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1-2 暗闇の中

 懐かしい夢を見た。


 煌びやかな空間、鋭い視線、そしてあの不思議な感覚。

 あの日のことを俺は鮮明に覚えている。

 勇者として召喚されたあの日のことを。



---



 暗い


 最初に感じたのは周囲の暗さだった。

 どうやら、前回のようにお城スタートというわけではないようだ。

 もしかしたら、召喚されたのではなく、女神が送り込んだのかもしれない。

 だとしても


「暗すぎる」


 正直ここが異世界だという実感は全く湧かない。

 だが確かに硬い地面も、ジメジメした空気も、この肌で感じることができている。

 その感覚がここが夢の中ではないことを教えてくれる。

 

「ん?」


 俺は視界の端に微かな明かりをとらえた。

 おそらく十数メートル先がぼんやりと明るくなっている。


「懐かしいな」


 俺の体は久しぶりに緊張感を感じている。

 元の世界に戻ってからは、感じることはできなかった緊張感。

 ここは異世界、いつ何が起きても不思議ではない。

 もしこれが一度目の異世界転移なら、あと数分はここを動くことはできなかったかもしれない。

 だが俺は二度目である。


 両手を上に上げ、頭上に空間があることを確かめる。

 これでいきなり頭をぶつける心配はない。

 ここは立ち上がって歩いていきたいところだが、目の前の暗さでは一歩先も闇である。

 俺は慎重に両手を地面につけると、そのまま屈んだ姿勢で明かりの方に近づいていく。

 常に地面の様子を警戒しながらゆっくりと進んでいく。

 地面を触った感じ、どうやら石のようなもので床が作られているとわかった。


(ここは人工的な空間なのか?)


 俺は周囲を警戒し、声を抑えて考える。

 最初は夜の闇だと考えたが、どうやらそういった感じではない。

 それに外なら、風の一つでも吹いていないと不自然である。

 考えられるのは、ここがダンジョンのような場所、あるいは誰かの家の中といった可能性である。

 最悪の可能性として、この暗闇そのものがこの世界を救う目的であるというものだが、流石にこれはないだろう。


 そんなことを考えながら、俺は明かりの近くまでやってきた。

 あかりに近づき気がついたが、どうやらそこは曲がり角のようである。

 曲がった先に光源があり、そこから灯りが漏れているといった感じだ。

 俺は壁に背をつけ恐る恐る曲がり角の先を確かめた。


「ふー」


 そこで初めて大きく息を吐き出した。

 曲がり角の先には優しく光る壁があっただけだった。

 その壁に触れてみるが特に変わったことはない。

 ただの光る壁のようだ。

 

「ふー」


 俺はもう一度大きく息を吐いて額の汗を拭った。

 暗闇というのは心追い詰める。

 おそらくほんの数分の出来事だったが、俺の額にはびっしりと冷や汗が出ていた。

 汗を拭って気がついたが、俺の服装は部屋を出てきた時のものだった。

 裸で送られなかったとひとまず安心しておこう。


 ほんの少しの明かりでも、心を落ち着かせるには十分な役目を果たしてくれた。

 俺は明かりの下であらためて今の状況を確認する。

 

 今いるのは異世界で間違いない。

 転移させられた場所は、人気のない人工的な空間。

 この空間がどれだけ広いのかは分からない。

 服以外に手元には何もない。

 次の明かりは一切見えない。


「困ったな」


 状況はかなり悪い。

 手元に何もない以上、ここには長居できない。

 でなければ、飢え死には避けられないからだ。

 だが移動するにも問題がある。

 次の明かりは一切見えないということだ。

 つまり俺はこの先暗闇の中を進まなければいけない。

 全くおかしくなりそうだ。

 ここが異世界なら……


 思考を巡らせていると、俺はある一つの可能性に辿り着いた。

 今はとにかく試してみるしかない。

 俺はすぐにある言葉を口にした。


「プチファイア」


 一瞬にして目の前が明るくなり、思わず目をつぶってしまった。


「ハハハ」


 指の先に灯る小さな炎を見て、俺の口から笑みが溢れた。



---



 暗闇の中を手元の僅かな明かりを頼りに進んでいく。

 明かりのない暗闇で八方塞がりだと思ったが、俺には解決方法が残されていた。

 一か八かで試した魔法の詠唱。

 それが成功したのだ。


 だがここで一つの疑問が生まれた。

 今俺が使った魔法の詠唱は、前の異世界で使用されていたものである。

 今回の女神には説明されなかったが、異世界転移されると言語に自動翻訳がかかるらしい。

 これは一度目の異世界転移の際、女神から聞いている。

 この情報を踏まえると、俺の口から出た魔法の詠唱もこの世界の詠唱に自動翻訳され効果を発揮したのだろうか。

 正直ここはよく分からない。

 だがひとまず、助かったと考えておこう。


「おっと、」


 そんなことを考えながら進んでいると俺はとある場所にぶつかった。


「マジかよ」


 ここまで魔物の類には遭遇していないため、少しずつだが独り言も増えてきている。

 そして、そんな俺の目の前にあるのは階段だ。

 しかも、下りの階段である。


 ここで俺には二つの選択肢が浮かぶ。

 一つはこのまま階段を降りるということ。

 もう一つは引き返して反対方向に向かうということだ。

 幸いここまでは一本道であったため、迷うことなく戻ることができる。


「……進むか」


 俺が選んだ選択はこのまま階段を降りるというものである。

 正直ここがどのような場所なのかは見当がつかない。

 一般的に考えるならダンジョンだが、そのダンジョンが地下にあるとは限らない。

 もしこれがタワーのようなダンジョンなら正解は下に降りることである。

 なら、目の前の選択肢を一つずつでも潰すしかないだろう。


 俺はそう考え、勇気を持って階段を下った。

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