1-34 南門の戦い1
「ゴブリンエンペラーに動きがありました!」
報告を聞いた私たちはすぐに行動を開始した。
自身の考えもまとまり、戦う覚悟は決まっている。
私はモヤの晴れた頭で、この街を守る準備へと取り掛かった。
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「アルトさん……」
作戦会議は終わり、街に迫るゴブリンエンペラーに対する準備が急いで行われている。
東門と南門を守る作戦で、私は南門に配属された。
冒険者協会で待機していた冒険者と、街の兵を中心に門の外での準備や住民の避難誘導が行われている。
そんな中、私は領主の屋敷の一室に来ていた。
私は目の前でベットに寝ているアルトさんの姿を見て、思うように言葉は出てこなかった。
顔には目立った傷はない。
いつものように、ぐっすりと寝ているだけに見える。
だが、彼にかけられた布を一枚めくれば、彼が受けた傷の大きさが一目でわかる。
私にとって、アルトさんは強さの象徴だ。
空を飛び、規格外の魔法を使い、私を助けてくれた。
そんな彼が今、目を覚さないほどの怪我を負っている。
もちろん彼だって完璧ではない。
魔力を大量に消費する体質や、平凡よりの身体能力など、私たちが知る伝説の勇者からはかけ離れた欠点も持っている。
それでも、私には彼が敗北する想像はどうしてもできなかった。
それはつまり、わたしの想像ができないような相手が待っているということである。
「アルトさん、あなたは一体何と戦ったのですか?」
今この村にはゴブリンエンペラーが向かってきている。
わたしが今まで相手にしてきた魔物たちとは、格が違う魔物である。
アルトさんの言葉を使うが、この平和な時代には似つかわしくない魔物だろう。
今を生きるわたしにとって、ゴブリンエンペラーは物語の中の魔物である。
ゴブリンエンペラーはこの街にとって、最大の脅威である。
この認識は、この街にいるもの全てが同じだろう。
だけど私にしか知らないことがある。
目の前の男が伝説の勇者であるということだ。
そして、物語の中でゴブリンエンペラーを倒したのは勇者である。
彼の今の力が勇者本来の力とは言えないが、それでも一度勝った相手に負けるような人ではない。
「……アルトさん」
私は彼の手を強く握る。
もちろん握り返されることはない。
「行ってきます」
覚悟はできている。
私たちが戦う何者かに、アルトさんの仇に、私は必ず勝ってみせる。
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「ユリさん、こちらでしたか」
「はい、ロイドさんがいるととても心強いです」
南門に向かうと、既に大勢の冒険者が集まっていた。
この街にいた時間は長くはないが、それでも見知った顔はいくつかある。
そんな顔の一つであり、この街最大の戦力でもあるロイドさんも南門に配属されていた。
「私以外にもこの街には頼れる冒険者が多くいますよ」
「そうですね」
私は周りに視線を向ける。
冒険者は有事の際に街を守る義務がある。
だけど、それだけはない。
南門に集まったものたちの顔を見ると、彼らの瞳の奥には強い思いが見えた。
大切なものや、愛するもの、そしてこの街を本気で守りたいと考えている。
そんな彼らと共に戦えることがとても心強い。
「リクさんは、東門ですか?」
「はい。本命は南門と考え上位ランクの冒険者は南門に多く配置していますが、リクには東門についてもらっています」
私が南門にいるように、やはり本命はこちらである。
ゴブリンの生息する森から、街に近い門は東と南だが、最も近いのは南門である。
冒険者協会から出された偵察役の情報でも、南門方面に向かっている。
「それでは、期待していますね」
「期待に添えるよう、頑張ります!」
私に声をかけた後、ロイドさんはまた別の人に声をかけに向かった。
これがこの街の顔である彼の役目なのだろう。
私も、ほんの少し気持ちを落ち着かせることができた。
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「ゴブリンが来たぞーー!!!」
戦闘開始を告げる合図はすぐに上がった。
森の近くで偵察していた者たちがこちらに向かってきている。
三人の冒険者の後ろをゴブリンたちが追ってきている。
その様子を見て私は異変に気がついた。
そしてその異変に気がついたのは、私を含めて数人だけだろう。
ゴブリンの群れから、大きな火球が打ち上がった。
その火球はそのまま前を走る三人の冒険者に向かって……
「水よ、『アクアカーテン』」
私は火球を相殺するために、走る冒険者の背後に水の幕を展開した。
詠唱を極限まで短縮したため、私が出せる本来の出力よりは落ちてしまっている。
だが、水の幕はなんとか火球を相殺することができた。
三人の冒険者にも被害は出ていない。
異変に気がついた者たちの中で、最適な行動を取れるのは私だけだった。
おそらくロイドさんも気がついたと思うが、剣士である彼では対処不能なものだった。
「上位種が、これだけ」
私たちが気がついた違和感とは、ゴブリンの群れの異質さである。
当初想定していたのは、通常のゴブリンと上位種のゴブリンを混ぜて送り込んでくることだった。
だが、三人の冒険者の後ろを追ってきていたのは、全てが上位種の集団だった。
「上位種が多数!!全員気をつけろ!!」
ロイドさんから声が上がる。
目視だが、50近い上位種がこちらに向かってきている。
私はすぐに頭の中で情報を整理する。
今この場にいる者の中で、上位種と戦うことができる者の数。
目の前の上位種の数。
そして、私が取るべき行動。
ゴブリンの上位種は非常に強い魔物である。
私やロイドさんなら、一対一で倒すことができるだろう。
それ以外のCランクやDランクの冒険者は、複数人で対処すれば戦えるだろう。
問題はそれ以下のランクの冒険者である。
最適な行動をとれば戦える可能性はあるが、まず戦力にはならないだろう。
本来彼らには、通常のゴブリンの相手をしてもらう予定だった。
だが、想定外の上位種のみのこの戦場において、彼らの力はあまりにも儚いものである。
「二十秒」
私は相手の動きから、時間を導き出した。
あのゴブリンの群れが私たちと衝突し、一部が後方に流れるまでの時間だ。
後方には低ランクの冒険者が多くいる。
そのまであの群れを到達させてはいけない。
二十秒。
私が魔法を詠唱するのには充分すぎる時間だ。
「地獄の業火よ、全てを焼き尽くせ『インフェルノ』」
私が使える魔法の中でも、最も範囲と威力に優れる魔法を発動した。
縦と横に大きく伸びた地獄の業火は、南門に敷かれた陣形の前方と後方を二つに分けた。
これで、簡単に後方まで侵入されることはないだろう。
ここからは、私たち上位ランクの冒険者の力の見せ所である。




