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1-24 魔道具

「ということがあったわけなんだ」


 俺は夕食を食べながら、今日の出来事をユリに伝えた。

 アルスたちと初めてゴブリン退治に行き、彼女たちの成長を見守りながら15匹の討伐に成功した。

 ゴブリンの素材はあまり高い値段がつかないため、魔核だけを持ち帰ってきた。

 討伐の証拠も魔核で充分である。

 そして今回の依頼の報酬を5人で割って、俺の手元には7000円が入ってきた。


「流石アルトさんですね。依頼をこなしながら、あの子供たちの面倒を見るなんて、私ならできません」

「いや、そんなに大したことじゃ無いさ。彼らに教えているのはあくまで基本的なものだけだ。冒険者としての基本的な知識、意外と学べる場所は無いのかもしれないな」

「確かにそうですね。魔法学園はありますが、冒険者としての必要な知識を学ぶという意味では、少し違うかもしれません。冒険者自体、学ぶより体感しろという方針が強いのもあるかもしれません」


 冒険者の育成制度などがあれば、もっと安全に若い世代を育てることができそうだが……


「その魔法学園というのは?」


 俺はユリの話に出てきた魔法学園というものについて尋ねてみた。

 少なくとも、千年前には存在していないものである。


「はい、魔法学園は王都にある施設です。魔法に関するあらゆる知識が集まっていて、魔法を使うものなら誰もが通いたいと思う場所です」

「ユリもそこに通っていたのか?」

「いえ、私は魔法学園には行っていません。ありがたいことに魔法に関しては、エルフの森で充分に学ぶことができたので。それに、私は自分の手と足を使って魔法を集める方が楽しいですから」


 ユリはあまり興味が無さそうだが、俺は魔法学園というものに強く興味を覚えた。

 魔法に関するあらゆる知識、それは俺の時代に使われていた魔法の情報も残っているのだろうか。


「魔法学園に通う生徒のほとんどが、貴族や経済的に恵まれ者たちです。生徒数を絞っているからこそ、整った環境で優秀な生徒を排出できるそうです」


 どうやらこの世界には、義務教育というものはまだできていないらしい。

 魔法学園という学びの場はあるが、限られた人しか学べない。

 教育という意味では、まだまだ改善するべきことがあるかもしれない。



---



「レオン、まだ飛び出さないでね」

「わかってる」


 茂みに隠れる俺たちの前に3匹のゴブリンがいる。


「ゴブリンは3匹だけのようです」

「よし、ギル準備はいいな」

「うん」


 シータの魔法によって、彼らの声は魔物たちに聞こえづらくなっている。

 その魔法を活用して、しっかりと準備を整える。


「今!!」


 アルスの合図でレオンとギルが前に飛び出す。

 同時にアルスも魔法の詠唱へと移る。


「喰らえ!!」


 レオンが手前のゴブリンを肩から大きく切り裂いた。

 すぐに近くのゴブリンが寄ってきたが、ギルが死角からゴブリンの喉をついた。

 そして、残されたゴブリンが二人に気がつき襲ってこようとした時には、既にアルスの手から魔法が放たれた。


「近くに他のゴブリンはいません」


 シータの報告を受け、この戦闘は完了する。


「よっしゃーー!!」


 レオンが喜びの声を上げる。

 シータの魔法がかかってるとはいえ、あまりに大きな声を出すと魔物が寄ってくるから気をつけて欲しい。

 だが、今の彼らの動きは合格点を挙げてもいいだろう。


「いい動きだったな」

「だろー?」

「レオン、調子に乗らない」


 まだまだ改善すべきことはある。

 だが彼らは確実に成長している。

 俺がこの街にいる間で、どこまで彼らを育てることができるだろうか。



---



「ユリ、一緒に魔道具を見に行かないか?」


 バースに来てから一週間、レオンたちは今日は依頼を受けないそうなので俺の日程も丸一日空いている。

 依頼のおかげでそれなりに懐も潤ったため、当初目標にしていた魔道具店に行くことにした。

 せっかく行くなら、ユリと一緒に見に行きたい。


「もちろん行きます。私の魔道具の知識が役立つ時が来ましたね!!」


 魔道具が大好きな彼女がいれば、様々な魔道具を教えてくれるだろう。

 俺たちは朝食を済ませたらすぐに魔道具店の方に向かった。



---



「いらっしゃい」


 外観だけならこの一週間で何度も見た魔道具での中へと入った。

 店内の印象は、個人経営のスポーツショップのような感じである。

 この店の店主は中年の男性で、少し怖い見た目をしているが評判の良い方らしい。


「へぇー、いろいろあるんだな」


 店内に入って最も目につくところに置かれているのは、剣や槍、杖などの武器類である。

 少し奥には、ランプや鍋などの日常的に使える魔道具が置かれているのが見える。


「アルトさんは、何が目当てですか?」

「そうだな、色々と興味はあるが……やっぱり一番は剣だな」


 魔力があればクリエイトで剣を作ることも可能だが、今は魔力切れを考慮して剣を一本持っておきたい。

 もし魔力が完全に切れた場合でも、剣が一本あればなんとかなる可能性もある。


「なるほど、剣ですか……では、この剣なんてどうですか?」


 ユリは近くにあった剣を一本手に取り、俺に見せてきた。


「これは氷結剣です。この剣で対象を斬れば、たちまち相手は氷漬けになります」

「確かに便利そうだが、剣にエンチャントすれば同じことができそうだな」

「うっ、確かにそうですね」


 エンチャント魔法を使い、剣に氷の属性を付与すれば、この氷結の剣と同じことができるだろう。


「そうなると、この灼熱剣も疾風剣もダメですね」


 ユリが名前を上げた剣はどれもエンチャント魔法を使うことで再現できるであろう剣だ。

 そもそも、魔道具の剣を求めること自体間違いなのだろか。

 俺の場合、一般的な普通の剣を使った方がいいのだろうか。

 いや、それでも俺は魔道具の剣を使ってみたい。

 せっかくこの世界で魔道具という技術が進歩したのなら、使わないのは勿体無い!!


「ユリ、極力特殊な効果を持たない、魔力の消費も少ない魔道具の剣は無いか?」

「それは……店主さんに聞いてみましょう」


 ユリの反応からして、俺が求めているような剣はまず見つからないのだろう。

 それもそのはず、俺が出した条件なら魔道具である必要がほとんどないからである。


「そういうことなら、一本だけいい剣があるぞ」

「本当ですか!?」


 店主は俺の要望を聞いて、店の奥の方に向かった。

 そして一本の剣を持って戻ってきた。

 刀身が黒く輝く漆黒の剣だ。

 

「この剣は特殊な属性が付与されているわけではねぇ」

「えっと、それも魔道具なんですよね?」

「あぁ、正真正銘の魔道具だ。この剣には特殊なスライムの魔核が使われていてな、傷ついても勝手に修復する特徴を持っている。ただそれだけだ」


 魔道具というには、あまりにも地味な効果だ。

 この剣を使ったからといって、特別強くなるわけでもない。

 ただ自力が試されるだけの剣だ。

 だが、それがいい。

 この剣は俺にピッタシの剣だ。


「それをください」

「本当にいいのか?」

「えぇ、俺にピッタシの剣です」

「そうか、それなら少しまけといてやる」

「ありがとうございます!!」


 俺はただ壊れないだけの剣を二万円で購入した。

 本当にただ壊れないだけ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 それでも、初めて手にする自分の魔道具というのはとても喜ばしいものだった。

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