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1-36 南門の戦い3

 ユリがゴブリンシャーマンと対峙していた時、同じ戦場の別の場所で一人の冒険者がホブゴブリンと対峙していた。


「はあぁぁーー!!」


 その男はホブゴブリンに向かって剣を振る。

 たちまちその剣から火炎が上がり、ホブゴブリンを炎で包む。

 剣士とは思えない、リーチのある攻撃である。

 だが、相手は上位種。

 その程度の攻撃で倒れはしない。

 火炎を手で薙ぎ払い、その拳を男に向けて振り下ろす。


「クッ、」


 男はその拳を剣で受け止めたが、あまりの威力に数メートル後方へと弾き飛ばされる。

 弾き飛ばされながらも、男は体の動きを制御して地面に着地しながら受け身を取った。


「はぁはぁ、流石に体が……」


 バージの街一番の冒険者であるロイドは、開口一番ゴブリンの群れに突っ込んでから、上位種相手に戦い続けていた。

 領主から託された魔剣の力は絶大で、既に4匹の上位種を焼き斬っている。

 それでも、上位種の群れは次から次へと息つく暇もなく、ロイドに襲いかかってくる。


「まだまだ、これからだ!!」


 ロイドは自身を鼓舞し、自信を吹き飛ばしたホブゴブリンに飛び掛かる。

 先ほどのように相手の拳を真正面から受け止めることはできない。

 だから相手の攻撃を誘導する。

 ロイドはホブゴブリンに迫りながら、火炎の魔剣を振る。

 剣から放たれた炎によって、ホブゴブリンは包まれた。

 この一瞬、ホブゴブリンの視界からロイドの姿は完全に消える。

 だから、ホブゴブリンは目の前の炎を振り払い、前へと距離を詰めてくる。


 ホブゴブリンが炎を振り払った瞬間、目の前からロイドの姿は消えていた。


「上だ」


 ロイドはホブゴブリンの頭を奇襲によって刎ねた。

 炎を目眩しとした、空中からの奇襲。

 ロイドは自身を身体強化して戦う剣士である。

 このように、空間を立体的に捉えて戦うことは大の得意である。


「まだ、戦えるな」


 ロイドは自身の体がまだ動くことを確かめ、再び次の上位種の相手を始める。



---



 ユリが戦いの開始と同時に展開した『インフェルノ』による炎のカーテン。

 その影響で戦場は二つに分かれた。

 前方にいるゴブリンの群れと高ランク冒険者、そして後方にいる低ランク冒険だ。

 後方の冒険者は、今戦場がどうなっているか把握できていなかった。

 だが、激しい音が前方から聞こえてくるだけで、安全な空間がそこには広がっていた。


 しかし、そんな安全な状況も長くは続かない。


「ゴブリンが来たぞ!!」


 後方でも炎の近くにいた高ランク冒険者が声を上げた。

 ついに、炎の幕を突破するゴブリンが現れたのだ。

 突破してきたゴブリンは、もちろん上位種である。

 現れた上位種はゴブリンキャプと呼ばれる魔物だ。

 ゴブリンキャップはホブゴブリンほど恵まれた体格では無いが、機動力に特化した上位種である。

 その特徴を最大限活かし、最速で炎の奥へとやってきたのだ。


「ここで止める!!」


 高ランク冒険者がすぐさま戦闘体制に入る。

 魔法の詠唱、剣士による接近、咄嗟の行動としては完璧に近い連携が取れていた。

 だが、ゴブリンキャップの全てを止めることはできない。

 ゴブリンキャップは持ち前の機動力を活かし、滑るように攻撃を回避し、より奥へと進んでいく。

 もちろん、何匹かは前線にとどめておくことはできている。

 他の上位種とは違い、魔法や物理攻撃に対してゴブリンキャップはあまり耐性がない。

 冒険者の攻撃は充分脅威になるものだ。


 だからこそ、ゴブリンキャップたちは後方へと向かっている。

 彼らは本能的にか、はたまた誰かの指示によるものか、後方の低ランク冒険者に一直線で向かっていく。

 防御力が低く、機動性と攻撃力が高い上位種。

