八十五話 天空壁の守り人!
頂上が見えた! 目指す先はあそこ。
「敵は見える?」
「いや、何とも。なんせ下から見上げているわけですから。」
でも、さっきの矢の数を考えると、大勢の気配があってもいいはずだ。それなのに、そういった気配が全くない。
もしかしたら隠れているのかもしれない。
「敵がもしもいっぱいいたとしても、どうせ私たちは見えていないわけですから、気にすることはないですよ!」
ミヤビは無神経に登っていく。余りに不用心に登っていくものだから、つい気になって聞いてしまった。
「そういえば今更だけどさ。ミヤビって高いところ苦手じゃなかったっけ?」
「それ今言います? けれど安心してください。私が苦手なのはあの吊り橋みたいに勝手に揺れたりするものです。ああいうのって自分じゃどうしようもないでしょ? そういうのが苦手なんです。でも、こういう壁登りって自分の体でやるわけですから、何にも問題ないですよ。むしろ得意です!」
「変わってるなあ。」
「いや、意外といると思いますよ、そういう人。」
彼女はわけないという雰囲気を出しながら、ひょいひょいと登っていく。
頂上まではあと二十メートルというところか。随分はっきりと頂上を捉えることはできるようになったが、見上げる角度なので相変わらずどういう様子かが分からない。
そんなよくわかっていない状況にもかかわらず、ミヤビが先頭でガシガシ登っていくから、俺たちもついて行かざるを得ない。
「おーい、登り切ってもすぐには中に入るなよ。様子見しなくちゃ危ないからな。」
「はあい、分かってますよ。」
ほどなくして、ミヤビは頂上にたどり着いてしまった。
「どうだい? 誰かいるかい?」
敵がいてもいいように、少し声を静めた。
しかし、ミヤビの返答は意外なものだった。
「……誰もいませんよ。」
「え?」
「だから、誰もいないんですよ。」
「ミヤビちゃん、それは本当? 見間違いとかじゃない?」
「トルクさんまで、失礼ですよ。私を何だと思ってるんですか! 確かに誰もいませんよ!」
本当かよと思って、俺とトルクも遅れて頂上に顔を出した。
「本当だ! 誰もいないじゃないか!」
代わりにあったのは大量のバリスタ、矢の射出機だった。
「さっきの矢たちは全部ここから発射されていたんですかね。」
「でも誰が?」
「それは……分からないですね。」
本当に誰もいない。バリスタたちが忘れ去られたように置かれているだけ。
人の気配がないので、俺たちは上に登ってしまった。
「思ったより広いですね。」
壁の上だから細長いのかと思っていたが、幅もそれなりにあった。三十メートルはあるだろうか。
「こりゃ相当分厚いようですね。」
城壁の上いるかのようだ。
風が穏やか、歩いてみても俺たちの足音しか聞こえてこない。
「ごめんくださーい。」
「言ったって誰も出てきやしないよ。」
と、たかをくくっていたのだが……
「……もしもし、誰か来ているのか?」
と、突然声が聞こえた。
「ええ! 誰かいるんですか!」
「どこから聞こえてきた?」
「ええと、向こうからですね。」
三人で驚きつつも、声がした方に向かうと……
「ええと、これは?」
「スピーカーですね。」
「じゃあ声の主っていうのは別のところに?」
「そうみたいです。」
どこにいるのだろうか? この壁の上には、小屋のような石造りの建物が五つほど並んでいる。
あの建物たちのどれかの中から、声の主は放送しているのだろう。
「あー、あー。聞こえてない? え、放送できてるよね? って僕しかいないんだった。」
何言ってんだこいつ。
「ええと、聞こえてますよ! あなたどこにいるんですか?」
トルクが叫んで放送の声にこたえてしまった!
「ちょい! 何返事しちゃってるのさ! 十中八九敵じゃん!」
「けれど、呼びかけているのにシカトされるのってつらいじゃないですか?」
それはそうだけどさ……
ミヤビはそろりそろりと壁の反対側に向かっていた。
「なにしてるの?」
「シーー!」
と人差し指を立てながら忍び足で歩き続けていく。
「なんで一人で行っちゃうんだよ?」
「もーバカ! なんでですか? せっかく見つかる前にこっそり反対側から逃げようとしてたのに! トルクさん、さっきから敵に話しかけたりするし、気でも違ってるんじゃないですか!」
ミヤビに言われちゃうと重症だな。
カツカツと足音が聞こえてきた。
「ほら! トルクさんがあんな風に答えちゃうから、出てきちゃったじゃないですか!」
歩いてきたのは、一つめの関所のホグミーとは打って変わって、ゴツさはなかった。
「あ、見つけた。ふぅ……君たちが久しぶりの客だよ。さっきバリスタが反応してたから誰か来たのは分かってたんだけどね。」
独りごとのようにべらべらとしゃべりながら出てきたのは、カティーヌよりも一回り小さなエルフ。しかし、特異だったのはその背中。
「ええ? あれって……。」
「そんなことってあります?」
「翼……生えちゃってるね。」
あくびをしながら気だるげに歩いてきた長髪のエルフの背中からは、大きな天使の翼が一対生えていたのだ。




