1-22 ゴブリン退治
「えっと、まずは自己紹介ですね」
当分の資金調達のため、冒険者協会を訪れた俺は、声をかけてきた少女アルスたちと一緒に依頼を受けることになった。
そして今まさに、彼女たちの仲間と挨拶を始めたところだ。
「俺はレオン、Fランク冒険者だ!職業は剣士だ!よろしくな!」
赤色の目立つ髪をした少年はレオンというらしい。
剣士という言葉の通り、彼の背には一本の剣が携えられている。
見たところ、魔道具でもない一般的な剣だろう。
「私はシータです。同じくFランク冒険者です。支援魔法使いなので、精一杯支援できるように頑張ります」
白色の長い髪の毛の少女シータは、大きな杖を持った支援魔法使いのようだ。
魔法使いの中で杖を使うか使わないかは好みが分かれる。
直感的な魔法を使うなら杖なしの方が良いが、理論的な丁寧な魔法を使うなら杖を使う方が向いていると言われている。
あくまで、そう言われているだけだが。
「僕はギルです。Fランク冒険者で、槍を使います。よろしくお願いします」
少し気弱そうな少年はギルで、槍使いだ。
自身の身長の2倍ほどの槍を持っている。
動きからして、あまり槍に慣れていないように見える。
「改めまして、私はアルスです。魔法使いで、みなさんと同じFランク冒険者です」
緑色の特徴的な髪色で、丁寧な言葉使いの少女はアルスだ。
言動からして、おそらく彼女らのリーダー的ポジションを務めているのだろう。
さて、4人の自己紹介が終わりいよいよ俺の番が回ってきた。
「俺はアルト、昨日冒険者になったばかりのFランクだ。戦闘経験は豊富だから、困ったことがあったらなんでも言ってくれ。職業は魔剣士を登録している」
「……アルス、アルス」
俺の自己紹介を聞いてレオンがアルスを手招きしている。
「おい……大丈夫か?この人……」
小声で喋っているが所々声が聞こえて来る。
話の内容的に、俺の実力を疑っているようだ。
まぁ、それも無理はない。
今の俺は魔剣士を名乗りながら剣すら持っていない。
そして依頼を一つも受けたことがないFランク冒険者だ。
「Cランクの冒険者の方が実力は確かだって言ってたから、大丈夫よ!」
あえて俺に聞こえるような声でアルスはそう伝えた。
「それなら……いいけどよ」
レオンも気まずそうにこちらを見て、しばしば納得したようだ。
「全員納得してくれたようなので、改めてよろしくお願いします!」
「あぁ、こちらこそよろしく!」
俺は差し出されたアルスの手をしっかりと握り返した。
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「それでぇよ、俺たちはこの街に来たってわけ!」
「へぇー、それは大変だったな」
今回俺たちが受けた以来はゴブリン退治だ。
場所は街から少し離れた森であり、そこまでの移動時間で彼らとコミュニュケーションをとる時間は充分あった。
そして会話をする中で、レオンを中心にかなり打ち解けることができた。
彼らは元々隣街の教会で面倒を見てもらっていたらしい。
隣街といっても、移動で一日ほど離れている。
生まれ育った村が魔物に襲われ、教会に保護された彼らは、13の歳で教会を出て冒険者になったらしい。
隣街で冒険者登録をし、より稼げる依頼を求めてバージに来たようだ。
子供達だけですごい行動力だ。
「この剣も貯まったお金で買ったもんなんだぜ!」
レオンは自慢げに背中に携えた剣を見せてきた。
決して名剣とは言えないが、手入れが行き届いた良い剣である。
「剣といえば、アルトさんは魔剣士なのに剣は持っていないのか?」
「私もそれは気になっていました」
「僕も」
やはり全員俺の職業と身なりの差に違和感を感じていたようだ。
「あぁ、単純にお金がなくて今は剣を持っていないんだ。だけど安心してくれ、魔法だけでもそれなりの戦力にはなれるはずだから」
「頼みますね」
アルスが力強い目で俺を捉えている。
信頼とは異なるが、これも一種の期待と捉えておこう。
幸いにもユリからいくらか魔力を貰っている。
ゴブリン討伐程度なら問題なくこなせるだろう。
