1-19 辺境の街バージ
「アルトさんが住んでいた街は、どのようなところだったんですか?」
村を出て街へと移動する中で、ユリは何気なく俺に質問してきた。
「気になるか?」
「気にならないと言ったら……嘘になります」
「ハハハ、そうだよな」
俺は素直に応えたユリが面白くて笑ってしまった。
「俺が違う世界から来たことは前に伝えたよな」
「はい、勇者のお話でもそのことは伝えられています」
「俺が元いた世界は、この世界とはかなり違う場所でな……まず、魔力がない」
「えっ!?」
ユリは驚いた表情のまま固まっている。
まぁ、この世界にとって魔力はごく普通にあるものだ。
元の世界に例えるなら、酸素が無いと言われたような衝撃だろう。
「魔力が無くて、大丈夫なんですか?」
「まぁ、この世界と比べたら確かに不便なことはあるよ。だけど、俺の世界に魔物はいないし、魔力の代わりに人の技術や科学が発展している。そこまで悪い世界じゃ無いよ」
まぁ、俺がここで比べたのは千年前のこの世界だ。
もしかしたら、とんでもなく技術が進歩している可能性もある。
「そ、そうなんですね。魔力が無いのには驚きましたが、とても面白そうな世界ですね」
「俺の世界に来たら、案内してやるぜ!」
「ふふ、その時はよろしくお願いします」
彼女が俺の世界に来ることなんてまず無いだろう。
だけど人生何があるかわからない。
俺はそんな微かな期待を胸に秘め、街へと進む足を動かし続けた。
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「お、おぉぉーー」
俺は目の前に広がる光景に思わず感嘆の声を漏らした。
要塞のように大きな壁に囲まれ、堅牢な造りとなっている街が俺の目に映っている。
街の入り口と見える門では、多くの人が出入りしている。
「アルトさん、どうですか?」
「正直言ってかなり驚いたよ。見た目だけなら、昔の王都にも劣らない」
規模など細かいことを指摘すれば、王都とは異なるところも多いだろう。
それでも、辺境に近い位置にある街としては想像をはるかに上回る造りだった。
「これから門も混みそうなので、早く行きましょう」
俺たちが街に着いたのは日が落ちる前だった。
ユリの話では、日が落ちる頃が最も門が混むらしい。
俺は千年という時間の流れを噛み締めながら、街の門へと急いだ。
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「案外すんなりと入れたな」
街へは特に問題なく入ることができた。
「通行料とかはいらないんだよな?」
「はい、そういったものは必要ありません。軽い荷物検査はありますが、基本的には出入り自由ですね」
「へぇー、そうなのか」
昔は、街に入るのにお金を取られることも少なくなかった。
まぁ、そのお金は魔王軍に対する防衛費に使われていたので、仕方のないところはあったのだろう。
それでも、こうやって自由に移動ができるとはいい時代になったものである。
「ここが冒険者協会です」
立派な街の様子に目を奪われながら移動していると、あっという間に目的地に辿り着いた。
俺たちがこの街で最初に訪れたのは冒険者協会である。
『冒険者協会 バージ支店』
建物にはそんな看板が掲げられている。
ちなみに、『バージ』というのはこの街の名前である。
「それではアルトさん、私は野盗の報告に向かいますね」
「あぁ、任せた」
ここで俺とユリは一度別行動をとる。
俺は旅の途中で仕留めた魔物の素材を冒険者協会に売り、そのお金を使って冒険者協会に登録する。
ユリは村で捉えた野盗の報告を領主に伝える。
このように別れて行動をする。
「なんだかワクワクするな」
冒険者協会、それは男ならとても興味を惹かれるものである。
異世界に来たのなら、やはり一度は冒険者になってみたい。
そう思う人は多いだろう。
残念なことに、前回は冒険者をすっ飛ばしていきなり勇者になってしまった。
だからこそ、俺は冒険者という存在に強く憧れを持っているのだ。
「よし、入るぞ!!」
俺は期待に胸を膨らませながら冒険者協会の中へと入った。
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冒険者、それは荒くれ者の集団。
冒険者協会の建物の中も殺伐として……
なんてことは全くなかった。
建物の中は大きな声での会話が聞こえるものの、比較的明るい雰囲気の空間だった。
「すみません受付ってどちらに?」
「あぁ?もしかしてこの街は初めてか?」
俺は受付の位置が分からず、近くの人に声をかけた。
背中側から声をかけたため、振り返った男の顔に軽く身震いしてしまう。
頬に大きな引っ掻き傷のあるとても体格の良い男である。
やっぱり、冒険者は荒くれ……
「受付はあっちだぜ!!なんなら俺が案内してやるよ!!」
「あ、ありがとうございます!」
とてもいい人だった。
うん、とてもいい人だった。
大事なことなので二度言わせてもらった。
俺が話しかけた男はイカついのは見た目だけで、とても優しい人だった。
「こいつはこの街が初めてみてぇだから、よろしく頼むわ!」
「はい」
「それじゃあな!」
「ありがとうございました」
男は俺を受付に紹介して、すぐに離れていった。
「ようこそ冒険者協会へ」
受付の女性が柔らかい笑顔で挨拶をした。
「今日はどういったご用件ですか?」
「魔物の買取と、冒険者協会への登録をお願いしたいです」
「かしこまりました」
冒険者以外が魔物を持ち込むことは珍しいことだが、全くないわけではないらしい。
ユリが言うには、特に問題なく対応してもらえるとのことだったが、問題がないどころか丁寧すぎて驚いたほどだ。
「買取を希望する魔物はどちらにありますか?」
「このバックの中にあります」
「なるほど、魔道具ですか。魔物はこちらに置ける量ですか?」
「はい」
「では、こちらに出してください」
受付の人が指示した場所にワイルドボアの皮と魔核を置く。
「これはあなたが処理を?」
「はい。何かまずかったのでしょうか?」
「いえ、非常に状態が良かったので」
魔物の解体は任意である。
魔物本体を運んできても良いが、多くの人は解体してから運んでくる。
素材の良し悪しは出てしまうが、その方が多く量を運べるためである。
「全部で15000円になります。ここから登録料を引いても構いませんか?」
「それでお願いします」
「では、登録料を引きまして12000円をお渡しします」
「ありがとうございます」
やはりこの世界で円が使われている違和感は凄い。
これはしばらく慣れそうにない。
登録料3000円というのは、かなり安めに設定されていると思う。
一度登録してしまえば、半永久的に機能するが、協会は魔物の買取で主な利益を出してるので、そこまで値段上げる必要もないのだろう。
「では、奥の部屋で登録を行いますので移動をお願いします」
「はい!」
俺は魔物の料金をいただいた後、冒険者の登録を行うため奥の部屋へと向かう。
冒険者登録、非常に楽しみだ。




