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懐かしのクラスメイトたち(2)「ラガーマン、達也」  作者: 石原裕


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第7話 達也は二十二年間の人生に幕を閉じた

 達哉は無性に淋しくなって来た。誰かに会いたいと思った。否、誰かではなく皆に、これまでの二十二年間の人生の中の、一期一期の時に、遭遇し巡り会って何がしかの影響を、達哉の人間形成と生き様に与えた総ての人に会いたいと思った。

親父やおふくろ、姉や弟、恋人の江梨子、去って行った麗子、野口明子、死んだ金村、ラグビーのチームメイト達、小学校から大学までの友人知人達、アルバイトで出逢った技師や作業員達、それらの誰もに、もう一度会いたいと願った。

が、此処は救急治療室であった。家族以外は「面会謝絶」である。それに、恐らく父や母や家族の誰もが未だ病院には到着していないだろう。その他の何がしかの誰彼がドアの向こう側で、達哉の容態を気遣って重い沈痛な表情で待機しているだけだろう。

達哉はこれまでずっと時を駆って生きて来た。然し、消失の経験、離別の経験こそが時の移ろいを浮き立たせる。自分にとって無くてはならないもの、大切な人、そういうものが自分からむしり取られてしまうという痛い経験の中で、人は何かの不在を思い知らされ、時の移ろいを感じ入ることになる。消えたものへの思い、そこに時は訪れる。そして、人は生きている間は、時の外には立てない。時は、時を感じる自己の中を貫通しているものである。岸辺すら見えない揚子江の滔々とした川面に漂うように、人は紛れも無く時の中に在る。時を区切るそのきっかけが外から訪れることはなかなか無い。だから、だらだらといつになっても終わらないで、人は苛々する。人が時の外に出るのは死して後かも知れない。自己が、否、この現実世界がばらけて行って一枚の絵になったとき、現実世界は自己にとって意味の有ることばかりが充満していながら、然し、何処か不気味な光景として現れて来るのであろう。

 達哉は苦悶の表情を顔面いっぱいに浮かべて、誰に看取られることも無く、独り、二十二年間の人生に幕を閉じた。


 試合中に起きた達哉の事故死は新聞やテレビで報道された。

二十二歳で早逝した彼の葬儀は、斎場は花の香りに溢れ、人、人、人で立て込んでいた。

達哉の知人やラグビー部員たち、大学の級友たち、父親の会社関係者、長年住まってきた町内会の人々等々、彼等は皆、喪服に装いを正して一様にうなだれ、沈鬱な表情を浮かべていた。

十年を要する印書彫刻師の仕事に挑んでいる高田謙一や家業の造園業に就いて庭師になった後藤ら高校の級友たちも一緒に参列していた。彼等は入口近くで一塊になってひっそりと弔問した。

 入り口の壁際に父親と達哉の弟が立って、弔問者の悔やみの言葉に丁寧に礼を返した。円く太った父親の顔は、頬が弛み、目が血走っていた。

斎場には僧侶の読経の声が厳かに流れ、女達の啜り泣く声が聞こえた。


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