1-31 東門の戦い1
それは突然の報告だった。
私たちが会議を始め、話の内容はゴブリン村の対策へと進んでいた。
そもそも私たちがこの会議に参加していること事態が場違いだと思う。
それでも四人でここにいるのは、彼の思いに応えるためだ。
彼はボロボロになって、出血もとても多かった。
回復魔法もほとんど効かず、まだ意識も戻っていない。
「ゴブリンエンペラーが動きました!!」
その報告を受けてからは、とてつもない速さで会議が進んでいった。
冒険者として、そして人としても経験の浅い私たちが会議に入る余地など一つもなかった。
そして気がつけば、
「なぁ、本当に俺たちにできるのかよ?」
東門の前でゴブリンを待ち受けていた。
---
ゴブリンエンペラー、つまりゴブリン村が動き出し、バージの街に向かっている。
正確な数は把握できておらず、どれほどの規模が迫っているのかも分からない。
ただ、私たちが森の外でホブゴブリンに遭遇した以上、上位種の数は十数匹では収まらないだろう。
ゴブリンが生息している森はバージの街から見て南東方向にある。
そのため、ゴブリンが襲ってくるのは南か東門だと考えられる。
「なぁ、ゴブリンエンペラーって、あのゴブリンエンペラーだよな?」
「そうだと、思います」
レオンとシータ、そしてギルも私と同じことを考えているだろう。
私たちは村を魔物に滅ぼされて、教会に引き取ってもらった。
教会は決して裕福ではなかった。
そんな教会で私たちが夢中になったのは、伝説の勇者のお話である。
別の世界から来た勇者は、魔王に脅かされたこの世界を瞬く間に救ってしまった。
そんな夢物語に私たちは夢中になった。
そしてそのお話の中に、ゴブリンエンペラーのお話が出てくる。
ゴブリンの王にして、最悪の魔物。
その力はとても凶悪で、お話の中で街一つが滅ぼされている。
そんな凶悪な魔物を倒したのも、伝説の勇者たちである。
「今から俺たち、それを相手にするんだよな?」
「上位種に何もできなかった僕たちが」
「私たちが……」
レオンの珍しい弱気な言葉に二人も気持ちを揺さぶられている。
正直言って私も逃げ出してしまいたいほどの不安に駆られている。
それでも、
「三人とも作戦は聞いていたでしょ」
私は前を向く。
「私たちはFランク冒険者。上位種を相手にするのは、上の冒険者ランクの方たちです。私たちが任されたのは、ゴブリン討伐。今日までやってきたことと、なんら変わらないものです」
私は自分に言い聞かせるように言葉にした。
「そ、そうだな。ゴブリン退治だよな!俺たちなら問題ねぇよ!!」
いつもの強気なレオンが戻ってきた。
今までの彼なら、根拠のない自信に踊らされることも多くあった。
だけど今は違う。
アルトさんに鍛えられ、ゴブリンを狩り続けたという確かな実績が、彼の心の柱となっている。
「僕も精一杯頑張るよ」
「私もできることは少ないけど、頑張るね!」
レオンの言葉に押され、ギルとシータの視線も前を向いた。
「ゴブリンが来たぞーー!!」
先頭で声が上がった。
私たちの体に緊張が走る。
だけど、全員覚悟は決まっている。
「絶対勝つぞ!!」
「「おおーー!!」」
---
「レオン、前に出過ぎないで!!」
「おう!!」
私は勢いのままに飛び出そうとしているレオンの動きを静止させる。
東門の戦いが始まって5分ほどが経過している。
東門に来たのは上位種ではないゴブリンだけだった。
だがその数がとてつもないものであった。
目視では数えられない数のゴブリンがなだれ込むように東門へと迫ってきた。
私たち冒険者は今、東門を死守するように守りの形を敷いて、ゴブリンと戦い続けている。
だが、圧倒的な数に押されて戦況がいいとは言えない状況になっている。
東門には50人ほどの冒険者が集まっていた。
そのほとんどがFランクとEランクの冒険者である。
最高戦力はBランクの冒険者の方だったが、戦闘が始まると南門の方へと移動することになった。
その理由は、南門に上位種が集中して襲ってきたからである。
東門には通常のゴブリンしか見えなかったため、貴重な戦力は南門へと回すことになった。
現在の南門の状況は分からない。
だが、上位種相手に苦戦していないとは考えられない。
南門からの増援は見込めないだろう。
私たちは、ここにいる戦力で東門を守らなければいけない。
「グッ、」
「ギル!!」
「うん!!」
レオンがゴブリンの攻撃を受け体勢を崩した。
私はすぐにギルに指示を飛ばす。
ギルもレオンの動きを見てすぐに動き出しており、レオンに傷を与えたゴブリンの体を槍で貫いた。
だが、さらに追い打ちをかけるように別のゴブリンが迫ってきている。
「アクアカッター」
私は詠唱を終わらせていた魔法をそのゴブリンに向かって放つ。
水の刃がゴブリンの腹を裂きながら、後方へと吹き飛ばした。
「レオン、大丈夫!?」
ギルが傷を負ったレオンの側に駆け寄る。
「あぁ、問題ねぇ」
レオンはそう言ったが、彼の肩にはゴブリンの牙による深い傷がつくられている。
戦えないことはないが、確実に動きに支障が出る傷である。
「レオン、一度下がって」
「俺は大丈夫だって」
「この戦いはあとどれくらい続くか分からない。だから、シータに傷を治して貰う方が賢明よ」
「くっ、確かにそうだな。わりぃ、二人ともここは任せた!!」
レオンは冷静だ。
やはり前の彼とは全く違う。
私たちの後方で、シータを中心とした回復魔法が使えるものたちが待機している。
この戦いは持久戦である。
ゴブリンの数ははっきりとわかっていない。
それに対してこちらの数は既に定まっている。
戦えないものが増えるたびに、戦況は厳しくなっていく。
一時的に戦力を落としてでも、戦い続けることが大事である。
「ギル、私たち二人で踏ん張るよ!」
「うん!!」
三人が二人になった。
一人減っただけでもかなりの戦力減少である。
「ギル、私の前に」
「うん!!」
ギルは槍を構えて私の前に立つ。
これでゴブリンが襲ってきても私が魔法を詠唱する時間が稼げる。
私たちだった、アルトさんに鍛えられて森でゴブリンを狩り続けている。
直近でのゴブリンとの戦闘経験なら、ここにいる冒険者の誰にも負けない。
上位種以外になら、
「上位種だー!!!」
「えっ?」
それは予想していなかった奇襲だった。
戦闘が始まってから東門には通常のゴブリンしか襲って来なかった。
上位種は南門へと集中させていた。
だが、相手は最も効果的な時間で上位種をこちらに送り込んできたのだ。




