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1-13 空飛ぶ肉

「おっ、ようやく街道に出たな」


 正午を少し過ぎた頃、俺たちは森を抜け街道に出た。

 綺麗に舗装された……とは言えないが、道として充分な機能は確保されている。


「それにしても時間の流れは凄いな」


 千年前、この辺りは完全な森だった。

 だが今では、街ができ、村が生まれ、そして道まで整備されている。


「なぁ、この道って結構人が通ったりする?」


 俺は隣に立つユリに小声で確認する。


「いえ、流石に辺境の地なので滅多に人は通りません。それでも、会う確率がゼロとは言えませんが」


 俺の問いに対してユリが小声で返してくる。

 なぜ俺たちが小声で会話しているのかというと……


「やっぱり、これ見られたらまずいよな」

「はい、確実に面倒なことになります」


 俺たちの背後にあるものが原因である。


 俺はワイルドボアを解体し、皮と魔核を取りだした。

 そして残った肉は、今夜食べるために運んでいるのだが、その方法が問題である。


「空飛ぶ肉の塊、異様な光景ですね」


 俺は肉に羽の付与を行った。

 そのおかげで問題なく運べているのだが、もし事情を知らない人がこれを見たら腰を抜かしてしまうだろう。


「まぁ、人に合わないことを願って進むしかないよな」

「そうですね」


 俺とユリは覚悟を決めて、空飛ぶワイルドボアの肉と一緒に街道を歩き始めた。



---



「そういえば聞き忘れていたんですが、どうやってこの肉の鮮度を保っているんですか?」


 街道を歩きながらユリが訪ねてきた。

 魔法を使った後色々とあったため、すっかり説明し忘れていたことに俺も今気がついた。


「一般的な保存方法として使われるのは、氷魔法による冷凍だな。だけどその方法だと、どうしてもワイルドボアの味を殺してしまう。だから今回は、肉の経過時間を極限まで遅くしている」

「時間を、遅く?」


 今の説明ではまだピンときていないようだ。


「俺があの時使った魔法は覚えている?」

「はい、『スピードチェンジ』ですね!」

「そうだ。『スピードチェンジ』は物体の速度を変化させる魔法だが、魔法の解釈を広げることで物体の時間を変化させることもできる」


 魔法はイメージだ。

 本来はスピードを変化させる魔法だが、俺は時間の速度を変化させる工夫を加えた。


「つまり、この肉が傷むまでにかかる時間がとてつもなく引き延ばされている状況というわけなんだ」

「そんな使いかたが……」

「まぁ、俺も今の状態じゃ使うことができないけど。魔法はイメージの世界だ。固定のイメージを持つことで、魔法の威力を高め、発動までの速度を上げることができるが、固定のイメージを外すことで魔法の形を変化させることもできる。そのことは覚えておいた方がいいね」

「勉強になります!」


 厳密にはかなり高度な技術を応用しているのだが、今はこれくらいの認識でいいだろう。

 彼女が一流の魔法使いになるのが楽しみだ。



---



「あっ、見えてきました!」


 街道を歩き始めて三時間ほど経過した頃、ようやく目的の村が見えてきた。

 幸いなことに街道では誰にも会うことはなかった。

 だか問題はここからである。


「さて、どうやって怪しまれずに村に入るかだな」

「うー、私が冒険者カードを無くしていなければ、そこまで問題にならなかったんですが」


 どうやら冒険者カードは身元の保証にもなるようだ。

 俺も街に行ったら冒険者登録しておくのも悪くないかもしれない。


「勇者アルトの名前を使うのはどうですか?」

「別に隠すつもりはないが、余計に怪しい情報が増えるだけだしな。とりあえずアルトの名前は使うが、勇者という情報は伏せておこう」

「確かにそれがいいかもしれませんね。実際アルトといい名前は、ごく稀に付けられていますから、そこまで怪しまれないと思います」


 まぁ、伝説の勇者から名前を取るということ自体は珍しいことではない。

 それでも少し気恥ずかしところはある。


「まぁ、正面から堂々と入るのが一番丸いか」

「はい!何かあったときは、私が頑張って弁明して見せます!」


 力強く胸を張ったユリを信じて、俺たちは村の入り口へと向かった。



---



「いやー、まさかこんなに美味しいとは!」

「わかってくれて嬉しいです!ただ、鮮度が落ちると一気に味が落ちるので気をつけてください!」


 俺はよく焼けたワイルドボアの串焼きを片手に村人と話を交える。


 当初村の人に怪しまれないか不安だったが、驚くほど簡単に村に入ることができた。

 怪しさより、ワイルドボアの肉の方が魅力的に映ったのだろう。

 そして、あれよという間に村の真ん中でワイルドボアの大焼肉パーティが開かれた。


「それにしても、こんな時間にこれだけの大声と明るさを出しても大丈夫なんですか?」


 俺は魔物がやってこないかの心配をし、近くの村人に尋ねた。


「アルトさんは不思議なことを言いますね。村には魔除け石があるから大丈夫ですよ」

「魔除け石?」

「王家が開拓のために用意した、魔物除けの結界を張る魔道具のことですよ。ほら、あそこにある石ですよ」


 男が指を刺した方向を見ると、確かに大きな石が置かれている。

 自然な見た目ではなく、人工的に整えられた黒色の石である。


「それにしてアルトさんは何者なんですか?こんなに凄い魔法を使うのに、魔除け石のことを知らないなんて……もしかして本物の勇者様なんじゃないですかー?」

「何バカなこと言ってるんだ。本物の勇者様はとっくに死んでるっての」

「ハハハ、確かにそうですね!!」


 お酒を飲んで顔を赤くした村人たちが大きな声で会話をしている。


「ほら、アルトさんも飲んでください!」

「そうですね、せっかくなんで」


 俺は注がれたお酒を喉に流し込む。

 年齢の問題は、こちらの世界で過ごした時間を加えればとうに二十歳は超えている。

 そもそもこの世界の法律では、飲酒は18からなので問題はない。


「これ美味しいですね」


 想像していた物よりかなり飲みやすいお酒で俺は驚いた。

 昔飲んだお酒は、アルコールが強く決して美味しいとは思えなかったが、どうやらこの千年でお酒もかなり進化しているようだ。


「さあさぁ、どんどん飲んでください」


 俺は注がれたお酒を飲む。

 これではどちらが……


 いや、野暮なことは考えなくていい。

 ここは素直にありがたく受け取っておこう。


 そのまま俺たちは楽しくお酒を交わした。


 そこで俺の記憶は途切れている。

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