1-26 上位種
「シータ、レオンの傷は?」
「はい、私の魔法で治ります」
肩に傷を負ったレオンをシータが回復魔法で癒している。
幸いにも傷口は浅いため、問題なく治せるだろう。
「これは、まずいな」
俺は近くに倒れているゴブリンシャーマンを見ながら、最悪の可能性を想像する。
ゴブリンシャーマンとは、ゴブリンの上位種で魔法を使うゴブリンである。
そのままの単独でも、通常のゴブリンよりはるかに脅威である。
だが、本当の問題はそこではない。
ゴブリンシャーマンがいるということは、高確率でゴブリンエンペラーがいるということだ。
つまり、近くでゴブリンの村が形成されているということだ。
「すまない特訓は中止だ。ここらは俺の指示に従ってくれ」
「はい」
ゴブリンの村があると仮定される以上、すぐに行動に移さなければいけない。
「レオンの傷が治り次第、俺たちは森を出て街へと向かう。そしてすぐにゴブリンシャーマンが現れたこと、ゴブリンの村が作られている可能性があることを報告する。もし村ができていた場合、街の戦力全てで対応する必要がある」
「そ、そんなに危険なのですか?」
ゴブリンエンペラーのことなど、彼女たちが知るはずもない。
正確な脅威は伝わらないだろう。
だから、
「あぁ、最悪バージが滅ぶ可能性がある」
今は俺の言葉を信じてもらうしかない。
「わ、わかりました。すぐに行動しましょう」
アルスは息を飲んだ後、力だよく返事をした。
「傷治し終わりました」
「みんな悪い、迷惑かけちまった」
「レオン、気にするな。あれは止められなかった俺のミスだ。今はいち早くこの場を離れるぞ」
レオンが問題無く動けることを確認し、俺は急いで森を離れることにした。
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「俺の後ろを離れるなよ」
異様な気配が充満した森の中を俺たちは進む。
この以上な気配にあてられてアルスたちの動きは硬くなっている。
それでも俺の指示に従って後ろを離れずについてきている。
「よし、森の出口だ」
見覚えのある場所が見えた。
森から街道に出られる場所である。
「街道に出たらすぐに街へと向かうぞ」
「はい」
これから俺たちが取る行動は既に明確にしてある。
なんとか街までなんの問題もなく辿り着きたいが……
「ック!!」
俺は急いで手を広げてアルスたちを静止させた。
そして後ろを振り向き、息をころすように合図を出す。
すぐに四人は近くの茂みに身を隠した。
俺はそれを確認し、気配を消しながら森の外を確認する。
そこには見るも無惨な光景が広がっていた。
破壊された馬車、少し離れた場所で横たわっている馬、そして血だらけの……
「遅かったか」
既に事態は最悪の一歩手前まで来ていると認識を改めるべきだ。
馬車の大きさからして、この馬車には護衛が付いていてもおかしくない。
それがただのゴブリン相手にこうなるとは考えられない。
つまりこの馬車を襲ったのは上位種の可能性が高い。
通常のゴブリンが溢れて森から飛び出すなら、まだそこまで問題じゃない。
だが森を出たのが上位種というなら大問題だ。
既にゴブリンの村では、上位種も残れない状況になっているということだからだ。
「やっぱり残っていたか!」
馬車の近くからゴブリンが飛び出してきた。
あれは上位種のホブゴブリンだ。
シャーマンとは違い魔法などは使わないが、単純にゴブリンより体格が倍近く大きい。
飛び出してきたのは3匹のホブゴブリンだ。
「ウインドカッター」
俺は風の刃で3匹のホブゴブリンを葬った。
「出てきて大丈夫だ」
俺は隠れていたアルスたちに合図を出す。
その声を聞いて四人は森から出てきた。
そして目の前の惨状に声を失っている。
俺は状況を理解させるためにも、簡単に説明する。
「上位種が森から出始めている。今俺が相手にしたのはホブゴブリンだ」
四人は俺の前に転がるホブゴブリンの死体を見て、もう一度息を飲んだ。
「方針を変える」
俺はここで大きな決断をする。
「街へは俺以外の四人で行ってもらう」
それは、街への報告をアルスたち四人に任せるということだ。
ここから街まではそこまで離れていない。
おそらく問題なく辿り着けるだろう。
「アルトさんは残るのですか?」
「あぁ、事態が思ったより深刻だった。俺は森に残って少しでも状況をよくしてみせる」
「いくらなんでも、危ないんじゃねぇのか?」
身をもって上位種の危険さを知っている分、レオンは俺の行動を心配してくれている。
「危なくないと言ったら、嘘になるな」
「それなら私たちと一緒に街へ行きましょう」
「そうです。その方が確実です」
シータとギルも俺の行動を止めてくれている。
「アルス、任せてもいいか?」
俺はアルスの目をまっすぐに見つめる。
「……わかりました」
「アルス!!」
「私だって、もちろん心配です!!でも、アルトさんを信じます!!」
「ありがとう」
アルスは自分を押し殺しながら、俺の判断に従ってくれた。
「アルス、シータ、魔力はまだ残っているか?」
「は、はい」
「すまない、その魔力を俺に分けてくれ」
「えっ、でもそんなこと……」
魔力の譲渡、それは自身の魔力の流れを正確に把握していなければ難しい技術だ。
だから俺はいつもユリに頼んでいた。
「俺の肩に手を置いてくれ」
「は、はい」
二人は俺の肩に手を置いた。
「ここまで黙っていて申し訳ないが、俺は魔力の消費がとても大きいんだ。だから、魔力を分けてもらえるか?」
「もちろん構いませんが、私たちそんな高度な技術はもっていませんよ」
「大丈夫だ、俺の方から魔力を受け取りに行く」
俺は自身の意識を集中させる。
これまで何度もユリから魔力を受け取ってきた。
そのおかげで体は魔力の繋がり、そして流れを覚え始めている。
おそらく効率は格段に落ちるはずだ。
それでも、
「二人ともありがとう」
「ほ、本当に私たちの魔力が」
「あぁ、バッチリと受け取ったぜ」
二人から魔力を貰うことに成功した。
おそらく二人の魔力はほとんど残っていない。
効率的には半分ほどの魔力はどこかに消えてしまったが、俺の中に確かに二人の魔力が渡ってきている。
「四人とも俺の近くに来てくれ」
俺は四人に近くに来るように声をかける。
「エンチャント:ウインド」
俺は四人に風のエンチャントを施した。
これにより彼らはあらゆる抵抗を無視して動くことができるはずだ。
「こ、これは!?」
「秘密の特別な魔法さ」
「アルトさん、あなたはやっぱり……」
「おぉ!!すげぇぇ!!」
「これならすぐに街まで行けますね」
四人はそれぞれの反応を見せた。
「みんな頼んだぞ」
「はい、必ず伝えて見せます」
「この耳を持っていけば、必ず事態の深刻さが伝わるはずだ」
彼女たちにはホブゴブリンの耳を持たせてある。
これは少しでも情報の正確性を上げるためだ。
「アルトさん、無事でいてくださいね」
「あぁ、お互いやるべきことをやろう」
「「はい!!」」
四人は街へ、そして俺は森へと駆け出した。




