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1-16 私の気持ち

「はぁはぁ、」


 私は息を切らしながら、足を動かし続ける。

 アルトさんから託された使命を成し遂げるため、私は持てる力全てを使う。

 先ほど、村人たちの牢屋も破壊した。

 彼らは想像より体力が残っていたため、きっとアルトさんの力になってくれるだろう。


「あった、」


 私は手元の魔道具を使い、逃走した野盗の長の足跡を見つけた。

 村で盗まれた私の荷物は、幸いな事に牢屋の近くに置かれていた。

 中身なども特に変化はなく、私が求めていた魔道具も無事取り返すことができた。

 私が必要としたのは、今手に持ち使用している魔道具である。

 これは限られた時間内の足跡を照らし出すという魔道具だ。

 本来は、魔物の追跡に使用するために購入したものだが、もちろん人の追跡にも使用できる。


 私は魔道具で足跡を追跡していく。

 魔法を使用して追跡速度を上げたいところだが、私はここに来るまでにかなりの魔力を消耗している。

 この後何が起こるかわからない。

 それにいざとなった時に、アルトさんに渡せるだけの魔力量は確保しておきたい。

 私は魔法の使用は身体強化のみに絞り、足跡を追跡し続けた。



---



「……ここは?」


 私は足跡を追い続け、洞窟の奥深くまで辿り着いた。

 だがそこは、これまでの狭い洞窟と異なり開けた空間だった。

 そして、その空間の真ん中に大きな魔法陣が描かれている。


 魔法陣とは、本来詠唱を用いて一時的に効果を発揮する魔法を、魔力を流すだけで発動できるようにしたものである。

 その分複雑な仕組みになっており、簡単に作れるものでは無い。

 魔道具はこの魔法陣の技術を応用し、簡単な魔法の動作が行われるようになっている。


 だが、この大きさの魔法陣は……


「……初めて見る」


 開けた空間の床に、私が五人ほど入る大きさで魔法陣が描かれている。

 これを描いたのは、とても優秀な魔法使いだ。

 あの野盗の中にそのような人物がいるとは思えないが、


「それは後回しでいい。今はこの魔法陣の解読をしないと」


 魔法陣に描かれているのは、魔法を使用するための過程である。

 つまり、魔法陣を読み解くことで何の魔法が発動するのか確かめることができる。


 私はすぐに解読に取り掛かった。


「これは、あっちと繋がって……」


 複雑なものだが、読み解かないほどではなかった。

 さらに、描かれていたのが私の知る魔法であったことも助かった。


「これは転移の魔法陣だ」


 特定の場所同士を繋ぐ魔法である転移の魔法。

 その効果からかなりの魔力を必要とするものだが、この魔法陣では一方向のみの移動に限定しているため、消費する魔力はそこまで多く無い。

 おそらく、私が追っている野盗の長もこの魔法陣を使用したはずだ。


 なら、迷う理由は一つもない。


 私は魔法陣に魔力を流し込んだ。



---



 眩い光から暗闇に変わり、私の目はまだ正常に機能していない。

 だが周囲から感じる雰囲気は先ほどまでとは全く異なるものだ。

 転移の魔法には成功した。


 しだいに私の目も暗闇に慣れ始め、周囲の様子を確認することができた。

 どうやら私がいるのは森の中のようだ。

 そして目の前には、荒々しく草をかき分けて進んだ跡が見られた。

 一目でその先に進んだことが分かる痕跡だ。

 念の為魔道具で確認したが、足跡も同じ方向に続いている。


 私は迷わず跡を追った。


 跡を追う中で、痕跡に異変が現れ始めた。

 今までは単なる草を分けた跡だったが、途中から痕跡が大きくなり、まるで誰かが暴れたような跡が残っている。


 いや、誰かではない。

 野盗の長によって連れ去られた子供で間違いない。


「まずい」


 話に聞いた限り、連れ去られた子供は3人。

 全員連れ去られる時に意識を失わされたらしいが、誰かが目覚めたのだろう。

 もしその子が抵抗を続けているのなら、その子の命が危ない。

 煩わしく思った長が、その子の命を奪ってしまうかもしれない。


 私は気配に気が付かれるのも厭わず、足を早めた。



---



「それ以上近づくな!!」


 私は森を抜けた先で男に追いついた。

 予想通り、一人が目を覚ましている。

 そして、その子供の喉元に剣を添えて男はこちらを見ている。


「いいか、それ以上近づいたら俺はこいつを殺す!!」


 そう言われてしまった以上、私はこの場を動くことができない。

 森の中なら奇襲することもできたが、こうも開けた場所では難しい。

 だが男にとってもこの場所は都合がいいとは言えない。

 男の背後には崖が迫っており、森に入るには私を超えていかなければいけない。

