1-23 反省会
目の前のゴブリン4体の討伐を終えた。
そのタイミングで俺は一度反省会の時間を取ることにした。
彼らの動きは決して悪いものではなかった。
だが、これから上を目指すには、子供4人で冒険者をしていくには足りないことが多すぎる。
「まずはレオンの反省点だな」
先ほどの俺の魔法を見てか、4人を大人しく俺の話を聞いてくれている。
「ゴブリンを見てすぐにレオンは飛び出した。この行動自体はそこまで悪いものじゃない。積極性があるのは良いことだからな。だけど、そこでゴブリンを一匹しか倒せなかったのが問題だ。奇襲をするなら、最も効果的なタイミングで行うべきだった。例えば、足元の枝を投げてゴブリンの視線を誘導してから奇襲を仕掛けるなど、工夫が必要だったな」
「うっ、そうだな」
俺の指摘を受け、レオンは苦しそうに返答した。
「次にギルの反省点だ。アルスの判断に従っての冷静な行動を良かった。だけど、最善の選択はレオンと一緒に飛び出すことだった。レオンの言動から、普段も同じような行動をとっていただろう。もし、あの時にギルも一緒に飛び出せば、同時に二匹のゴブリンを倒すことができたはずだ」
「は、はい」
「今回の行動が間違いというわけではない。大切なのは、自分の役割を理解してどのような行動をとるべきか理解しておくことだ」
ギルの職業は槍術士だ。
剣士より間合いの優位があるとはいえ、前衛職に分類される。
この4人で組むなら、やはりギルの役割はレオンと一緒に前に飛び出すことだろう。
「アルスは、レオンが飛び出したことに対する判断も早く、魔法の選択と発動も良いものだった」
「あ、ありがとうごさいます」
「だけど、おそらくレオンのこういった行動は今回が初めてじゃないだろ?」
「はい、いつも同じように魔物と戦っています」
「なら、事前に仲間の動き方を明確にしておくことが必要だ。アルスはこの集団をまとめる立場にあるはずだ。レオンが飛び出したらギルが付いていく、レオンはアルスの指示で飛び出すなど、いくつか決めておくべきだな」
「はい」
リーダーというのは大変な立場である。
彼女に要求したことは、単なる魔法使いではなく、チームをまとめるリーダーとしての動きだ。
だが、彼女ならきっと素晴らしいリーダーになることができるだろう。
「シータは、自分の役割を理解して木陰に身を潜めていた。これは良い判断だ。シータが使う魔法は、おそらく回復魔法が中心のはずだ」
「は、はい。私が使えるのは回復魔法と味方の身体能力を少し上げる魔法です」
彼女は森に入る前にレオンたちに触れて何やら魔法を唱えていた。
おそらく他者にかける身体強化の魔法だろう。
そしてもう一つ彼女が使えるのは回復魔法。
どちらも直接魔物と向き合うのには適さない魔法だ。
「確かにその魔法は直接魔物と戦うのには向いていないかもしれない。だけど、シータの役割はそれだけで終わらないはずだ。直接魔物と戦わなくても、戦闘を見ながら指示を出すこともできるはずだ。そうしていれば、アルスの負担を減らし、魔法使いをより効果的に活かすことができるだろう」
「が、頑張ります」
支援魔法使いを最も効果的に使うなら、そもそも戦闘の場に連れてこない方が良い。
だがそれは、もっと大規模な戦闘規模だから成り立つことだ。
少人数で構成する冒険者なら、彼女も共に前に出る必要がある。
そういった時に、仲間たちのために何ができるのか考えておく必要がある。
「そして全員の問題点だが、まず初めに敵の正確な把握が必要だな。目の前に現れたゴブリンに気を取られて、頭上に隠れていたゴブリンに気がつけていなかった。そのせいで、レオンとギルは危ない目に遭いそうになった。ここは魔物の生息地、常にどこから現れてもおかしくない。端的に言えば、警戒心が足りなかったな」
彼らはこれまで何度か魔物の討伐の依頼を受けたことがある。
だから、油断や慢心が生まれてしまったのだろう。
平和になったこの世界で常に警戒心を持つ必要は無い。
それでも、魔物と戦う時は常に警戒心を持つ必要があるだろう。
「反省会はここまでだな。まだ時間はたっぷりある。反省を活かしてゴブリン退治の続きといこうか!」
「おう!!」
レオンは元気良く返事をして立ち上がった。
ギルもその様子を見て、立ち上がる。
シータも2人を追いかけていく。
「アルトさん、あなたはいったい何者なんですか?」
俺の前に一人残ったアルスがそう尋ねてきた。
「私たちと同じFランク冒険者でありながら、私たちとはまるで違う強さを持っています。シータから、魔法の詠唱を限りなく短縮していたと聞きました。その領域にいるあなたが、なぜFランク冒険者なのですか?」
アルスは俺の強さに疑問は持っていない。
ユリの話や、実際の俺の実力を見てそう判断してくれている。
だからこそ、俺という存在自体を怪しんでいるのだ。
「ただ単に、魔物との戦闘経験が豊富なだけだよ」
「それこそおかしな話です。冒険者になったのはつい最近なのに、魔物との戦闘経験は豊富。矛盾しています」
そうか、この時代で魔物と戦うのは冒険者くらいだ。
前の時代は、ありとあらゆる人が魔物と戦っていた。
だからこそ、人の強さが今の時代とはかけ離れていたのだろう。
そして今の時代において、冒険者でも無いのに戦闘経験が豊富な俺という存在は極めて異端なのだろう。
「これはあくまで私の仮説です。自分でもこんな考えは到底馬鹿げていると思います。それでもこう思わずにはいられません。あなたの名前とその強さ……伝説の勇者様なのでは無いですか?」
「もしそうだったら?」
本当のところ元勇者とバレるかどうかはどうでも良い。
アルトという名前をそのまま使っている以上、こういう場合も想定している。
それでも、元勇者だとバレて面倒ごとに巻き込まれるのだけは避けたい。
だから彼女の返答次第で、この場を……
「もし本当の勇者様でしたら、こんな私たちを見ていただけで嬉しい限りです」
「……それだけか?」
「はい、それだけです」
「周りに言いふらしたりは?」
「するわけありません。したところで鼻で笑われるだけです。それに、あなたが勇者様であるより、同じ名前のただただ強い人という可能性の方が高いです」
「そうか、そうだよな」
俺は勇者と同姓同名のただの強い人。
その認識でいてもらえるならとても助かる。
「アルトさん、私たちはまだまだ冒険者として未熟者です。しばらくの間、私たちを鍛えてくれませんか?」
「あぁ、もちろんそのつもりだ。俺も今は金欠で、しばらくはこの街で依頼をこなすつもりだから、同じFランク冒険者としてよろしく頼む」
「ふふ、同じFランク冒険者としてよろしくお願いします」
俺はアルスと固い握手を交わした。
「二人とも何話してんだー!?」
「早く次のゴブリンを倒しに行きましょう」
「私も頑張ります!」
俺たちから少し離れた場所で、レオンたち3人が手を振っている。
俺のアドバイスを聞いてやる気に満ち溢れているようだ。
さて、俺は彼らをどこまで鍛え上げることができるだろうか。
ユリと一緒で、新しい世代の成長がとても楽しみである。




