1-32 東門の戦い2
「上位種だーー!!」
その言葉を聞いた時、私の頭は一瞬真っ白になったしまった。
だが周りの声ですぐに現実へと戻ってくる。
上位種がどうしてこっちに?
いや、そもそも南門に集中していただけで、こちらに全く来ない可能性の方が低かった。
そのために、戦力は均等に東門と南門で分散させていたのだ。
だが、南門に上位種が集中したという情報で、こちらの最高戦力だったCランク冒険者は南門へと向かってしまった。
つまり、現在東門にはまともに上位種と戦うことができる戦力は残されていないのだ。
そして、残されたE・Fランクを中心とした冒険者も、レオンのように負傷しているものも少なくない。
私は周囲に視線を向ける。
「……やるしかないのね」
戦場には無数のゴブリンの死体が転がり、この世のものとはお前ない光景である。
そんな戦場で今なお立ち続けている者たちの姿も、やはり最初より少なくなってきている。
「アルス、どうする?」
ゴブリンを槍で貫いたギルが私の方を向いて尋ねた。
私は上位種が現れたという声が聞こえた方に視線を飛ばす。
東門でも、森に近い前線で戦っていた者たちがいる方だ。
「戦うしかない」
「うん、僕もそう思う」
まだ距離は離れているが、数匹のゴブリンが前線を突破してきた様子が見えた。
明らかに今まで相手にしたゴブリンとは動きの質が違う。
間違いなく上位種である。
そして、そのうちの一匹がこちらに向かってきている。
「ギル、覚悟はいい?」
「うん、大丈夫」
「二人で勝つよ」
「うん!」
私たちはここで戦い抜く覚悟を決めた。
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地獄のような戦場。
人間の国の辺境の街、その外でこの平和な時代に似つかない光景が広がっている。
人と魔物の戦いが繰り広げられ、無数のゴブリンの死体と少しの人の死体が転がっている。
だが、その場にいる誰もそれらに目を向けない。
彼らが目を向けるのは、次に来る敵だけである。
「……ゴブリンシャーマン」
そんな戦場の一部、アルスとギルの元にやってきたのは1匹のゴブリンシャーマンだった。
今まで相手にしてきたゴブリンとは、明らかに違うその存在に彼らは一歩後ろへと下がる。
いや、その存在感だけではない。
彼女たちにとってゴブリンシャーマンは、森で襲われた印象が強く残る相手であったことも影響しているだろう。
あの時は、アルトという頼れる存在にやったことなきを得た。
だが今この戦場に彼はいない。
Fランク冒険者二人で上位種を相手にしなければいけない絶望的な状況である。
場の静寂を破り、最初に動いたのはゴブリンシャーマンであった。
木の枝で作られた杖を構え、目の前の二人に向けた。
「ギル、前に!!」
人の言葉ではない何かを唱え始めたゴブリンシャーマンの動きを見て、アルスはすぐにギルへと指示を飛ばした。
アルスの前で槍を構えて、臨戦態勢を取っていたギルは、アルスの指示と一寸のズレもなく前へと飛びだした。
「水よ強固なる刃となって」
ギルの動きに連動してアルスは魔法の詠唱へと入る。
アルスが咄嗟に考えた動きは、魔法の詠唱に入ったゴブリンシャーマンの動きをギルが妨害し、詠唱が中断されたところをアルスの魔法で仕留めるというものだった。
彼女は自分が考えた作戦は、咄嗟のものにしては悪くないと思った。
だがこの作戦には一つ大きな欠点があった。
それは、彼女たちがゴブリンシャーマンについて知らなすぎたことである。
リーチを生かしたギルの槍の突きを、ゴブリンシャーマンは大きく飛ぶことで余裕を持って回避した。
「えっ、」
まさかこんなにも余裕を持って回避されると思わなかったギルは、思わず驚きの声を上げた。
ゴブリンシャーマンの見た目は上位種ではない通常のゴブリンとあまり変わらない。
違いがあるとしたら、杖のようなものを持っていて、少し濃い緑色をしているくらいだろう。
だから彼女たちはゴブリンシャーマンに対してこう考えていた。
魔法に特化したゴブリンで、身体能力は通常のゴブリンと大差ないと。
だがその考えは間違っていた。
ゴブリンシャーマンが上位種である理由は、通常のゴブリンと比べて圧倒的な魔力を持っているからである。
魔力だけでいったら、ゴブリンエンペラーにも匹敵する個体も存在する。
そして、その魔力を単なる魔法だけに使うはずがない。
剣士が魔力によって自身の体を強化するように、ゴブリンシャーマンも溢れんばかりの魔力により、全身を強化しているのだ。
「うそっ、」
その強化した身体能力により、ゴブリンシャーマンはギルの槍の突きを回避しながら、詠唱を続けることができている。
「アクアカッター」
アルスはその様子を見て、詠唱を短縮して魔法を放った。
今までで一番の短縮だが、魔法は無事に完成し、ゴブリンシャーマンに向かって水の刃がまっすぐと向かった。
「そんな、」
だが、ゴブリンシャーマンはアルスの魔法をものともしなかった。
この戦場で何匹ものゴブリンを葬ってきた魔法を、魔法による相殺もせずにその体だけで、無傷で受け止めてしまった。
もちろん、詠唱は止まらない。
「ギル!!」
ゴブリンシャーマンの杖の先端がギルに向かった。
アルスの言葉が口を出た時には、既にゴブリンシャーマンの杖から魔法が放たれていた。
「「ドン!!」」
大きな衝撃と音がその場を支配した。
ゴブリンシャーマンのすぐ近くにいたギルはもちろん、少し離れた場所にいたアルスも衝撃に飲まれてしまう。
あたり一体が砂埃に包まれる。
しばらくして砂埃が晴れる。
「……ギル?」
全身を地面に強く打ち、まともに呼吸もできていない中アルスは周囲を見渡す。
魔法を至近距離で食らったギルの姿を捉えることができない。
砂埃が薄くなり、アルスは視界の隅で動く姿を捉えた。
「待って、」
アルスが捉えたのはゴブリンシャーマンの姿だった。
そして同時にギルの姿も目に入る。
ギルはゴブリンシャーマンのすぐそばに転がっている。
左腕はあらぬ方へ曲がり、目に見えて重症である。
そんなギルの側にいるゴブリンシャーマンがとは行動はひとつしかない。
「やめて」
アルスは砂の入り混じった喉で搾り出すように言葉にする。
ギルの元に駆けつけようともがいているが、全身のダメージから思うように動けていない。
そんな荒さを嘲笑うかのように、ゴブリンシャーマンは……
「俺の仲間に何してやがる!!」
どこからともなく、一本の剣がゴブリンシャーマンに向かって飛んできた。
突然の攻撃にゴブリンシャーマンは必要以上に大きく回避した。
そして、その一瞬に一人の少年がギルの元に駆けつけた。
「……レオン」
アルスは声にならない声を上げた。
「アルス、大丈夫!?」
アルスの側にも一人の少女が駆けつけている。
そしてアルスの体に手を置くと、少しずつ彼女の体が癒えていく。
「……シータ」
「もう大丈夫だから」
ギルとアルス、二人の危機に駆け付けたのは仲間であるレオンとシータだった。
「おい、てめぇ。俺たちは四人で一つだ!!ここからは俺たちの番だぜ!!」
硬い絆で結ばれた少年少女たちがゴブリンシャーマンに挑む。




