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1-17 俺の気持ち

 アルトがユリを救い出すより少し前……


「情けないな……」


 俺は両腕が離れないように押さえつけている手錠を見ながら声を漏らした。

 村で楽しくお酒を交わしていたら、いつの間にか捉えられて牢屋に入れられてしまった。

 この世界に来てから、あまりにも緩みすぎている。

 もう昔のような、張り詰めた緊張感は残っていない。


 今回の野盗にだって、冷静になれば気がつけたはずだ。

 まず、あの村は人の生活圏の端にあり、開拓を目的に作られた物だと考えられる。

 それなのに、あの時俺たちを出迎えたのは年が40近い者たちだった。

 開拓を目的とした村なら、もっと若い人たちがいなければおかしい。

 それに、女性の数も極端に少なかった。


「本当に情けない」


 こうして息を漏らしたところで、何が起きるわけでもない。

 そうわかっていても、俺は自分の無力さが悔しかった。

 俺はどうしてこんなに弱くなってしまったのだろうか。

 もちろん、全盛期の頃とは体も魔力も驚くほど劣化している。

 だが、最も劣化しているのは内面の方かもしれない。


 あの頃は勇者というあり方を与えられ、そらにふさわしい心持ちをしていた。

 だが今は、勇者という肩書きを外し、単なるアルトとしてこの世界に生きている。

 既に魔王も倒し、俺の熱意と戦意は魔王にたむけてしまった。


「ここにもないか」


 俺は連れ去られた子供を追ったユリを、追いかけるために手錠の鍵を探している。

 この手錠がついている限り、俺は魔力を使うことができない。

 こんな恐ろしいものまであるとは、魔道具の進化は凄まじいものである。


「そちらにもありませんか?」

「すみません、見つけることができずに」

「いえ、謝らないでください。これは、私が警戒を怠った責任ですから」


 ユリの魔法によって解放された村人たちも、俺の手錠の鍵の捜索を手伝ってくれているが、なかなか見つからない。


「ん?」


 鍵を探していると、遠くから地響きのような音が聞こえてきた。


「これは、まずいかもな」


 おそらくこの音の源は、こちらに向かってくる野盗たちだ。

 ユリが足止めしたと言っていたが、こちらに来るのも時間の問題かもしれない。


「みなさん、こちらに野盗が向かってきています。一度、ここから逃げましょう!」

「わ、わかりました」


 俺の指示に従い、村人たちは洞窟の奥へと向かっていく。

 今は彼らの安全が最優先だ。


 俺は手錠の鍵の捜索を諦め、村人たちと共に奥へと進んだ。



---



「行き止まりです!!」


 前を進んでいた村人から声が上がった。

 俺もすぐに追いつき状況を確かめる。


「これは、魔法陣か」


 確かに村人の言う通り、洞窟の奥は行き止まりとなっていた。

 だが辿り着いた開けた場所には、大きな魔法陣が描かれていた。


「ここに来るまでユリとはすれ違わなかった。つまり、この魔法陣は転移系だと考えられる」


 俺は魔法陣を読むことができない。

 何度か見たことはあるが、魔法を理論的に捉えたことがないため、魔法陣についての知識がほとんどないのだ。

 だが、魔力を流すことで魔法を発動することができるということは知っている。


「誰か魔力を使える人はいますか?」

「お、俺が使える!!」


 一人の青年が前へと出てきた。

 全員が全員、魔力を十分に扱えるというわけではない。

 村人の中に魔力を使うことができる人がいて助かった。


「私が合図をしたらこの位置に魔力を流してください」

「お、おう」


 俺はすぐに、全員が魔法陣にのるように指示をした。

 そして、村人全員が魔法陣にのったことを確認し、俺は若者に合図を出した。


 そして視界が白い光に包まれた。



---



「皆さん、大丈夫ですか?」

「は、はい」


 俺は村人全員が転移に成功していることを確認する。

 それと同時に、近くに人が通った痕跡を見つけた。


「俺は今からユリを、先に行った少女を追います。みなさんは、この跡をついてきてください」


 俺は草が強引に分けられている場所を指差した。

