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1-15 私の役割

「アルトさんはどこにいますか」


 私は氷の一部を溶かし、野盗に尋問する。


「はっ、言うわけねぇだろ」


 だが野盗も簡単には口を割らない。

 まぁ、こうなることは分かっていた。

 私は仕方ないという表情で、再び男を凍らせた。


「これ以上続けても時間の無駄ですね」


 強引な方法を取ることもできたが、それでは私も彼らと同じになってしまう。

 あくまで、捕縛という方法を取るしかない。


「やはり私の荷物一式持って行かれていますね」


 私は旅の道具を置かせてもらっていた場所を確認したが、案の定一つの荷物も残されていなかった。

 荷物の中には、便利な魔道具もあったのだが、使えないなら別の方法を考えるしかない。


「とりあえず、痕跡を探すところからですね」


 私は自分の考えを整理するように、丁寧に口に出していく。

 現状の私にアルトさんを追跡する方法がない以上、この村に残された痕跡を探すべきだろう。

 私は野盗の男たちが隠れていた場所を中心に細かく調べ始めた。

 そして、想定よりもかなり早く重要な痕跡を見つけることができた。


「あれだけの人数、流石に移動の跡は残っていますね」


 村の外れから森に向かうように多くの足跡、そして草を掻き分けた跡が見つかった。

 どうやら野盗はこれを隠す気は全く無かったようだ。

 今回の獲物はたかが二人。

 警戒する必要も無いということだろう。


 私は周囲を警戒し魔法を使用せず、月明かりを頼りにその痕跡を辿った。



---



「……見つけた」


 痕跡を辿り森の中を移動し、私は野盗の拠点らしきものを見つけた。

 途中から、痕跡を見失わないようにしながら少し道を外して移動したため、拠点の見張りにも気付かれていない。


 野盗の拠点は森を抜けた先の洞窟らしき空間につくられていた。

 洞窟の入り口近くには、大きな馬車がいくつも置かれている。

 おそらくあれを使って人を運び出すのだろう。

 まだ馬車があることから、アルトさんたちは運び出されていないと考えていいだろう。


 私は慎重に作戦を考える。


 洞窟の構造は全く分からない。

 どのくらいの広さなのか。

 野盗は何人いるのか。

 村人はどんな状態なのか。

 