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「着きました」
街を出て30分ほどで目的地の森の前に辿り着いた。
森に沿うように街道が続いており、この街道に魔物が出てこないように森の魔物を狩るのが今回の依頼である。
こういった依頼は冒険者協会では常駐的に置かれているらしい。
「それじゃあゴブリン退治と行きますか!!」
レオンが気合を入れて声を出す。
このチームのリーダ的ポジションはアルスだが、レオンはチームにとっての元気頭なのだろう。
ゴブリン、いわゆる小鬼である。
力も弱くあまり賢くない魔物で、単独なら一般的な成人男性でも倒すことができるだろう。
だが、ゴブリンの脅威は集団でこそ発揮される。
森などに生息しているゴブリンは大抵三、四匹のグループを形成している。
こういった集団を形成した際は、魔法や剣が使えないと危険を伴う。
だからこそ、こうして冒険者に依頼として回ってきているのだろう。
稀な場合ではあるが、ゴブリンの集団が一つの村を形成することがある。
村を作ることができるのは、圧倒的な支配者であるゴブリンエンペラーがいる場合のみである。
この場合の脅威は、正直いって街一つを滅ぼしてもおかしくないものになる。
俺も一度、村規模のゴブリンと戦ったことがあるが、かなり強敵であったことが記憶に強く残っている。
まぁ、魔王がいなくなった今そういった危険性もほとんど消えたのだろう。
「いました」
森に入ってすぐにゴブリンを捕捉した。
二匹のゴブリンがすぐ近くを歩いている。
まだ俺たちに気がついた気配はない。
「よっしゃ俺が行くぜ!!」
一番に飛び出したのはレオンだ。
「喰らえー!!」
俊敏な動きで木の影から飛び出し、手前のゴブリン一匹に奇襲を仕掛けた。
剣に振り回されることもなく、しっかりとした剣士らしい動きだ。
奇襲ということもあり、手前のゴブリンは難なく倒すことができている。
だが、少し離れた位置にいたもう一匹のゴブリンは完全にレオンを警戒している。
「もぉー、レオンはすぐ先走るんだから。ギルレオンの補助をお願い」
「うん」
俺の隣にいたアルスが慌てて魔法の詠唱を始める。
ギルは急いでレオンの方へと駆け寄っていく。
シータは木の影に隠れ息を潜めている。
おそらくこれが彼らのいつもの動きなのだろう。
一匹のゴブリンでも油断はしない。
ここまでの行動は悪くない。
「ウインドカッター」
レオンとギルがゴブリンの意識を惹きつけたところに、詠唱を完成させたアルスの魔法が飛んでいく。
そしてゴブリンの頭を胴からあっという間に離れさせた。
「よっしゃー!!」
レオンとギルは目の前のゴブリンが倒れて喜んでいる。
60点かな。
俺は彼らの行動をそう評価する。
ゴブリンに対して素早く行動を移したこと、不用意なリスクを避けて丁寧に対峙したこと。
これらの行動は評価できる。
問題があるとしたら、彼らは誰1人として気がつけていないことだろう。
魔物との戦いでは小さなミス一つが、命に結びつくことが少なくない。
だからこそ、彼らはまだ戦闘経験が充分でないとわかる。
今回は命まで脅かされることはないだろう。
おそらく軽い怪我程度で済むだろうが……
彼らの不安を取り除くためにも、俺の実力を早めに伝えておいた方が良いだろう。
「サンダーアロー」
俺は日本の雷の矢を手から放った。
矢はまっすぐと飛び、目標の頭に突き刺さった。
ドサ!!
レオンの頭上から二匹のゴブリンが落ちてきた。
「嘘だろ、まだいたのか……」
レオンとギルは目の前に落ちてきたゴブリンに驚いている。
「今、詠唱無しで魔法を……」
俺のすぐそばにいたシータは、俺の詠唱を省いた魔法に驚いている。
「君たちの動きは悪くなかった。だけど魔物との戦闘に必要な警戒心が足りていない。さあ、反省会といこうか」
こうして彼らとチームを組んだのも何かの縁である。
俺がこの身で経験してきた魔物との戦いの経験値を、彼らに伝えていこうと思う。
それが平和を望んで戦った元勇者の役割の一つだろう。