 最も低ランク冒険者にとって相性の悪い上位種だと言える。

 炎の幕により、ゴブリンキャップもそれなりのダメージを負っているが、低ランク冒険者を仕留めるには充分な力は残している。


「しまった!!」


 炎の近くでゴブリンキャプの相手をする高ランク冒険者が指示を出そうとするが、目の前の相手に精一杯である。

 低ランク冒険者たちは迫り来る脅威に立ち向かおうと体勢を整えている。

 彼らが束となって、ようやく倒せる相手。

 ここまで追い込まれてしまった時点で、バージの負けに近い状況。

 そんな状況に、


「そうは、させねぇーよ!!」

 

 間に合った。


 突如上空から何者かが降ってきて、戦闘のゴブリンキャップを叩き潰した。

 一瞬にして仲間が潰されたこともあり、ゴブリンキャップたちは動きを止めた。


「やっぱりこっちが、本命だったか!!」


 今回の戦い、戦場は二箇所あった。

 一つは南門、現在ユリたちが戦っているこの場所である。

 もう一つは東門である。

 南門に戦力を集中させたが、東門にもある程度の戦力を集めていた。

 そしてそんな東門に集めた戦力、リクを始めとした高ランク冒険者が南門に到着したのだ。


「全員、死守するぞ!!」


 奇しくも師匠と同じ言葉をリクは言い放った。

 そしてその言葉と同時に、複数の高ランク冒険者がゴブリンキャップへと襲いかかった。



---



 東門を任されていたリクは、南門に上位種が集中したという報告を聞いてすぐに動き出した。

 東門にもゴブリンは襲来しているが、全てが通常種である。

 通常種相手なら、現状の低ランク冒険者を中心とした戦力でも問題なく戦える。

 そう判断したリクは、高ランク冒険者を連れて南門を目指した。


「流石師匠だな」


 移動しながら、リクは普段口にしないような言葉を口にする。

 リクは、ロイドを剣の師匠として尊敬している。

 彼に鍛えられたことで、リクは今やこの街で二番目の実力者と周囲から認められている。

 そんなリクだが、本人の軽い性格も合わさり、師匠に対して軽く接していると思われている。

 だが、リク自身は師匠であるロイドを誰よりも尊敬し、信頼している。

 そして、今回南門に敵の戦力が集中するといった相手の動きを読み切ったこともとても喜ばしいものだった。


「あれは……」


 街を囲う塀の上を移動しながら、南門の前に上がっている炎の幕を視界に捉える。

 戦場を分断するように炎の幕が敷かれている。

 一瞬、領主の魔剣によるものかと考えたが、長く残り続ける様子から魔法によるものだと判断する。

 魔剣による炎なら、すぐに消えてしまうためである。

 そして、おそらくあの魔法を放ったのはユリであることも理解した。

 三日間という短い時間であったが、リクはユリと共に依頼をこなしている。

 そこで彼女が、Cランクの器に収まらない、並々ならぬ魔法使いであることは理解している。

 エルフ族ということももしかしたら関係しているかもしれない。

 そんな彼女が、これだけの魔法を使用した理由を考える。


 分断か


 リクは一つの結論を導き出した。

 南門には上位種が多く集まっている。

 その数が想定を上回っていたのだろう。

 そこで、後方にいた低ランクの冒険者を守るために炎の幕を敷いた。


「だが、時間との勝負だ」


 リクは自身にかけていた身体強化を強める。

 魔力の消費も考え、自身の身体強化はいつも七割程度にとどめている。

 それを瞬間的に最大まで引き上げる。


「先に行く!!」


 リクは引き連れた高ランク冒険者を引き離し、最速で南門へと到着した。


 そして、危機的状況を阻止することに成功したのだ。


「全員死守するぞ!!」


 リクは声を張り上げ、上位種との戦いを開始した。

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