九十六話 王女の独白……?
見事にラムニーはツタに体をからめとられて身動きが取れなくなってしまった。本当に傷をつけることなく、一回も攻撃することなく一騎討ちを制してしまった。
「さて、終わったぞ。どうするんだブイモール。お前の武器は優秀な部下と権力くらいしかないだろう?」
壁上のブイモールは険しい表情をしていた。
―一方その壁上にて
王女・リリィ・ユーフテンの胸の内は、この危機の中にありながら、静かであった。
「どうしたんだ? なにを考えているんだ、リリィ。」
「いえ、父王。私は何も。」
「まったく、お前の考えが分からんのは今に始まったわけじゃないがな、バカ娘。」
彼女の父、ゼグリン・ユーフテンは、わりかしまともな部類に入るくらいにはいい父親であったが、それでもリリィが、かの盗賊・カティーヌ・ドラヌと恋仲にあることだけには決して理解を示すことはなかった。
そもそも、盗賊であるカティーヌと、王族であるリリィは本来なら顔さえ合わせることのないような間柄であるはず。
そんな彼らが顔を合わせるに至ったのは、今からざっと三年前のことであった。
ユーフテン王国は、外界から閉ざされたこの場所にあるが、だからと言って、他の国との交流がないわけではない。貿易などの友好的な交流もあるし、その逆も……
今となってはもうないが、当時ユーフテン王国と政治的に緊迫した国家があった。名をヒュミシラル国といった。この国の特殊なのは、地下深くに広がって繁栄しているという、地底国家であるという点だ。
ヒュミシラルとユーフテンはそもそも仲が悪いわけではなかった。物質的にも地理的にも、衝突する理由などは微塵もなかったからだ。
それなのに、どうして関係が悪化することになったのかといえば、ひとえにユーフテン側の責任である。ユーフテン王国には、エルフしか住んでいない。そんなエルフの国だから、当然エルフの感性が根づく。その価値観に言わせてみれば、地底に棲むなどというのは、野蛮であるようだ。
そういう理由で、ユーフテンのエルフたちは、ヒュミシラルの人々を侮ってしまった。一度相手を下に見てしまえば、並大抵のことではその考えは改まらない。
相手を下に見るような態度はやがて外交にも表れて、やがて実害が出るまでになってしまった。交易品の一方的な取引価格の変更。ヒュミシラル人のユーフテン王国への入国制限。ユーフテン王のヒュミシラル訪問中止など、どんどんエスカレートしていき、もちろんその舐めきった心は、ヒュミシラルにも伝わった。
ヒュミシラル国内にユーフテンへの反発感情が膨らみ始めたところで、事件は起こった。ユーフテン国王による、突然のヒュミシラルの支配下宣言であった。
もはやユーフテン王国は、本心を何ら隠すことなく、名実ともにヒュミシラル国を格下にしようとしたのである。対等な交易関係を築いていたはずの友好国を突然属国にしようというのは、前代未聞の暴挙だ。無論それをヒュミシラル国が許すはずはなかった。
ヒュミシラル国王は、即座にその宣言に対して抗議、それが受け入れられなかったので、ついに宣戦布告をした。地底の国はエルフたちと戦う決心をしたのである。
かくして戦争が始まってしまった。が、そもそもヒュミシラルが地底に国を作ることになったそもそといえば、その資源の少なさが原因である。国力はユーフテンとは比べようもなかった。
すぐにユーフテンが押し始めて、ヒュミシラルは危機に陥ってしまった。このままでは押し切られて国が滅ぼされてしまう。そこでヒュミシラル国王はある策を練った。
どんなに強国であろうとも、その頭、ないしはその近くの人間を抑えてしまえば、コントロール出来てしまう。それが王政の国であればなおさら。
そう、ヒュミシラル国王はユーフテンの王族を捕らえて人質にしようと考えたのである。はたから見れば卑怯かもしれない。しかし、国王がギリギリの状況でひねり出した苦肉の策なのである。
ターゲットは……まず最初に考えたのは国王・ゼグリン・ユーフテンだったが、すぐに断念。彼は王でありながら勇猛であることで知られている。居場所が分かったところで、捕らえるのは困難だろう。
王妃は、そもそも外に姿を現さない。たとえ国の行事であったとしても、出てこないのである。だから、どのような容姿をしているのかさえ分からなかった。
とすれば、あとは王女しか残っていなかった。ゼグリン王の一人娘、リリィ・ユーフテンである。彼女を捕らえることができれば、ゼグリンはうかつにヒュミシラルに攻撃できなくなる。
それに、好機があった。その年、リリィは十五歳になる頃だった。エルフの習慣では、この十五になったときに「葉冠の儀」というのを行う。いわゆる成人式のようなものである。一般市民もやっている行事だが、王族ともなると、国全体で執り行われる行事になるのだ。
そこがねらい目。リリィが公衆の面前に現れて、パレードも行う。まさに彼女を拉致するのには絶好のタイミングであった。




