1-33 東門の戦い3
「ここからは俺たちの番だぜ!!」
レオンの声が三人を鼓舞する。
一度は負傷により戦場を離れた彼は、シータの回復魔法によって再び戦場へと戻ってきた。
それも、二人を救うここぞというタイミングで。
「シータ、どうしてここに?」
自身の体を癒しているアルスは、シータに対して問いかけた。
アルスは、レオンが戻ってくることは信じていた。
だが、一緒にシータまで来るとは考えもしていなかった。
「上位種が現れたって聞いて、アルスとギルが危ないかもしれないって」
「シータ、ありがとう」
アルスはただ感謝の言葉を口にした。
同じ魔法使いだが、アルスとシータでは全く異なる魔法を使用する。
アルスと違い、回復魔法と支援魔法を扱うシータにとって戦場に立つ恐怖は計り知れないものだろう。
それでもシータはレオンと一緒にアルスたちの元に駆けつけた。
アルスはその事実に感謝を伝えることしかできなかった。
「私はもう大丈夫。ギルをお願い!」
「うん、任せて!」
アルスは自身の体の傷が充分癒えたことを確認し、今尚重傷を負っているギルの方へとシータを向かわせた。
「レオン!!」
「アルス、分かってる!!」
アルスの考えは口にせずともレオンに伝わった。
いつもなら念の為と言葉を口にするアルスだが、レオンの行動を見て彼が考えを共有していることを理解した。
レオンはギルをゴブリンシャーマンの元から救い出してから、視線をゴブリンシャーマンから一切離していない。
そして、自身の愛剣を前へと構え牽制し続けている。
その甲斐もあって、ゴブリンシャーマンは迂闊に魔法詠唱を行っていない。
「水よ、」
その均衡を破ったのはアルスの詠唱である。
この場における人数は増えたとはいえ、ギルとシータが戦いに参加できていない以上、実質的な人数は変わっていない。
ギルがレオンに変わっただけである。
だが先ほどと違うのは、アルスはゴブリンシャーマンの動きを一度見ていることである。
アルスは理解していた。
自身の生半可な魔法では、ゴブリンシャーマンを仕留めることができないと。
先ほど放った「アクアカッター」は、相殺もなしに受け切られてしまった。
必要なのは魔法の威力、そしてそのために必要なのは詠唱を短縮せずに行う時間である。
レオンはアルスの詠唱が始まったのと同時にゴブリンシャーマンへと距離を詰めた。
詠唱が聞こえてからではない、詠唱が始まるのと同時にである。
今までアルスと過ごしてきた時間、そして共に戦ってきた時間がその行動を可能にした。
レオンとアルスより一呼吸遅れてゴブリンシャーマンが詠唱を始める。
「はあぁぁーー!!」
レオンはゴブリンシャーマンめがけて剣を振り下ろす。
だがゴブリンシャーマンはその剣をひらりと回避した。
ギルと同じように生半可な攻撃は避けられてしまう。
そして先ほどと同じように……
「っだよなーー!!」
レオンは振り下ろした剣が地面に着く前に翻して、ゴブリンシャーマへと剣を向かわせた。
ゴブリンシャーマンは完全に回避したと思ったレオンの剣に反応が遅れ、左足に切り傷を負った。
レオンは森でゴブリンシャーマンと対峙している。
アルスたちと違い、ゴブリンシャーマンの身体能力が非常に高いことは既に学習していた。
だから、一度目の攻撃は回避されること前提で、剣に勢いを込めていなかったのだ。
ゴブリンシャーマンに確かな傷をつけた。
だが致命傷ではない。
それでも詠唱を途切れさせるには充分な一撃であった。
「アクアカッター」
アルスの手から渾身の魔法が放たれた。
詠唱を中途半端に短縮した時とは、威力も速さも全く異なる。
ゴブリンシャーマンはその魔法を自身にとって害をなすものと判断した。
「相殺……したわね」
アルスは確信した。
自身の放った魔法がゴブリンシャーマンを倒すことができるものだと。
ゴブリンシャーマンはアルスの魔法に対して、魔法による相殺を行った。