 このまま、緊迫状態を維持していればアルトさんが間に合う可能性もある。

 今私が取れる最善の行動は、男をとにかく刺激しないことだ。


「そうだ、そうだ。そのまま動くなよ」


 男の腕の中に男の子が一人、少し離れた場所に女の子が二人寝かされている。


「お前が俺たちの拠点を襲ってきた奴だな」

「えぇ、正解よ」

「チッ、面倒なことを……ん?お前、エルフか!!」


 男は私の姿をジロジロと見ている。


「エルフの価値は高いからな……いいだろう、お前が身代わりになるならこのガキどもを解放してやる」

「……かまわないわ」


 私は男の指示に従う。

 見たところ、男が「封魔の手錠」のような魔道具は持っていない。

 男に近づき、隙が生まれるのを待てばいい。

 今一番優先するべきは、子供達の安全だ。


 私は男の提案に従い、ゆっくりと男に近づく。

 警戒してるように、怖がっているように見せているが、実際は少しでも時間を稼ぐためだ。


「よし、そうだ。そのまま、こっちへ来い」

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

「気にしなくても大丈夫だから」


 男の子は顔に涙を浮かべ、体を震わせている。

 私は少しでもその子が落ち着けるように優しく声をかける。


 残り三歩ほどで長に辿り着くという時だった。


「お前は用済みだ!!」

「えっ、」


 男は突然、男の子を投げ飛ばした。

 それも、崖の方向に。


 私は考えるよりも体が先に動いた。


 男の横を通り抜け、男の子を追って崖から飛び降りた。


 どうする?

 どうする?

 あの子を助けないと!

 でも、どうやって?

 人はまだ飛行魔法を会得していない。

 私には、あの子を助ける方法は……


 加速していた景色がいつの間にかゆっくりと流れている。

 いや、死を感じて私の頭が全力で思考しているのだ。


 助ける方法は……


 手を伸ばせば届く所に男の子の体がある。


 助ける方法は……


「エンチャント:フェザー」


 私は男の子に手を触れ、その魔法を唱えた。

 

 次の瞬間、男の子には真っ白な美しい翼が生えた。


「良かった」


 今まで一度も成功させることができなかった。

 だけど、今成功することができた。

 これであの子は助かる。


「あぁ、やっぱりダメですね」


 男の子の姿が少しずつ離れていく。

 残念な事に、私は落下し続けているのだ。

 私は魔法をあの子と私自身にかけた。

 だけど、羽が生えたのはあの子だけだ。

 きっと、私は自分に羽が生えることをイメージできなかったのだ。

 いや、正確には他人に生える羽はイメージできたのだ。

 私が初めてこの魔法を見た時、月に照らされた美しいあの白い羽が脳に刻まれている。


 そう、あんな風にとても綺麗な……


「ユリーー!!!」

「アルトさん!?」


 あの人同じ真っ白で美しい羽を広げた彼が、私の元へ真っ直ぐに飛び込んできた。

 そして、そのまま私を抱き抱えた。


「あっ、アルトさん!!」

「悪い、遅くなった」

「いえ、でも、でも、私本当にもうダメかと」


 なんで、


 どうして、

 

 涙が止まらないの。


 私は溢れ出る涙を抑えられなかった。

 死を覚悟した。

 もうダメだと思った。


 でも、彼が来てくれた。

 絶体絶命の私を助けてくれた。

 

「ユリのおかげであの子も助けることができた」


 アルトさんの目線を追うと崖の上で村人たちに囲まれている男の子の姿が見えた。

 いつの間にか、彼を上へと上げていたようだ。


「ユリ、ありがとう」

「いえ、お礼を言うのは私の方……」


 優しく微笑んだアルトさんの顔を見て、思わず私は視線を逸らしてしまった。


 あれ?

 なんだろう、この気持ちは……


「エンチャント、使えるようになったんだな」

「わ、私自身には使えませんでしたけど」

「それでも凄いことだよ。ユリの練習の賜物だな」


 彼に褒められるのがたまらなく嬉しい。

 もちろん今までも嬉しかったが、今のはどこか違う。

 嬉しくて、恥ずかしくて、それでいて……


 あぁ、私は彼のことが好きなのだ。

 勇者アルトが好きなのではない、アルトさんがたまらなく大好きなのだ。

 私を救ってくれた、アルトさんが大好きでたまらないのだ。


「それじゃあ、上に戻るぞ」

「はい」


 ついさっきまで、死を感じていたとは思えないほど私の心は満たされている。

 

 彼と二人でずっと飛び続けていたいな。


 私のささやかな願いは、涙と一緒に夜の闇へと消えていった。

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