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1-1 再び異世界へ

 夢を見ていた。

 長く、そしてとても楽しい夢を。


「アルト、ご飯よー!!」

「はーい」


 俺は急いで階段を降りて、自分の椅子へと腰をかけた。


「今日は引越しの日なんだから、寝癖はしっかり治しなさいよ」

「はいはい」


 俺、小林在音は普通の高校生、いや、もうすぐ大学生になる青年だ。

 勉強も運動能力も特段目立つことのない成績である。

 強いて言うなら、特徴があるのは自分の名前くらいだろう。

 在音アルトいわゆるキラキラネームというやつである。

 俺はこの名前を気に入っている。

 覚えやすく、素敵でいい名前だ。


「ふふ、」

「ん?どうかしたの?」


 母は何かを思い出し下のように笑った。


「ちょうど一年くらい前かな、アルトが変わったのは」


 1年前、それはちょうど俺が異世界から戻ってきた頃だ。

 更に言えば、異世界に送られた時でもある。


 1年前、いや、体感で言えば4年ほど前だが俺は突然異世界に送られた。

 そして色々とあって魔王を倒し、この世界へと戻ってきたのだ。


 戻ってきた時は送られた直後で結構取り乱した記憶がある。

 両親に久しぶりなんて言ったり、友達の名前を間違えたりしたのは、正直忘れたい過去だ。


「ほんと、子供は一瞬目を離しただけですぐ成長しちゃうんだから」

「ハハハ、」


 本当は一瞬じゃないんですなんて言えるはずもなく、俺は乾いた笑い声を出すのが精一杯だった。



---



「こうして一人になるのは久しぶりだな」


 引っ越しを終え、俺は一人部屋の中でそう呟いた。

 一週間後には大学の入学式が始まり、俺の新しい生活が始まる。

 一人暮らしに不安はなく、割と落ち着いた気持ちで過ごしていられる。


「まぁ、あんな経験をしたからな……」


 瞼をつぶれば、つい昨日のことのようにあの景色が思い浮かぶ。


「エンチャント:ファイヤ」


 もちろん何も起きない。


「なんか恥ずかしくなってきたな……」


 部屋に反響した俺の声に恥ずかしさを覚え、俺は外へと出た。


 3月の終わりといえ、まだまだ夜は冷えている。

 知らない街の夜はどこか怖さと、それ以上の煌めきを持っていた。


 少し歩くと、街灯に照らされた小さな公園が見えた。

 俺はそこまで歩くとベンチに腰を下ろした。


「東京でも月は見えるんだな」


 俺は真上の月に向かって手を伸ばした。

 

 ありきたりな表現だが、手を伸ばせば月に手が届きそうである。


 そう、月に手が届……


 そこで俺の視界は真っ白に包まれた。



---



 見覚えのある景色だった。

 二度と忘れることのできない景色だった。

 そして、二度と見ることがないと思っていた景色だった。


「初めまして、私は女神です」


 目の前の神々しく美しい女性はそう名乗った。

 初めまして?

 そう、初めましてなのだ。

 俺はこの場所の記憶がある。

 だが、目の前にいる女性の記憶は全くない。

 俺が知っている女神とは異なる女神が今俺の目の前にいる。


 いや、そもそもなんで俺はこんな場所にいるんだ?

 まさか、再び異世界に?


 俺の頭の中をさまざまな疑問が飛び交った。


「おそらく、さまざまな疑問が頭に浮かんだでしょう」


 まるで俺の考えを理解したかのように女神は話を続ける。


「あなたをとある世界を救うために私が選びました。今からあなたには一つの能力を授けます。その力を使い、その世界をお救いください」


 どうやら目の前の女神が俺の思考全てを理解している訳ではないようだ。

 俺が二度目の異世界転移であることを話に出さないのはあまりに不自然すぎる。

 というか、この空間に来てから声を出すことができない。

 そもそも視線を動かすこともできない。

 考えられるのは、自分の意識だけこの空間にあるといった形だろうか。

 前にこの空間に来た際は、女神と話をすることもできた。

 だが今回はその時とはかなり異なるようだ。

 おそらく、女神それぞれのやり方があるのだろう。


「それでは今からあなたに能力を授けます」


 前回と異なる状態といっても、変わらないものもある。

 それは能力の授与だ。

 前回もこの流れと同じようにして、女神から一つ能力を頂いた。

 能力はとてもシンプルな、「魔力貯蓄チャージ」だ。

 今回の転移でその能力が使えるかは分からないが、もらえる能力が今後の運命を決めるのは確かである。


「では、こちらのルーレットを回しますね」


 女神がそう言うと、目の前に電光掲示板のようなものが現れた。

 どうやら、そこに書かれた能力が手に入るようだ。


「スタート」


 俺ではなく女神の合図でルーレットが回り出した。


「ストップ」


 そして女神の合図でルーレットは緩やかに止まり始めた。


「限界到達点オーバーリミット」


 ルーレットはその文字を表して止まった。


「あなたに授ける能力は『限界到達点』です。この能力は1日に1分だけ、自身の限界値の能力を引き出すことができます」


 これは……正直なんとも言えない能力だ。

 確かに自身の最大の力を引き出せるのは凄まじい効果だ。

 だが、1日1分というのがあまりにも使いづらすぎる。

 今回の異世界も地道な修行は必要不可欠かもしれない。


「あなたにはこの能力を使い、世界を救っていただきます。もちろんそれ相応の報酬を用意しています。世界を救った際には、あなたの望みを一つ叶えさせていただきます」


 これは前回とは異なる点だ。

 前回はこの段階で俺は元の世界に戻ることを女神と約束した。

 もちろん、その選択に後悔はない。

 だがもし、あの時別の選択をしていたら?

 俺はあの世界に残ったのだろうか?

 大切なあの仲間たちのところに。


 いや、そんなことを考えても仕方ないだろう。

 いくら考えても、もう彼らには会えないのだから。


「それではどうぞ素敵な異世界生活を」


 女神は素敵な笑顔が少しずつ薄まっていく。

 あぁ、ここからまた始まるのだ。

 きっと辛くて、苦しくて……それでも楽しい異世界生活が。


 新しい世界、新しい冒険、その先に俺はどんな選択をするのだろう。

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