1-20 種族
冒険者登録。
それは、異世界に来た者なら誰もが憧れるイベントだろう。
今まで感じていた非日常感が急激に加速していくようなものだろう。
俺はそんなイベントを一度目の異世界転移では味わうことができなかった。
冒険者という職業自体が無かったからである。
それから千年の時が過ぎ、この世界にも冒険者協会が作られている。
それなら、登録しないわけにはいかない。
これは俺の小さな夢の一つなのだから。
「それではこちらに手を置いてください」
「はい」
俺は冒険者登録を行うために連れてこられた奥の部屋で、初めて見る機会の上に手を置いた。
「はい、ありがとうございます」
「えっ、もう終わりですか?」
手を置いて5秒も経たずに声をかけられた。
「はい。今のであなたの情報が登録されました」
「えっと、情報というのは?」
「あなたの魔力をこちらのカードに記録しました。同一人物による複数の登録を防ぐ仕組みです」
「個人の能力が記録されたりは?」
「特にありません。カードに記載されるのは、名前・職業・冒険者のランクのみです。ランクとは、一番下のF〜最上位のAまで冒険者を区分けしたものです」
「なるほど、」
この世界にはあまり似つかわしくない説明だったが、理解はできたので飲み込んでおこう。
「今からこちらの紙に必要事項を記入してもらいます。記入された情報はこちらのカードに登録させていただきます」
俺は職員から一枚の紙を受け取る。
その紙には、注意事項と名前・職業を記入する欄が設けられている。
「職業はどのように決めればいいのですか?」
俺は疑問を一つ口にする。
ここでいう職業とは、剣士や魔法使いのようなものだろう。
俺のいた時代にも、ざっくりとした分け方はあったが、この時代では細かく分類されているかもしれない。
「職業はこちらの中から自分に合うものを選択していただきます。必ずこの戦い方をしなければいけないわけではありませんが、仲間を募集する際などはこの職業を参考にすることが多くあります。できる限り、自分に合うものを選ぶことをお勧めします」
そう言いながら職員は俺の前に職業一覧が書かれた紙を置いた。
職業はかなり細かく分類されている。
剣術士や槍術士など、武器を使う職業も細かく分られている。
魔法使いも、攻撃的な魔法を主に使用するか、回復的な魔法を主に使用するかなどに分られている。
盗賊職や武闘家なんてものもある。
まぁ、流石に勇者という職業はないか。
職業一覧には勇者が記載されていない。
記載されていたところで選択するつもりはないが、どこか寂しいところがある。
「とりあえず、これにするか!!」
俺は職業一覧から一番自分に近いものを選択した。
そして選択した職業と名前を紙に書いた。
その紙を何かよく分からない機会に読み込ませると……
「こちらがあなたの冒険者カードになります」
あっという間に俺の冒険者カードが完成した。
名前:アルト
職業:魔剣士
冒険者ランク:F
俺の情報がバッチリと記録されている。
「ありがとうございます!!」
異世界生活、やはりこれがないと始まらない。
俺は満面の笑みで冒険者カードを受け取った。
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「アルトさーん!!」
冒険者協会の中で適当に時間を潰していると、領主への報告を終えたユリが戻ってきた。
「無事に報告できたか?」
「はい!村長さんが手紙を用意してくれたので、滞りなく対応してもらえました」
どうやら、野盗の問題はこれにて完全に解決のようだ。
「アルトさんは無事に冒険者登録……できたみたいですね」
俺は満面の笑顔でユリに冒険者カードを見せつけた。
それを見てユリも笑っている。
「あっ、私も冒険者カード再発行してもらわないと」
「そういえばそうだったな」
「すぐに行ってきますね!」
ユリは冒険者カードを紛失している。
冒険者カードを作る際に記録した魔力は、こういった場合に使用するのかもしれない。
「ユリ、これ魔物のお金な」
「あ、ありがとうございます」
俺は魔物を買い取ってもらったお金をユリに渡した。
再発行にもいくらかお金がかかるようだ。
これでは、あまり手元にお金が残らないな。
「さてと、」
俺は近くの壁に背をもたれながら周囲を観察する。
先ほどまで慌ただしく人が出入りしていた教会も、少し落ち着き始めている。
もうそろそろ閉まる時間なのだろう。
「まぁ、そうだよなー」
俺はこの街に来てから今に至るまで、この目に入った人の特徴を思い出す。
俺が出会ってきた人のほとんどが、人間である。
まぁ、この街が人間の国の一部であることから人間が多いのは想定していたが、想定よりも他種族が少なかった。
エルフ族、獣人族はそれぞれの国を持っている。
それは千年前から変わらない。
お互いの国同士で仲が悪いわけではないが、生活の習慣などの違いから交流はあまり行われていなかった。
だが、魔王という共通の敵が現れたことで三種族が力を合わせるようになった。
俺の仲間たちは、三種族入り混じる集団だった。
それから千年の時が流れた。
もしかしたら種族なんて壁は無くなっているかもしれないと思った。
実際、俺がこの世界で初めて会ったのはエルフのユリだ。
エルフの森から出ようとしなかったエルフが、俺の一番最初の遭遇者だった。
だから、きっとこの街は、この世界は種族間の交流が盛んになったのだと思っていた。
だが、この街に来て分かった。
獣人族やエルフ族はまだ珍しい種族のままだ。
ユリに向けられる視線は珍しいものを見る目だった。
それでも、エルフ族は理解できる。
エルフ族はそもそもの人数があまり多くない種族だからだ。
だが、獣人族までもあまり見ないのは違和感がある。
もちろん全くいないわけではない。
冒険者協会に出入りしていた人物の一割ほどは獣人族だった。
だが、獣人族は人間族と同じほどの人数がいたはずだ。
もしかしたらまだ、世界は本当の意味で平和になったとはいえないのかもしれない。




