八十八話 飾りの翼?
プールウェルはなすすべなく竜巻に巻き上げられた後、力なく床に落ちてきた。
「く、くそ! 君たちはほんとに、めちゃくちゃしやがって!」
敵に言われるのは癪だけど、実際めちゃくちゃやってる自覚はある。ゲーム内とはいえ、かなりのプレイヤーやNPCに迷惑をかけてしまったとも思う。
「なんとか倒せましたね。あの人が翼を使わなかったおかげですね!」
そこなのだ。
「もしかして、飛べないんですか?」
トルクが倒れたまま動けないプールウェルのもとまで行き、直接聞き始めた。
「な! そ、そんなわけないだろう!」
「じゃあなんでさっき飛んでよけようとしなかったの?」
「そ、それはたまたま調子が悪かっただけで……。」
「本当に?」
「本当だ!」
「正直なことを言ってごらんよ!」
「うっ……仕方ないだろう!」
突然プールウェルはキレ始めた。
「だってしょうがないじゃないか! 飛んだことがないんだから飛べなくったって普通だろう? 親が天使か何だか知らないけどね、僕はエルフなんだよ! 飛べないの!」
開き直った。
「え、じゃあなんのために翼ついてるんですか?」
ちょ! こいつはまったく、余計なこと言って……!
「分かってるよ! 僕の翼はどうせただのお飾りだ。ついてるだけのものだよ。なんとでも言え。」
あーあ、今度はいじけちゃったよ。それにしてもこいつ、さっきから体はボロボロなのによくそんなにしゃべれる元気があるな。
これも天に近いからか?
「ロータスさん、トルクさん。復活されても困るのでこの人いったん縄で縛っておきましょう。話はそれからです。」
ミヤビはどこから持ってきたかも分からないロープを持っていた。
三人で、少しも動けないプールウェルの体を起こしてそのロープでぐるぐるに縛り上げた。
「ちょっと、キツすぎるよ。もうちょっと緩めることはできないのかい?」
「できるわけないでしょう。また逃げられて復活されては困りますからね。」
でもさすがにミノムシ状態で横たえるのはかわいそうだということで、壁にもたれさせた。
このまま放置してどこかにある扉のスイッチを押してからさっさと突破してもよかったが、こいつの事情が気になってきてしまった。
「なあ、ちょっと話を聞いてから行かない?」
「あ、それ僕も少しだけ考えてました。なんとなく気になるっていうか。」
「確かに飛べない天使とエルフのハーフがなんでこんなところにいるのか気になりますしね。」
「ってことで話してくださいよ。」
「なんでそうなるんだ!」
相変わらず口は元気なやつだ。
「そんなこと言ったって、立場見てくださいよ。話すしかないでしょう? この状況だと。」
「トルクさん、悪役みたいになっちゃってますよ。」
「まあ盗賊なんだから悪役で合ってるんだけどね。」
尋問するように三人でプールウェルを取り囲むと、彼はしぶしぶながら話し始めた。
話は彼の生い立ちからだった。
「 僕の父親は、この壁の守り人、僕と同じ仕事をしていた。まあ、僕が父の仕事を受け継いだってところだね。
この仕事は、僕もつくづく痛感していることだけど、ひどく暇なんだ。守ってはいるけど、人なんてそうそう来るわけないし、だからといって留守にすることもできない。正直君たちの襲来を喜んでいた自分もいた。
そんな状態だから、父の退屈も計り知れないものだったと思うよ。そんな父のところに、いつもと変わらない退屈なある日天使が舞い降りた。文字通りの天使だった。最初父は自分の目を疑ったらしい。
天使の翼、頭の上に浮かぶ輪、そりゃあ簡単に信じられるわけがない。だけど、夢でも幻でもなかった。正真正銘目の前には天使がいたんだ。そう聞いている。
女の天使だったが、なぜかひどく弱っていたらしい。見た目からしてボロボロ、口もきけないほどだったから、父は天使を介抱した。
天使をどう世話すればいいか分からなかった父だったが、懸命な想いが通じたのか、天使は目覚めた。
世話をしながら報われない話だが、最初天使は父に警戒心むき出しだったようだ。父は必死に彼女をなだめたらしいが、まともに口をきいてもらうまでに一週間を要したらしい。
聞いてみれば、天使は上空のもっと上、天界からやって来たらしい。天界は戦争の真っ最中であり、その天使はそれに巻き込まれて瀕死の重傷を負ってここに落ちてきたらしい。
天使は順調に回復してきたが、それでも戦火を避けるために父のもとに居ついた。この広い中に異性が二人、それがたとえエルフと天使という異種族の間であっても、情愛が生まれるのはごくごく自然なことだった。
情愛は大きくなり、やがて天使は母親になった。天使がエルフの子を孕んだというのは父にとっても、天使にとっても衝撃的だったようで、同時に二人とも喜んでくれたと聞いている。
君たちもすでに察しているとは思うが、二人の間にできたその子供こそが僕なんだ。そして、天から降ってきて、父と愛情を交わしたその天使こそが、僕にこの翼を授けた母親なんだ。」