 本当なら、彼らと一緒に向かいたいところだが、今は一刻も早くユリのところに追いつきたい。


「すみません、俺が頼りにならなくて」

「いえ、とても助かりました。あなたは急いであの子を追ってあげてください」

「はい!必ず子供達を助けます」


 俺は村人たちと約束し、急いで痕跡を辿って森の中へと進んだ。



---



「はぁはぁ、身体強化無しだと、体が、こんなにも、脆いんだな」


 俺は息を荒げながら森を疾走する。

 そんな中で俺は不思議な感覚を覚えた。


「ん?これは……」


 まるで欠けていた自分の体が元通りになったような不思議な感覚。


「もしかして、」


 俺は空を見上げた。

 木々の間から綺麗な月が見えた。

 その位置は、村で見た頃よりも大きく移動している。


 俺の「限界到達点リミットオーバー」は、一日一分という制約付きだ。

 だが、その一日というのはどこからどこまでなのか曖昧だった。

 使用してから、丸一日経過しないと使えないのか、それとも一日というサイクルの中で一度しか使えないのか。

 だが今、おそらく答えが出た。

 俺の力はおそらく後者だ。

 決められた一日の範囲内で、俺は一度力を使うことができる。

 そして、そのサイクルはつい先ほど更新された。

 おそらく、時間で言えば24時を境に力が回復するのだろう。


「これなら、」


 力を使えば、俺の腕についている手錠も外すことができるだろう。

 そして、ユリにも追いつけるはずだ。

 だが、そこで一分が経過してしまう可能性がある。

 力を出し渋るつもりはないが、今使うのは効果的だとは言えないだろう。


 切り札は、切り札だからこそ意味がある。


「しんどいが、今は耐え時だな」


 俺は荒れた息で走り続けた。



---



「見つけ、」


 俺がユリを見つけた時、それは野盗が男の子を放り投げた瞬間だった。

 そして、すぐさまユリが男の子を追って飛び出したのが見えた。


「限界到達点リミットオーバー」


 俺は一切の迷いなく唱えた。


「フィジカルブースト」


 封魔の手錠の効果を力技で突破し、魔法を発動した。

 手錠は一瞬にして壊れ、俺の両腕は自由になった。

 今自分の体には魔力がほとんど残っていないが、この一分間なら何ら問題はない。


「サンダーバインド」


 俺は強化した身体能力で男との距離を一瞬で詰めると、雷による拘束魔法を男にかけた。

 男は反応すらできていない。

 俺はすぐさま、ユリの後を追って崖へと飛び込む。


「あれは、」


 俺の視界の先では真っ白な羽を生やした男の子が見えた。

 そして、その男の子から離れるように落下していくユリの姿を捉える。


 彼女はこの土壇場で、エンチャント魔法を成功させたのだ。

 だが、成功したのはあくまで他人へのエンチャントのみ。

 自身はそのまま落下してしまっている。


「エンチャント:フェザー」

「エアクッション」

「シャイニングロード」


 俺は自身の体に羽を生やし、ユリに向かって真っすぐ落下する。

 同時に男の子を上に上げる魔法も発動しておく。


「ユリーー!!!」


 俺は落下する彼女に向かって手を伸ばす。

 そして、そのまま彼女を両腕で受け止めた。


「悪い遅くなった」


 俺はユリに謝罪する。

 彼女をこんな危険な目に合わせたくなかった。

 

 俺の腕の中でユリは涙を流している。


 金色の美しい髪が風に揺られている。


 俺は彼女には涙を流して欲しくない。

 彼女は笑っている顔が一番似合うのだから。


 あぁ、そうか。

 俺は彼女のことが好きなのか。


 きっと、あの日初めて彼女を見た時から好きだったのだ。

 今と同じ、学校に照らされた彼女の姿が強く頭に残っている。


 前はこの世界を守るために俺は全てを捧げた。

 そして世界は平和になった。

 しかし今の俺は守るものを無くし、弱くなってしまった。


 だが、俺は今決めた。

 俺は彼女を守るために力を使おう。

 彼女の笑顔を俺は守りたい。

 俺はもう一度強くなる。

 今度は勇者としてではなく、君のためだけに。

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