相殺したことにより、魔法によるダメージを受けなかったが、レオンの剣による傷を負ったため、一度アルスたちから距離を取った。
レオンはすぐに追撃したかったが、冷静にその場に留まる。
アルスの魔法による援護がない限り、迂闊にゴブリンシャーマンに近づくことはできない。
少なくとも一対一で勝てる相手ではないことを理解している。
だから離れすぎず近づきすぎない距離を保つことにした。
「アルス!!」
シータの声が上がり、アルスは視線をシータに向ける。
ゴブリンシャーマンの動きに対する警戒はレオンがしてくれている。
シータはギルの元でアルスに向かってこちらに来るように手を招いている。
「レオン、そのまま警戒を続けて」
「任せろ!!」
アルスは急いでシータの元に駆けつける。
「おい、テメェの相手は今俺だぞ!!」
レオンは剣を上に構え、ゴブリンシャーマンの視線を惹きつける。
先ほど傷をつけられた相手ということもあり、ゴブリンシャーマンはレオンを最大限警戒している。
「レオン、ここからは私が指揮を取る!!」
「シータ!?」
レオンは驚きの声を上げながらゴブリンシャーマンから視線は外さない。
そしてすぐに返事をする。
「任せた!!」
理由はいまいち分からなかったが、レオンは信じることにした。
「アルス、魔法で牽制!!レオンは距離を詰めて!!」
「おう!!」
「はい!!」
アルスは魔法の詠唱に入る。
先ほどとは違い、詠唱を短縮した発動速度重視の魔法である。
レオンはその魔法に合わせるようにゴブリンシャーマンへと距離を詰める。
足の切り傷の影響もあり、ゴブリンシャーマンの動きは一段落ちている。
「レオン、足元に気をつけて!!アルス、ゴブリンの動きを自由にさせないことを意識して!!」
いつもの口調とは違い、強めな口調でシータは指示を飛ばす。
シータはあまり強い言葉を使うのが好きではない。
だけど今、自身の役目を果たすため、レオンたちにはっきりと指示を飛ばす。
森の中でアルトがシータに伝えた、彼女にしかできない役割である。
「はぁはぁ、はあぁぁーー!!」
レオンはゴブリンシャーマン相手に一人で前衛を務め続ける。
既に息は上がりきっているが、気力で食らいついている。
ギルの傷はかなりものであった。
特に左腕はシータの魔法でもすぐには治せないものだと気がついている。
戻ってくることは期待できない。
だからレオンは覚悟を持って剣を振り続ける。
「グッ、」
ゴブリンシャーマンの魔法が腿を掠める。
既に全身に傷を負っている。
だけどなんとか致命傷は避け続けている。
1秒でも長く、剣を振り続けるために。
「レオン、回り込んで!!」
シータの指示に従い、アルスの魔法がゴブリンシャーマンの体制を崩した瞬間に後ろへと回り込む。
そして渾身の一撃を、
「マジか、」
回避されてしまった。
戦いの中で、ゴブリンシャーマンの動きに目は追いつき始めていた。
だが、自身の体は疲労から自身の想定した動きについて来れなかったのだ。
「レオン、下がって!!」
視界の先、ゴブリンシャーマンの奥に三人の姿が見えた。
先程までシータから離れた位置にいたアルスも、二人の位置に合流している。
レオンは残された力で後方に飛んだ。
ゴブリンシャーマンの魔法もギリギリのところで回避した。
「アクアランス」
ゴブリンシャーマンめがけてアルスの魔法が飛んでいく。
先ほどから何度も見てきた水の槍である。
レオンの攻撃も止まり、ゴブリンシャーマンは余裕を持ってその魔法を相殺……
ゴブリンシャーマンは何が起こったのか理解できなかった。
魔法を相殺したはずが、なぜか自身の体を槍が貫いている。
魔法の槍ではない、本物の槍である。
「レオーーン!!!」
シータの叫びがレオンに届く。
「あぁぁぁーー!!」
確かに生まれたゴブリンシャーマンの隙。
四人が死力を尽くして作り出した隙。
その隙を捉え、レオンの剣はゴブリンシャーマンを二つにした。




