0-1 旅の終わり
「はあぁぁぁーー!!」
俺の全力の一撃は目の前、そしてこれから先の不安すべてを消しとばすものだった。
その一撃は真っ黒に染まった空を突き抜け、はるか高く天まで到達した。
「はぁ、はぁ、ついに……やったのか」
俺は自身に差し込む眩い光を見て確信した。
こうして日を浴びたのはいつぶりだろうか。
覚醒した魔王によって世界は黒く染められた。
その黒き世界は少しずつ生き物たちを苦しめていた。
だがそれも今終わった。
「「アルト!!」」
共に戦った仲間たちが俺の元へ飛び込んできた。
「みんな無事か?」
「バカ!!あんたの方が……無茶ばかりして」
魔法使いのレイ、彼女が顔に涙を浮かべたのは初めて見た。
高潔なエルフである彼女は滅多なことではその表情を崩さない。
そんな彼女が子供のように泣きじゃくっている。
「アルト、ありがとよ」
「あぁ、」
俺は真っ直ぐに差し伸べらた手を強く握り体を起こした。
剣士のザック、今俺に手を差し伸べてくれた男だ。
誰よりも優しい男で、俺はこいつの優しさに何度も救われた。
「ついに、成し遂げましたね」
俺たち三人に癒しの魔法をかけながら、魔法使いのリンは優しく笑った。
彼女が扱うのは、支援系の魔法である。
彼女の存在が戦局を大きく分けると言っても過言ではないだろう。
「長かったな」
「そうか?俺は短く感じたけどな」
「私も短く感じだわ」
「そりゃ、エルフの時間感覚だからだろ」
「確かにエルフの方は私たち人間とは時間の感覚が異なりますからね」
長命種であるエルフにとって、1年、10年、さそして100年もそう変わらないものなのかもしれない。
それでも、俺たちと過ごしたこの時間が彼女にとって生涯忘れられないものだったら、俺たちも嬉しい限りだ。
「あっ、アルトさん……」
最初に気がついたのはリンだった。
支援魔法を扱う彼女だからこそ、この違和感に気がついたのかもしれない。
「あぁ、やっぱりそうか」
俺は彼女の表情、そして自身の感覚で何が起きているのかを理解した。
「どうやら時間みたいだな」
「アルト、どうしようもないのか?」
「すまない、ザック。俺にはどうにもできないことみたいだ」
魔王を倒した今、俺の体は役目を終えこの世界から消えようとしていた。
この世界に来た時女神と交わした最初の約束。
魔王を倒した後、俺は元の世界に戻ると。
その時にある程度の好条件が付与されるが、今その話はしなくていいだろう。
目の前の彼女たちも俺が元の世界に戻ることは知っている。
だが、理解できても納得はできないようだ。
「アルト……私は……」
「レイ、エルフ族である君はきっとこれから何百年も生きていく。だから、俺たちの戦いをずっと伝え継いでいってほしい。平和になった世界の誰もが知れるように」
「……あぁ、必ず……約束だ」
彼女はすでに感覚のなくなった腕を握りしめた。
不思議と暖かさを感じた。
「俺たちはこいつと違って寿命は短いからな。これからも後悔しないように生きるぜ!」
「はい、必ずアルトさんが守ったこの世界をより素敵なものにして見せます!」
ザックとリンはそう強く言葉にしてくれた。
「本当に楽しい時間だった」
「あの旅が楽しかったなんて、とんでもないへんた……いや、俺も同じ気持ちだ」
「私も楽しかった」
「私もです」
俺の彼らの最後の記憶は、満面の笑みだった。
こうして一つの物語は幕を閉じた。
異世界から呼び出され、勇者となった青年。
勇者の仲間として魔王討伐の旅に出たものたち。
彼らの辛く苦しくも、楽しい冒険の旅はここで終わりを告げた。
だが彼らの人生は終わらない。
これから先、何を残すのか。
どのような運命が待っているのか。
世界はただ動き続ける。




