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1-35 南門の戦い2

 50を超える上位種の群れの襲来によって、戦いの火蓋は斬られた。

 南門を守る冒険者の中で最も早く動いたのは、この街に来てから日の浅いCランク冒険者のユリだった。

 ユリは事前に準備した陣形が、上位種の群れに対して有効ではないことに気がつき、前方と後方を分断する地獄の業火による仕切りを作った。


「全員、死守せよ!!」


 突如味方を分断した魔法を見て、バージの街で最も優れる冒険者ロイドはすぐに判断した。

 今の魔法はユリが放った魔法で、低ランクの冒険者を守るものであると。

 だからロイドは口にする。


 死守せよ。


 ロイドは現在自分達が置かれている状況を正確に把握している。

 とても悪いものだと、正確に把握している。

 ロイドの、否、あの会議での考えでは、ゴブリンの村の脅威は街全体で対処すれば問題の無いものであった。

 ゴブリンの村の最大の脅威であるゴブリンエンペラーは未知数だが、上位種なら高ランク冒険者なら問題なく対処できるからである。

 実際その見通しは正しい。

 ロイド自身も、自分が上位種相手に苦戦するとは思えなかった。

 

 だが、見通しが甘かったのは相手の戦力についてだった。

 相手はロイドたちの想像を超える数の上位種を用意していた。

 ゴブリン村の偵察に向かった冒険者の話では、森の中で複数の上位種の死体を確認している。

 それを行った人物にロイドは面識がなかったが、成果を聞く限りただの冒険者では無いことはわかる。

 その人物は傷を負い、この戦いには参加できていない。


 その男が上位種を減らしてもなお、これだけの数が控えていたということにロイドは戦慄を覚える。

 だが、それでも彼は後ろに下がるわけにはいかない。


「死守せよ!!」


 ロイドはもう一度大きく叫び、前へと飛び出した。


 ロイドは剣士である。

 魔法使い至上主義の時代はとうの昔に過ぎている。

 一人の勇者の活躍により、剣士の戦い方に革命が起きたのだ。

 人は誰しも魔力を持っている。

 そして、その魔力の使い方はその人次第である。

 ある者は、魔法として攻撃に使っている。

 またある者は、人を癒すために魔力を使っている。

 そして剣士は、自身の身体能力を強化するためにその魔力を使う。


「はぁぁーー!!」


 ロイドは単身でゴブリンの群れの中に切り込んだ。

 その様子を見ていた者たちは、彼が群れの中に取り込まれたように見えただろう。

 ただの剣士なら、上位種の群れに取り込まれてしまえばそこでおしまいである。


 だが、ロイドはバージで一番の冒険者である。


 ロイドは剣を振った。

 自身の身体能力を最大限まで強化して飛び込んだ彼は、剣を一振りする間に群れを貫いた。

 たった一度だけ許された、彼の溜めを前提とした一撃。

 その一撃は確かに群れを貫いた。

 そして彼は言葉を発する。


「アグニス」


 その瞬間、ゴブリンの群れを切り裂くように火の柱が上がった。

 

