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1-10 金欠

「えぇーと、俺らがいるのはここら辺か」


 俺はユリが広げた地図を確認しながら、一箇所を指す。

 見覚えのある景色だったため、おそらく間違っていないだろう。


「はい、そのはずです」


 ユリも頷いているため、間違いではなさそうだ。

 

「これからどう動くかだな」


 ユリの旅に付き添うと決めた俺は、さっそく次の行き先を決めようとしていた。

 彼女の本来の目的であった、伝説の魔法は獲得できなかったが、そもそもが眉唾物の話である。

 この場所に長居する意味は特にない。

 

「そうですね、まずはアルトさんの装備を整えたいですね」

「あぁー、確かにそうだな」


 ユリが指摘するように、俺の今の装いは旅に適しているとは言えない。

 日本製のそれなりに頑丈な服だが、これまでのあれこれでかなりのダメージが入っている。

 それに、せっかく異世界に来たのだ。

 その風土にあった装いにするのは大切だろう。

 郷に入っては郷に従えというやつだ。


「とりあえず、この近くの街にでも行ってみるか」

「そうですね、それがいいと思います!!」


 俺は一番近くの街を指差した。

 ユリも賛成し、俺たちの次の目的地が決まった。

 千年前は存在していなかった街だ。

 どんな街並みなのだろうか?

 いや、それ以前に千年も時間が経てば、生活のありとあらゆることが変わっている可能性が高い。


「それじゃあ、行くか」

「はい!」


 俺はまだ見ぬ千年後の街並みに心を躍らせながら出発した。



---



「へぇー、便利なもんだな」


 俺は夕食の準備に使われている道具を見て感心した。

 見た目は携帯用のフライパンだが、火も必要なく、生肉を置くだけで数分で焼き上がってしまう。

 思えば、今日の朝食も似たような道具を使っていた。


「これは魔道具です。とても便利ですよ」

「俺のいた時代には無かったな。いや、似たようなやつはあったが、とても手が出せるような値段じゃ無かったな」


 俺のいた時代、つまり千年前には魔道具は普及していなかった。

 見た目より多く入る鞄なんてものはあったが、それだけで家が一つ建つような値段だった。

 だがユリの様子を見る限り、今は魔道具がかなり一般的なものになっているようだ。

 しかもかなりのバリエーションがありそうだ。


「その魔道具はどれくらいの値段なんだ?」

「確か、1500円だったと思います」

「意外と安い……円!?」


 俺は大きな驚き声を上げてしまった。

 だが無理もないだろう。

 今彼女は確かに、1500円と言ったのだから。


「えっと、円ていうのはお金の単位だよね?」

「はい!ごく一般的に使われている貨幣の単位です」

「そ、そうか……円か……」


 千年前はお金の価値は統一されていなかった。

 人間とエルフ、獣人族が独自の貨幣を使っていた。

 獣人族に関しては、物々交換が主流の地域もあった。

 だが今は、円が共通の貨幣である。

 一体どうして、こんなことに……


「あっ、そう言えば……」


 俺はとある出来事を思い出した。

 昔も昔、それこそ千年前の出来事だが、俺は仲間の一人に貨幣の話をしたことがある。

 俺が元いた世界の、日本という地域では円が貨幣の単位として使われていたと。

 この世界の物価に慣れるまでは、一度円に計算し直していたと。

 もし、俺の考えが正しければ……


 いや、今確かめる術は無い。

 一旦この話は置いておこう。


「街に行ったら魔道具も見てみたいな」

「それでしたら、ぜひ私が案内しますね!!」

「随分と自信があるなー」

「はい!私、大の魔道具好きでもありますから!!」


 おそらく彼女は魔法がつくものなら、なんでも興味が惹かれるのだろう。


「そうですねー、初めての魔道具でしたら、やっぱり魔法の指輪?いやいや、もっと便利な物の方が……」

「色々と思考してもらっているところ悪いんだが、俺はこの世界の貨幣を一切持っていないんだ」

「あっ、確かにそうですね。その服を売ればいくらかお金にもなりそうですが、」

「それは最後の選択肢にしたいかな」


 特別な服に思い出があるわけでは無い。

 だが、それでもこの服は手元に置いておきたい。

 あの世界を少しでも忘れないために。


「そういえことでしたら、やっぱり魔物の討伐が一番ですかね」

「魔物の?」

「はい、魔物から取れる皮や魔核は魔道具作成で重宝されています。個人での取引は難しいですが、冒険者協会を挟めば気軽にお金に変えることができます」

「冒険者協会?」


 冒険者協会、異世界といえばの定番のアレである。

 俺が一度目の転移でこの世界に来た際も、冒険者協会を探したがら残念なことにこの世界にその組織は存在していなかった。

 だが俺が離れていた千年の間に、俺がよく知る組織ができたのかもしれない。


「冒険者協会は、主に魔物を討伐することで生計を立てている人が所属しています。協会に所属した人は、討伐した魔物を協会に持ち込みます。その際に、協会から冒険者に報酬が支払われます。そして、協会が魔物を加工し、魔道具の製作者などに販売しています」

「なるほど、仲介業者みたいなものなのか。協会に所属することで、不利益なことはあるのか?」

「基本的にはありませんが、有事の際は協会の指示に従って行動することが義務付けられています」

「なるほど、街の防衛などの役割も担っているのか」


 どうやら、冒険者協会の役割はかなり大きいらしい。

 この組織の存在は、今の生活にはなくてはならない物なのだろう。


「ちなみに私も冒険者協会に所属しています!!」

「ほぉー、登録には何か条件はあるのか?」

「いえ、入会金さえ払えば誰でも所属できます。そして所属すると、こちらの入会カードが……あれ?」


 ユリはバックの中を漁り、青ざめた表情を見せた。


「無い……」

「え?」

「冒険者カードがないんです」

「それは、紛失したってことか?」

「……はい、おそらくどこかで落としたんだと思います」

「そ、そうか」


 先ほどまでとは雲泥の差がある、テンションの変わりようである。


「ユリ、意外とポンコツだよな」

「そ、そんな事ないですよ!」

「いやー、魔物の森ではこけるし、冒険者カードを失くすし、結構残念な子なのか?」

「や、やめてください、そんな哀れみを含んだ目で私を見るのは」


 俺はどうしようもない子を見るような目で彼女を見ていたのだろう。


「それで、冒険者カードを失くすとどんな問題が起こるんだ?」

「再発行に1000円かかります……」

「それは……結構痛いな」


 まぁ、大きなペナルティなどがないだけマシなのだろう。


「とりあえず明日は、魔物を狩りながら進みたいな」

「そうですね、たくさん狩って、たくさん稼ぎましょう!!」


 俺たちの明日からの行動が決まった。

 後は夕飯を食べて、寝るだけといきたいが……


「夕飯を食べ終わったら、魔法の練習をするか」

「はい!よろしくお願いします!!」


 俺の知っている魔法を彼女に伝えるため、少しずつでも魔法を教える時間を確保していきたい。


 この後俺たちは、温かい夕食を食べ、お互いが疲れて眠くなるまで、魔法の特訓を続けた。

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