を震わせた者が二人いた。

 ユリから最も近く、そして直接言葉をかけられた二人である。


 ロイドはバージで生まれ、バージで育った冒険者である。

 この街一番の実力者であり、だれよりもこの街を愛する冒険者である。

 目をつぶれば、街で過ごした思い出の日々がよみがえる。

 だから彼は立ち上がる。

 すでに体は恐怖を味わった。

 それでも、彼は立ち上がる。


「私が、この街を守る」


 リクは誰よりも師匠を尊敬している。

 本人の性格から、直接言葉や行動にあらわすことは無い。

 それでも、心の底から師匠のことを尊敬している。

 そんな師匠が、目の前の敵によって傷つけられた。

 だから彼は、心の底から怒りを覚えていった。


「俺が、師匠を守る」



---



 三人の冒険者が立ち上がる。

 Bランク冒険者のロイド。

 Cランク冒険者のリク。

 Cランク冒険者のユリ。

 バージの街における最高戦力である。

 彼らを除く高ランク冒険者のほとんどは、ゴブリンエンペラーによってのされてしまっている。

 東門から来た高ランク冒険者は低ランク冒険者を守るような形で動いている。


 空気が静まり返る。

 戦場から雑音が消える。


「風よ、」


 ユリの詠唱と同時に戦いが始まった。


 恐怖の象徴ともいえるゴブリンエンペラーは、圧倒的なプレッシャーを放ちながらロイドたちに向かって迫ってくる。

 

「はああぁぁーー!!」


 ゴブリンエンペラーの動きに合わせてロイドが前に飛び出す。

 領主から借り受けたアグニスを構える。


 ロイドは一度ゴブリンエンペラーと剣を交えている。

 そしてその圧倒的な力の前に敗れている。

 だから同じ手は使わない。


「アグニス」


 ロイドの声と同時に剣から炎が放たれる。

 だが、遠距離からでは直接ゴブリンエンペラーを傷つけることができない。

 ロイドのこの一撃はあくまで目くらまし、そして次の攻撃に繋げる一撃である。


「師匠!!」

「リク!!」


 ロイドの横をリクが駆け抜ける。

 その一瞬に互いに視線が交差する。

 長い付き合いである。

 二人の考えは瞬時に一致する。


 火炎を放ち、推進力をロイドは失っている。

 火炎によりゴブリンエンペラーの視界を奪い、一瞬生まれた隙を詰めることができない。

 だからその役目は別のものに託す必要がある。


 ロイドは手にしていた剣をリクに投げ渡す。

 リクが普段使っているのは魔道具でもない普通の剣である。

 愛着はあるが、決して特別なものではない。

 だからリクは自身の剣を投げ、ロイドが投げた剣を受け止める。


 リクはゴブリンエンペラーとの距離を一気に詰める。

 恐怖はある。

 圧倒的なプレッシャーを放つ目の前の魔物に近寄るだけでも、勇気のいる行動である。

 だが、リクは信じている。

 師匠がつくったこの状況を。


 リクは火炎を目くらましにゴブリンエンペラーの背後へと回る。

 目の前に現れる自身の倍ほどの体格の魔物。

 大型の魔物の倒し方は知っている。


「まずは機動力を奪う!!」


 リクはゴブリンエンペラーの足に攻撃を加える。

 全力の一撃を。

 足を切り裂くつもりの一撃を。


 硬っ!!


 リクは敵の硬さに一瞬怯んだ。

 だが、すぐに切り替える。

 

 一撃がだめなら、連撃である。

 足に集中して連撃を加える。

 なんとしてでも、


「リク!!」


 ロイドの声がリクの耳に届く。

 リクはそこで気が付く。

 ゴブリンエンペラーが自身に向かって剣を振り下ろそうとしていることに。


 完全な隙をついた攻撃であった。

 リクの連撃もわずか一秒の間に行われたものである。

 だが、ゴブリンエンペラーの身体能力はそれをはるかにしのぐものだった。

 それにリクは気づけていなかったのだ。

 これは単に経験の差である。


「ウインドアロー」


 その経験の差を埋めるのは、残りの二人である。

 ゴブリンエンペラーの腕に風の矢が突き刺さる。

 一瞬動きが固まる。


 その一瞬に、ロイドが飛び込んでくる。

 振り下ろされた剣を地面へと受け流す。

 そしてリクと共にその場を離脱する。


 「あれで薄皮だけかよ」


 リクの攻撃はゴブリンエンペラーの足に微かな傷をつけただけだった。


 再びゴブリンエンペラーと三人が向かい合う。

 

「アグニス」


 ロイドが剣を振り、火炎が再び放たれる。

 ゴブリンエンペラーとの距離を保ち、時間をつくるためである。


「さすがに硬すぎる」

「私でも同じようなものだろう」

「何か方法は」


 三人は一瞬で頭を回転させる。

 戦場には時間が少ない。

 戦闘の間のわずかな隙間を次の行動への作戦会議に使う。


 ユリは自身の頭で考える。

 今自分に何ができるのかを。


 魔物は人間に比べて魔法に対しての耐性が強い。

 それは上位種になるほど大きくなる。

 目の前の魔物に関しては、私の中途半端な魔法など軽く止めてしまうだろう。

 だからアルトさんのような、剣を使った攻撃が有効なのだ。

 アルトさんのような……


 私の頭には一つの考えが浮かんだ。

 アルトさんのようにという考えが、その方法を導き出した。

 それは、二人に「エンチャント」を行うことだ。

 だが、冷静に考えれば突然羽が生えても二人の機動力は上がらないだろう。

 アルトさんのように使い方を知っているか、私のように有効な場面で使うしか、まともな効果は得られないだろう。


 それなら別の方法は無いだろうか?


 いや、私が持つ選択肢ではこの状況をひっくり返すことはできない。

 なら、新しいことに挑戦するしか無い。

 まだ成功していない。

 だけど、今ここで成功させるしか無い。


「水よ、弾けろ『アクアボム』」

「火よ、弾けろ『ファイアボム』」


 ユリは二つの魔法を発動した。

 水の爆弾と火の爆弾である。

 ユリの手から放たれたその二つの爆弾は、ゴブリンエンペラーの近くで衝突した。


「ドガン!!」


 大きな音と同時に周囲を水蒸気で包み込んだ。


「ユリさん、これは!?」

「一つ考えがあります」


 ユリは二人対して自身の考えを伝える。


「成功するかもわかりません。それでも試すしかありません」

「……信じます」

「……信じるぜ」


 極限の状態ということもあり、二人はユリの考えを信じる。


「私が今から二人の武器を魔法で包みます。その剣で、ゴブリンエンペラーを仕留めてください!!」

「任せてくれ」

「任せろ」


 ユリは意識を集中させる。

 あの時、崖から落ちながら少年に羽を生やした。

 それから、「エンチャント:フェザー」は自由に扱えるようになった。

 今から行うのは、魔法の属性の付与である。


 魔法は想像力。


「エンチャント:アイス」


 2本の剣が氷に包まれる。

 ただ剣が凍ったのとは訳が違う。


 失われた魔法。

 それが再びこの世界に蘇る。

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