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1-14 野盗

「お嬢ちゃん、お酒は飲まないのかい?」

「すみません、遠慮しておきます」


 私は村の人から勧められたお酒を丁寧に断った。

 私たちエルフはエルフの森で作られたお酒しか飲まない。

 まぁ、最近は外交的なエルフも少しずつ増えてきている。

 そういったしきたりがなくなる日も近いのかもしれない。


「アルトさん、楽しそうだな」


 私は少し離れた場所で村の人たちとお酒を飲み交わしている彼を見つけた。

 彼の魔法で新鮮な状態で運ばれた野生のワイルドボアはとても美味しかった。

 村の人全員で炎を囲い楽しく会話をする。


 素敵な光景だな


 わたしは素直にそう思った。

 こういった光景はエルフの森では見られなかった。

 冒険者として外の世界に飛び出したからこそ、見られた景色なのだろう。


「少し歩こうかな」


 私はそんな光景を眺めながら、村から少し外れた場所へと足を運んだ。



---



「ここら辺まで大丈夫かな」


 私は村から少し離れた場所にあった池の辺りに腰を下ろした。

 村にあった魔除け石の効果範囲に入っている限りは、魔物に襲われる心配はほとんどない。


「今日は月が綺麗だな」


 空へと目を移すと、優しく光る月が私を見ている。

 雲ひとつなく、帰り道が暗闇になる心配もないだろう。


「久しぶりに一人の時間だなー」


 ここ数日はアルトさんと一緒に過ごしていた。

 それまではほとんどの時間を一人で過ごしていたため、彼と一緒に過ごす時間はとても楽しかった。

 それでも、今日は少し一人なりたかった。


 私は昼間の出来事を思い出す。

 勇者としての本来の力を直接見て、私は自分がその強さに辿り着けないと感じた。

 彼は、自身の強さを目指す必要はないと言った。


 だけど私は強くなりたい。

 

 私は魔法が大好きだ。

 彼が使った魔法は誰よりも美しかった。

 昔祖母から聞いた勇者の伝説は本当だった。


 私は勇者が大好きだ。


 世界を救った話に何度も心を踊らせた。

 そして私も、そんな人になりたいと心から願った。


「エンチャント:フェザー」


 未熟な今の私ではまだこの魔法を使うことはできない。

 だけど、いつかこの魔法を使うことができるようになったとき、私は彼に一歩近づくことができる。


「絶対に、絶対に、私は最高の魔法使いになってみせる!!」


 こんなに恥ずかしい願いを口にしたのは、幼少期以来だろう。

 それでも、私の心はどこかすっきりとしていた。



---



 それから私は魔法の練習を少しして、村の方へと戻った。


「あれ?」


 だが、村に近づくにつれ微かな違和感を感じ取った。

 私が出て行った頃の賑やかさを一切感じないのだ。


「もう終わったのかな?」


 村を離れてから一時間ほどしか経っていない。

 あの雰囲気からもう少し長引きそうな感じがしていたが、もしかしたら早めに切り上げたのかもしれない。


「それなら、アルトさんに魔法を教えてもらえる!」


 今日の魔法の練習は仕方なく一人で行ったが、彼がまだ起きているなら魔法の練習に付き合ってくれるかもしれない。

 そう考え、私は駆け足で村へと戻った。



---



「えっ?」


 村について最初に出た私の声は、驚きに溢れたものだった。

 中心に焚かれていた火は消え、誰一人残っていない。

 周囲の家を確認しても明かり一つついていない。

 今日は雲ひとつない夜空とはいえ、月光だけでこの時間を過ごすのは難しい。


「すみませーん」


 私はとりあえず一番近くの家の扉を叩いてみた。

 だが返事は返ってこない。


「おかしい……」


 私は次々と家の扉を叩くが誰一人として返事が返ってこない。


「あっ、開いてる」


 五軒目の家の扉が開いていることに気がついた私は、勇気を持ってその扉を開いた。


「失礼しま……」


 扉を開けたわたしは想定もしていなかった光景に、言葉を失った。


 家の中は見るも無惨なほどに荒らされていたのだ。

 割れた食器や、思い出の品のようなものが床に散らばっている。


「これは……野盗の仕業?」


 私は自身の知識と目の前の状況を照らし合わせ、一つの答えを導き出した。

 おそらく、この家は野盗に襲われたのだと。

 いや、この家だけではない。

 村全体が野盗に襲われたのだろう。


 だかいつ?