 ロイドが降った剣の名前は、アグニス。

 この街の領主が保管していた、最高級の魔道具である。

 かつてこの街ができた際に、国王から領主に捧げられた名剣中の名剣である。

 その一振りは、敵を燃やし尽くすと言われる火の魔剣である。


 そんな魔剣をロイドは領主から託された。

 この街の危機を救うため、最も信頼のおける剣士に託したのだ。

 そしてその一振りは、確かに絶大な効果をもたらした。



---



 戦場に二つの火の柱が上がる。

 一つは魔法使いが、そしてもう一つは剣士が起こしたものである。

 そしてその二つの火柱を合図にゴブリンと人の戦いが始まった。


「氷よ、全てを凍てつかせろ『ブリザードランス』」


 そんな戦場の一角で、ユリは上位種を相手に魔法を放つ。

 ユリが放った氷の槍を正面から喰らってホブゴブリンは動きを封じられた。


「はあぁぁーー!!」


 そこに冒険者の一人である剣士が飛び込んできて攻撃を喰らわせる。

 回避など考えない全力の一撃により、ホブゴブリンはその場に倒れる。


「4匹目」


 ユリが関与して倒した上位種は今ので4匹目である。

 戦いが始まり、当初敷いていた陣形が崩れた今では大規模な魔法を使うことはできない。

 先ほど使った「インフェルノ」は、味方の正確な位置を把握していたからできたものである。

 今同じ魔法を使えば、味方にも当たってしまう。


 魔法に対する耐性は、魔物の方が人よりも強い。

 それも上位種ともなれば尚更である。

 ただのゴブリン相手なら、一撃で仕留めることができる魔法も、上位種には傷一つで済まされてしまう。

 ユリが放った「アクアカッター」もホブゴブリンを一撃で仕留めることはできなかった。


 だからユリは切り替えた。

 この戦場には多くの冒険者がいる。

 「インフェルノ」で分断したとはいえ、高ランク冒険者のほとんどはこちら側に残っている。

 高ランク冒険者の多くは、即席の連携に慣れている。

 依頼をこなすうえで、初めての仲間と行動することは少なく無い。

 高ランクともなれば、その経験は多く積んでいる。

 だから、この戦場にいる多くの者はユリの動きに合わせることができるのだ。


 ユリが氷魔法で敵の動きを止め、別の冒険者がそのゴブリンを攻撃する。

 これがこの入り乱れる戦場の中で、ユリが確立した一つの戦闘方法だ。


 だがそれが機能しない相手もいる。


「グアッ、」


 ユリの近くに冒険者の一人が飛ばされてきた。


「大丈夫ですか!?」

「シャーマンだ」


 上位種のゴブリンシャーマンは、この戦法が機能しない相手である。

 魔法が使えるシャーマンには、ユリが放った氷の魔法を相殺されてしまう。


「あれは私が倒します!」

「頼んだ!」


 今の冒険者に変わり、ユリがゴブリンシャーマンの退治する。

 周囲には他の上位種はいない。

 

「光よ爆けろ、『ライトボム』」


 先手を取ったのはユリである。

 ゴブリンシャーマンに相殺されづらい光の爆弾による目眩しを行う。


「水よ、『アクアカッター』」


 そしてその魔法に被せるように水の刃を放つ。

 詠唱を極限まで短縮したため、威力は低い。

 だが、光と被りほぼ不可視の一撃となってゴブリンシャーマンを襲う。


「水よ、刃となって切り裂け『アクアカッター』」


 ユリは自身の位置を変え、再びゴブリンシャーマンに向けて水の刃を放つ。

 先ほどとは違い、十分な威力を持っている。


 だが、水の刃が届く前にゴブリンシャーマンを包むように火が舞い上がった。

 それによって魔法は相殺されてしまう。


「風よ私を守れ、『ウインドコート』」


 ユリは自身の体を風の鎧で包む。

 そして上げていた身体能力を活用し、舞い上がった火の中に飛び込む。

 目的はゴブリンシャーマンの後ろを取ることだ。

 風の鎧により、火の影響を受けずに相手の裏をとることに成功する。

 だがゴブリンシャーマンもユリの動きについてきている。

 体を捻りユリと向かい合う。


「風よ、刃となって切り裂け『ウインドカッター』」


 移動しながら詠唱していた魔法を放つ。

 だが、ゴブリンシャーマンは再び火の魔法によって相殺を……


「今!!」


 ゴブリンシャーマンを包もうとした火は、別の魔法によって相殺された。

 それは、ユリが先ほど放った「アクアカッター」である。

 詠唱直後に放った一発、それとは別に放たずにその場に留めておいた一発があった。

 それをこの瞬間にゴブリンシャーマンめがけて放ったのだ。

 繊細な技術を持ってして初めてできる神業である。


 ユリは天才である。

 そして、努力家である。


 相殺され、自身を守るものが無くなったゴブリンシャーマンに「ウインドカッター」が命中する。

 確かな傷を与え、ゴブリンシャーマンは体勢を崩す。

 魔法もすぐには詠唱できない。

 

 ユリはその瞬間を見逃さない。

 いや、彼女が意図してその状況を作ったのだ。

 風の刃が当たるより前に、すでに彼女は動いている。


「爆ぜよ、『エクスプロージョン』」


 ユリは超至近距離で爆発の魔法を放った。

 ゴブリンシャーマンの上半身が吹き飛ぶ、ユリも吹き飛ばされたが、風の鎧によって体は守られた。


 魔法使いの対決は、ユリに分配が上がった。

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