 だめだ、情報が少なすぎる。


 私が全員を救う方法……


「うん、やっぱりこれしか無い」


 私は彼に全幅の信頼を置いている。

 彼さえ動ければ、この事態はどうとでもなるのだと、私は確信している。

 だから私がやるべきことはただ一つ。


「何としてでも、アルトさんに魔力を届ける」


 そしてそのために最も効果的な方法は、


「全てを凍てつかせろ、『ブリザードランス』」


 堂々の正面突破だ。


 私は完全な奇襲で見張りの二人を凍りつかせた。

 だが見張も最後の抵抗で、笛の音を響かせた。

 おそらく敵襲の合図だ。

 この音を聞きつけて多くの仲間が集まってくるはずだ。

 それでも私は前へと進む。


 洞窟の入り口に立ち奥を眺めると、明るく照らされた洞窟の奥から野盗たちが走ってくるのが見えた。

 洞窟内は想像より広い道が確保されていたが、魔法を使った大立ち回りができるほど広いわけでは無い。

 基本的に魔法使いは開けた場所での戦闘を得意としている。

 私も例に漏れず、狭い空間での戦闘は得意では無い。

 こういった空間では、剣士が優勢である。

 おそらく、ここにいる野盗の多くは身体能力強化を主に使用して戦う剣士だろう。

 そして、ここの洞窟の構造も熟知しているはずだ。

 場の優位は完全にあちら側といった形である。


 なら、まず初めにその優位を覆してしまおう。


「氷よ、全てを覆い尽くせ『アイスフィールド』」


 私は自身の魔力の三分の一ほどを使い、洞窟内のできる限りを氷の床で覆い尽くした。

 慣れ親しんだ地面から、慣れない氷へと変化し、野盗のほとんどは体制を崩して滑っている。


「踊れ、『アイスダンス』」


 私は自身に氷に特化した、身体強化をかける。

 この魔法の流れは私が得意とする形の一つで、詠唱もかなり短縮して発動することができる。


 凍りついた洞窟の床や壁を滑るように移動する。

 私の読み通り、野盗には魔法使いがいないようだ。

 氷を溶かすようなそぶりが一切見られない。

 私は氷の上で身動きが取れていない野盗たちを避けて、洞窟の奥へと進む。


「アルトさん、待っていてください!」



---



 私は洞窟を奥へと進んでいく。

 幸いなことに、分かれ道はほとんどなく明かりを辿ることで問題なく移動することができた。

 野盗も入り口にほとんどが集まっていたため、途中で遭遇しても各個撃破することが可能だった。

 そうして、急いで洞窟を進みついに目的の場所に辿り着いた。


「あっ、アルトさん!!」


 私は牢屋の中にいるアルトさんの姿を見つけ、急いで駆けつけた。


「ユリ、無事だったのか!?」

「はい、今すぐ檻から出しますね」

「あぁ、頼む」


 私の考えを理解し、アルトさんは牢屋の格子から離れた。


「水よ、刃となって切り裂け『ウォーターカッター』」


 私の手から放たれた水の刃が牢屋の鉄格子を切り裂いた。


「アルトさん、無事で良かったです」

「ユリ、助けに来てくれてありがとな」

「はい!今魔力をわたしますね!」

「いや、すまない」


 私はアルトさんにすぐ魔力を渡そうとしたが、彼はその行動を静止させた。


「厄介なことに、こんなものをつけられてしまったんだ」


 そう言いながら彼が見せてきたのは、両腕をしっかりと固定している「封魔の手錠」だった。


「どういうわけか、魔法が使えなくてな。まぁ、そもそも魔力事態残っていないんだが」


 私の予想通り、アルトさんは魔力切れを起こしていた。

 だが想定外だったのは、「封魔の手錠」をつけられていたことだ。

 これは、取り付けた者が魔力の行使を一切できなくなる強力な魔道具である。

 手錠を外すには、それに合った鍵が必要だ。


「アルトさん、それは『封魔の手錠』と言われるものです。それをつけられている限り、魔力の行使はできません」

「どうすれば外すことができる?」

「専用の鍵が必要です。なので、今すぐに探し……」

「いや、ユリにはすぐに向かって欲しい場所がある」


 私の言葉を区切り、アルトさんが言葉を被せてきた。


「あそこにいる人たちが見えるか」


 アルトさんが示した方向を見ると、何人もの人が檻の中にいるのが見えた。


「彼らは俺らがいた村の本当の住民たちだ。俺と同じように攫われてここに入れられている」


 村の人たちが無事だったことを知り、私は一つ安心した。


「だがさっき、野盗の長のような男が子供だけを連れ出した。おそらく、ユリが襲撃してきたことに気がつき、子供だけを連れ逃げるつもりなんだと思う」

「私がそれを追えばいいんですね」

「あぁ、頼めるか」

「はい!」


 私は迷うことなく返事を返す。


「あそこにいる村人たちの檻も壊してくれ。俺は彼らと一緒にこの手錠の鍵を見つけ、すぐに追いかける」

「わかりました」

「こんなことになって、すまないな」

「いえ、アルトさんが謝ることじゃありません」


 私だって一歩間違えれば、彼と同じように檻の中にいたかもしれない。

 それでも彼はとても悔しそうに、そして申し訳なさそうな顔をしている。

 私は彼のそんな顔を見たくない。

 いつものような笑顔で、明日からもずっと魔法を教えて欲しい。


「私が必ず子供たちを連れ戻します」

「あぁ、頼んだ!!」


 私は彼の信頼に応えるため、何としてでもこの役割をこなしてみせる。

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