 次に浮かんだ疑問は、野盗が襲ってきた時間だ。

 私は村から少し離れた場所にいたとはいえ、野盗に襲われたのなら悲鳴の一つでも聞こえてこないとおかしい。


「もしかして、」


 私は一つの最悪の可能性に辿り着いた。


 この村の人が、最初から野盗に成り代わっていたという可能性だ。

 この村が野盗に襲われたのは、私たちが村を訪れるより前で、既に村人はどこかにつれて行かれてしまった。

 血痕などがないことから、おそらく人身売買の類だろう。

 そして、村の人がいなくなったこの村を野盗が乗っ取り、ここを訪れる旅人を狙っていた。


「……無い話では無い」


 私は自分が立てた仮説を信じて行動に移すことにした。


「次に狙われるのは私だね」


 野盗は私が村から姿を消していることには気がついているはずだ。

 おそらく、村に戻ってくる私を待ち伏せしていただろう。

 そして、油断したところを捉える策を立てたと考えるべきだ。


 なら、この家を出たタイミングが一番危ない。

 私は身体的な特徴からエルフであることは気付かれている。

 エルフはほとんどが魔法に長けているため、彼らも警戒してすぐには襲ってこなかったのだろう。


「ふー、」


 私は小さく息を一つ吐いた。


 私の頭は冷静さを取り戻し、今までの状況を整理した。

 そして、おかしな点に気がついた。


 あのアルトさんが、簡単に野盗に捕まるのかという問題だ。

 真っ当なやり方では、彼を捉えることは不可能だ。

 だが、もしあのお酒に睡眠薬のような物が仕込まれていたら?


 アルトさんは気が付かぬうちに眠りにつき、野盗に拐われてしまったのだろう。

 だが問題はない。

 彼が目を覚ませば、全て問題なく片付け……


「あっ、魔力回復してないかも」


 アルトさんは、今日多くの魔法を使用している。

 だが、この村に着くまでに魔力の譲渡は行っていない。

 いくらアルトさんでも、魔力なしでは何もできない。


「私が、助けないと」


 今この事態に気が付いており、全員を助ける力を持っているのは私だけだ。

 なら、私が助けに向かわなければいけない。


 そのための最初の弊害は、おそらくこの家の付近で私を囲んでいる野盗たちだ。


「私だって優秀な魔法使いなんだから」


 ここ最近はアルトさんの凄さに気圧されていたが、本来私はこの世界でもかなり優秀な魔法使いだ。

 野盗の数人程度問題ない。


「風よ私を守れ、『ウインドコート』」


 私は全身を包むように風の鎧を展開した。

 

 勝負は一瞬だ。


「光よ爆けろ、『ライトボム』」


 私は光の弾を天井に向かって放った。

 光の弾は勢いのまま天井を貫いた。

 そして、真っ暗な夜空を眩い光で埋め尽くした。


 わたしはその瞬間に、天井の穴から飛び出した。

 身体強化と風の鎧が、その一瞬の行動を可能にした。


「見つけた」


 私は光に照らされている野盗の姿を確認した。

 全部で三人がこの家を囲んでいた。

 だが、三人とも突然の明かりに地面を向いており、完全な隙が生まれている。


「全てを凍てつかせろ、『ブリザードランス』」


 私はその三人に向かって氷の槍を放った。

 完全に隙をつかれた三人は一切反応できず、氷の槍が腹部を貫いた。

 そして、たちまち氷の像へと化した。


「あっ、やりすぎちゃたかな」


 体の芯まで凍らせてしまっては、情報を吐き出させることはできない。

 ともかく、私は目の前の障害をひとつ排除した。

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