1-30 作戦会議
「まずは現在の状況の確認からだ」
「はい」
サンドルさんの声に合わせて、冒険者協会の職員の方が前に出てきた。
「現在バージの近くでゴブリンの上位種が確認されています。今回確認されたのは、ゴブリンシャーマン、そしてホブゴブリンです。さらに、それらの上位種が偶然発生したのではなく、ゴブリン村が作られている可能性が高いと考えられています」
職員の報告は、私が想像していた最悪の状態そのものだった。
街の外で複数の上位種を発見し、ゴブリン村の可能性は考えていたが、まさか実際に起きてしまうとは。
「やはりそうか。これはこの街始まって以来の危機的状況だな」
サンドルさんは渋い表情で頬杖をついている。
「一つ質問よろしいですか?」
ここで手を挙げたのはロイドさんだ。
「私たちもこの街に戻る途中で複数の上位種を確認しました。しかしそれらは既に倒されていました。これはいったいどなたが?」
彼が尋ねたのは、私たちが確認したホブゴブリンの死体についてだ。
彼が知る限り、上位者を複数相手に倒しきる人物が浮かんでこなかったのだろう。
実際、街屈指の実力者は依頼によってあの街を離れていた。
私のように彼のことを知らなければ、その疑問が湧いてくるのは普通のことだろう。
「その質問には、彼女たちの証言を聞いた方が早いですね」
職員がそう言いながら視線を向けたのはアルスたちである。
アルスたち四人は緊張した表情をしながら椅子から立ち上がった。
「何故このような子どもたちがここにいるのかと思っていたが、まさか君たちがあのホブゴブリンを?」
「いえ、あのゴブリンを倒したのは私たちではありません。あれを倒したのは……」
彼女はどこかもどかしそうに私を見た。
おそらく彼女は悩んでいるのだろう。
アルトさんがどこまで話しているのかは分からない。
だけど彼女たちも彼の異常な強さには気が付いている。
私は静かに首を縦に振った。
「あれを倒したのは、私たちに同行していたアルトさんという冒険者の方です」
「アルト?この街では聞いたことのない名前だな。いや、名前自体はよく知るものだが……」
アルトという名前自体は全ての人が聞き馴染みのあるものだろう。
実際にその名前を使っている人も少なからずだがいる。
この街には本人しかいなかったようだが。
「その者は今どこに?」
上位種を複数仕留める実力があるなら、今回の作戦会議に呼ばれていないとおかしい。
おそらくこれから始まる戦いでの貴重な戦力になるはずだ。
だけど、彼の姿はこの場には見えない。
つまり……
「彼は今、治療を受けています」
「えっ!?」
私は思わず大きな声を上げてしまった。
なぜなら、アルスが口にした言葉が私の想像していたものと異なっていたからである。
私は、アルトさんは森に残り戦い続けていると考えていた。
彼の性格、そして立場から考えて、その行動を取る可能性はかなり高いと考えていた。
だが自体は既にその一歩先に進んでいた。
「ユリさんはその人物を知っているのですか?」
私の驚き超えを聞いてロイドさんが尋ねてきた。
「は、はい。私はアルトさんと一緒に旅をしています。彼は、その、えーと、とても強い方なので、まさか倒れるなんて」
私は思うように言葉が出てこなかった。
思考と感情が絡まって、しどろもどろになってしまう。
「なるほど、ユリさんが認める実力者だと。その者がホブゴブリン三体を倒し、それとか控えに怪我を負ったと」
上位種複数相手に怪我で済んだのなら、かなりの実力者だとロイドさんは判断したのだろう。
「いえ、そのホブゴブリン相手には無傷で勝利しています」
「なんだと!?」
ロイドさんは机から身を乗り出して驚いた声を上げた。
ロイドさんだけではない、詳しい話を聞かされていなかったであろう者たちは皆驚いた表情をしている。
「まさか、そのような実力者がこの街にいたとは……それではいったいその者はどうして怪我を?」
それは私も抱いていた疑問だ。
彼の実力からしてよほどな相手でない限り怪我を負うことなどあり得ない。
いや、そうでもない。
私は彼が置かれていた状況を考えて一つの可能性が浮かんだ。
彼が抱える唯一の欠点、魔力切れの可能性である。
森に残り少ない魔力で連戦を強いられたのなら、彼でも怪我を負う可能性は考えられる。
「すみません、彼が怪我をした理由は分かりません」
「それは彼の口から聞くことはできないと?」
「はい、アルトさんは今……意識が戻っていません」
「では、どうやってこの街まで……」
はぁはぁ
「それも、分かりません。いつのまにか、怪我を負ったアルトさんが……」
はぁはぁ
アルトさんの意識が戻らない?
「……調査に出した冒険者によると、森の中で複数の上位種が……」
アルトさん、アルトさん
思考が視界が曇っていく。
「……事態は既に緊急を要している」
はぁはぁはぁはぁ、
「ユリさん?」
「えっ、」
私は突然手を握られた。
「ユリさん、大丈夫です」
話し合いはいつの間にか進み、ゴブリン村の対策についてな試合が行われている。
「アルトさんは、大丈夫です。必ず戻ってきます。彼は私たちに戦いを託したんです。だから、一緒に」
私のモヤのかかった思考が晴れていく。
「アルス、ありがとう」
私彼女の手を強く握りかえす。
まだ子供の手だ。
私は何を考えていたのだろう。
アルトさんにどれだけ頼っていたのだろう。
野盗の時も、私が助けるつもりで助けられてしまった。
彼は元勇者だ。
一度世界を救っている。
そしてもう一度、復活した魔王を倒し世界を救っている。
これ以上彼に救ってくれなど誰が言えるだろうか。
今からこの街に訪れるのは、今を生きる者たちが倒すべき危機だ。
「必ず、倒しましょう」
「「バン!!」」
私の覚悟が決まったのと同時に、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ゴブリンが、ゴブリンエンペラーが動きました!!」




