表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/22

1-12 平和な世界

「ふぅ、」


 俺は一分間の制限時間を使い切り、一つ小さな息を吐いた。

 「限界到達点オーバーリミット」による制限付きの超強化。

 それは確かに凄まじいものだった。

 この世界に来てから感じていた魔力の乱れは無くなり、あの頃を思い出す繊細な魔力コントロールができた。

 身体能力上昇の魔法も通常時とは比較にならない効果を発揮した。

 そして、あれだけの魔法を行使しても、ユリから与えられた魔力はほとんど減っていない。

 これなら、一分間はどんなタイミングで使っても魔力切れになることはほとんどないだろう。


「アルトさん……」


 少し離れた位置で見ていたユリが小さく呟きながら俺の方に近づいてきた。

 魔法に対して好奇心の強い彼女のことだ、これから質問攻めに会うことも覚悟しておこう。


「私勘違いしていました」


 だが、俺の元に来た彼女の表情は俺が想定していたものとは異なった。

 輝いた目ではなく、どこか遠くを見るような目で彼女は言葉を続けた。


「私はあの森でアルトさんに助けられました。その時の出来事が私の中では、あまりに衝撃的で繊細な記憶として刻まれています。だから、あの伝説の勇者アルトは凄い人物なんだと思っていました。アルトさんが本来の力を使えないと言う話を聞いた時も、少しの変化に過ぎないと思っていました。ですが、先ほどのあなたの姿を見て、私は……」


 そこで彼女は言葉を止めた。


「失望したか?」


 俺は彼女に問いかける。

 そして、少しの間をおいて彼女は小さく頭を縦に振った。


「はい、私は私に失望しました。伝説の勇者の話を聞いて、憧れの気持ちがありました。勇者がいかに凄い人物なのか理解していたつもりでした。ですが、心のどこかでは所詮千年も前の話だと思っていたのです。今の時代の優秀な魔法使いや剣士たちでも、同じようなことができるのではないかと思っていました」


 彼女がそう考えるのも不思議ではない。

 実際俺も同じように考えている。

 確かに俺と言う存在はあの時代において特異的な存在だったかもしれない。

 それでも、周囲の者たちがいなければ魔王を倒すことは決して叶わなかった。

 それから千年の時間がたち、俺たちよりもずっと魔法に詳しく、技術も発展している。

 今の時代の豪傑たちなら、俺の代わりを務めることもできるのかもしれない。


「ですが、私は確信しました。なぜあなたが、伝説の勇者と呼ばれているのかを。おそらく、私が生涯全てをかけてもあなたの隣に立つことはできないと思います」


 そんなことはない。

 俺はその言葉を口にしようとしたが、思いとどまった。

 これは、そんな軽はずみに口にしていい言葉ではないからだ。

 彼女は自分の力を理解している。

 だからこそ、そのような考えに至ったのだ。

 もし俺がそれを簡単に否定してしまえば、それは彼女自身を否定することになってしまう。


「これはあくまで俺の勝手な想いんなんだが、この世界に生きる人にはあまり強くなって欲しくはないんだ」

「えっ、」


 俺の言葉に彼女は驚きの声をあげた。

 俺はその表情を見てゆっくりと自分の本心を語りだす。


「前に、俺はこの世界は平和になったか尋ねただろ?」

「はい」

「それにユリは、『はい』と応えてくれた。俺はそれがすごく嬉しかったんだ。千年前、俺たちは世界を守るために戦った。戦い続けたんだ。魔物との戦い、魔王軍との戦い、時には仲間同士で争うことにもなった。明日を生きるために、今日を生き残る。そんな毎日だった。この時代に伝わっている勇者の伝説は、もしかしたら明るく輝かしいお話かもしれない。でも実際は、血で血を洗うようなお話だ。確かに俺たちは強かった。もしかしたら、この時代の人たちが想像もできないような強さだったかもしれない。だけどそれは、多くの犠牲の上に成り立っていた強さだ」


 俺はどれくらいの魔物を倒してきたのだろうか。

 俺の記憶もあの旅を少しずつ楽しかった思い出へと変化させている。

 それでも、忘れないこともある。

 あの血の海だけは生涯忘れない。


「今君たちが、俺たちの時代の強さを持ち得ないということは、それだけこの時代が平和ということだ。だから自分に失望したなんて言わないでくれ。未来を信じ、死んでいった俺の仲間のためにも」


 これは俺の心からの想いだ。

 だけど、老兵の単なる想いでしかない。

 この時代の者たちにとっては、身勝手で都合の良い願いだ。


「……はい」


 ユリは頷いた。

 そして顔を上げて力強く、輝いた目で俺を見た。


「それでも私は、強くなることを諦めません。いつの日か、あなたに並べるくらい強くなってみせます。そして、再びこの世界に闇が広がった時、私があなたたちのように未来を守ります」


 彼女は強い。

 時代に流されることのない、自分の芯を持っている。


「そうだな。そのために、俺がこうして旅についてきているんだからな」

「はい!アルトさんの魔法、必ず全て覚えてみせます!!」


 彼女は眩しいほどの笑顔でそう宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