1-29 不安
「ユリさん、そろそろ出発しましょう」
「はい」
護衛依頼の三日目、予定より順調に進んだため早めに村を出ることになった。
この依頼には、私を含めて3人の冒険者と二人のバージの兵が参加している。
全員が優秀な者たちである。
「それにしてもエルフというのは、魔力の底が見えないな」
「確かに魔力は多いですが、しっかりと底はありますよ」
冒険者の一人、ロイドさんが帰り道の途中で声をかけてきた。
彼はバージの街にいた冒険者の中で最もランクが高い、Bランク冒険者である。
身体強化魔法を主に使用する剣士で、彼の軽い身のこなしからは想像できない重い一撃が放たれる。
「君の冒険者ランクはCだが、既にその強さは私を超えているだろう」
「いえ、私はまだまだです。もっと強くならないと」
「そうか、そのあくなき向上心があれば大丈夫だろう。リクにもその心持ちを持って欲しいのだが」
「ロイドさん、それはムリっすよ!俺は自由に気ままにが信条なもんで」
軽い口調で話しているのは、Cランク冒険者のリクである。
彼はロイドさんの弟子のような立場で、同じく剣士である。
「それにしても今回の依頼は楽だったなー」
「優秀な方が揃っていましたから」
彼らだけではない、この依頼に参加したバージの兵も精鋭である。
「はぁー、もうすぐ街についちゃうけど、今日の夜とかどう?暇してない?」
「おい、リク」
「すみません、街に待たせている人がいるので」
「そうかー、それは残念だなー」
「フフ、振られたな」
「笑わないでくださいよ」
ロイドさんの言葉を聞いて、初めて自分が誘われていたことに気がつく。
あいにくそういった経験がないため、彼の言葉の真意を読み取ることはできなかった。
「それにしても、こんなに強いユリちゃんの相手って、いったいぜんたいどんな人?」
「とても強い人です。私よりもずっと」
彼は強い。
私なんかよりもずっと。
そして誰よりも……
「ふーん、そうか」
リクさんは私の顔を見て軽く笑い元の位置へと戻っていった。
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「全員止まれ!!」
街までもう少しというところで、先頭のロイドさんから声が上がった。
後方にいた私には声しか聞こえなかったが、前方からただならぬ動揺が伝わってきた。
私もすぐに前方へ移動する。
「これは、いったい……」
私は目の前に広がる光景に声を失った。
街道の真ん中で馬車が破壊され、周囲に血が飛び散っている。
ここの辺りは魔物が出ることも多い。
おそらく魔物に襲われたのだろう。
「全員こっちに来てくれ」
ロイドさんの声が聞こえ、私もすぐに声の元へ移動する。
「おいおい、こいつはホブゴブリンか!?」
そこに転がっていたのは3匹のゴブリンの死体だった。
だが、ただのゴブリンではない。
ゴブリンの上位種、ホブゴブリンである。
ごく稀にゴブリンが変異することで、上位種に変わることがある。
だが3匹も同時に現れることなどあるのだろうか。
いや、一つだけその可能性が存在する。
私とロイドさん、そしてリクさんの視線が交わる。
3人とも考えていることは同じである。
「早急に街に戻るべきだな」
「はい」
「ちょっと待て、このホブゴブリン耳が切り取られているぞ」
「本当ですね」
「ということは、誰かがこいつらを倒したということか?」
「それ以外に考えられないだろうな。とにかく、今は情報が足りない。もし私たちが考えていることが起こっているなら、今すぐに行動に移さないと間に合わない」
私にはこのホブゴブリンを誰が倒したのかおおよそ見当が付いた。
上位種を3匹同時に相手取るなんて、今のバージでは彼しかできない芸当だろう。
そして、彼なら既に行動に移っているはずだ。
私たちは馬車を走らせ、急いで街へと向かった。
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街に着くなり、私たちは真っ直ぐに領主の屋敷に向かった。
バージの兵が同行していたことから、問題なく向かうことができた。
道中、街の中の異様な雰囲気に気が付かないわけが無かった。
街中で冒険者らしき者の姿を一切見かけない。
それに、街全体がどこか忙しなく動いている。
「ただいま戻りました」
「おぉ、よく戻ってきてくれた!!」
屋敷で私たちを迎えてくれたのは、領主本人サンドルさんだ。
以前野盗の報告をした際に一度顔を合わせている。
声が大きく、元気の良い方といった印象がある。
「早速で悪いが、今から行われる作戦会議に参加してくれ!」
「作戦会議ですか?」
「あぁ、昨日冒険者による報告でとんでもないことが判明した」
「ゴブリンの上位種のことですね」
「おぉ、さすがロイド。すでに知っておったか!」
既に街に情報は伝わっていたようだ。
そして今からそのことについての作戦会議が行われるようだ。
この街での活動が長いロイドさんは領主からの信頼も厚く、とても頼りにされているようだ。
「街の緊急事態、既に冒険者には協会にて待機してもらっている」
「なるほど、それで街の冒険者が少なかったわけですね」
街中で冒険者が見られなかった理由が判明した。
緊急時の場合、冒険者は街の防衛に努める義務がある。
既に緊急事態と判断して行動に移っているようだ。
「既に人は揃っている。今すぐ始めるぞ」
サンドルさんは私たちを一つの部屋に案内した。
そして扉を開けて中に入るように伝えてきた。
どうやらここが会議に使う部屋のようだ。
そして部屋の中に入るサンドルさんの言葉通り、既に何人もの人が待っていた。
「あっ、」
私はその人々の中に勝った顔があることに気がついた。
先日からアルトさんと一緒に依頼を受けているアルスたちである。
だが何故彼女たちがここにいるのか分からなかった。
彼女たちはFランク冒険者だ。
呼ばれるとしたらここではなく、協会の方だろう。
それに、彼女たちと一緒にいるはずのアルトさんの姿も見えない。
私はすぐにアルスたちの元に近づいて声をかける。
「突然ごめんなさい」
「ユリさん!!」
「どうしてあなたたちがここに?」
「私たちがホブゴブリンが現れたことを報告しました。そしたら、色々と聞きたいということでここに」
「そういうことね」
彼女たちがホブゴブリンを倒したとは考えられない。
おそらく同行していたアルトさんが倒し、その報告を彼女たちが行ったのだろう。
「えっと、アルトさんは今どこに?」
「そ、それなんですが……」
アルスだけではない、四人全員の顔色が優れない。
「アルトさんは」
「今から作戦会議を始める!!」
アルスの言葉はサンドルさんの言葉によって遮られてしまった。
どうやら作戦会議が始まるようだ。
アルトさんのことは会議の後に聞くとしよう。




