八十四話 雲の上!
突起の上からはまた突起が見えた。
「なんでこんなに凸凹してるんでしょうか、この壁。僕たちの立場で言うのもあれですけど、絶対ツルツルにしといたほうが登りづらいでしょうに。」
「デザインを重視しちゃったんじゃないですか? ほら、そこにも。」
突起の所々には観葉植物が置いてあった。
「本当に植物が好きな人たちなんですね。エルフの習性ってやつですかね?」
花が冷えた風の中に香った。
向こうは今頃になって設計ミスを痛感しているかもしれない。これでは真下の敵を攻撃することができないではないかと。これこそ灯台下暗しじゃないか。もしかしたらネズミ返しみたいなことを考えたのかもしれないが、残念、現に俺たちは登ってきてしまっている。
「で、次の突起まで上っちゃいますか。私たち見えてないんだし躊躇することはないですよ。」
俺たちは次の突起を目指して壁に手足を貼り付けた。本当にすごい粘着力だ。全く体が落ちる気がしない。まるで爬虫類になったような気分だ。トカゲの様にちょろちょろと這いまわることはできないが。
「そもそもどのくらいの高さなんですか?」
「分からないよ。一番上は見えなかったんだから。」
いつ到着するかも分からない。
「いちいち何かを気にしてたら日も暮れてしまう。どんどん登ってしまおう。」
「そうですね、疲れちゃうかもしれないけど。」
「というか、完全にカティーヌさんのペースに飲まれちゃってましたけど、ロータスさんがこの壁をぶち破ることってできないんですか?」
さっきの第一関門のことを考えれば浮かぶアイデアではある。
「それな、さっき俺も考えてみたんだけどな、無理そうだった。この壁、魔法で守られているよ。」
「え! そんな魔法誰が使えるっていうんですか?」
「いや、誰というか……運営だね。」
「あー、なるほどです。」
ミヤビもトルクも苦笑い。
そこは運営も考えているようだ。何でもかんでも破壊して解決することはできないようになっている。それだと面白くないし、そんなド悪党みたいなプレイがまかり通ってしまったら、子供の教育にも悪影響だ。
「じゃあ地道に登っていかないといけないんですね。」
「なに、攻撃にさらされていないだけかなりマシだろう?」
二番目の突起に登ってしまってからは速くなった。みんな要領を得てきたのか、テンポよく壁を登っていく。
……しかし、頂上に着く気配が一向にない。いつになったら着くというのか。もう十数個は突起を乗り越えてきた。
「だんだん空気が薄くなってきてるような気がしませんか?」
「言われてみれば。突起の面積も小さくなっちゃってるし。」
下の方の突起は、バルコニーくらいの広さがあった。しかしここまでくるとすれ違うこともはばかられるような幅の狭さ。
「うっ! こりゃ下を見ちゃいけないな。」
下はボウっと霞んでいる。
「もっと遠くを見てくださいよ! きれいな景色ですよ。」
「よくそんな余裕があるもんだな。」
俺はといえば、壁と向き合ったままでいる。
「どこまでも碧です! きっとあの向こうもずっと山ばっかなんでしょうね。」
ミヤビに肩をたたかれて恐る恐る振り返ると、冷たい風が顔に当たった。
彼女の言葉通り、どこまでも山が続いていた。地平に見切れるほどの遠さにもなれば、墨を一滴水に垂らしたほどの薄い影になっていた。
ちょっと恐怖が和らいだところで先を急いだ。
「まだまだ上があるっぽいですよ。これどこまで続いてるんですかね?」
もうとっくに百メートルは登ってきていると思う。それでもまだ続いている。
「うわ! 見えないよ!」
急に視界がぼやけだした。
「私もです! 急に視界が白くなってきました。」
「言われて見れば、よく見えなくなってきましたね。」
三人全員が同時になったから、俺の体調の問題ではなさそうだ。
「これは、雲だ!」
「ええ! 雲なんですか! もうそんなに登って来たんですね。」
「そもそもここの標高が高いからね。」
でも逆にいいかもしれない。真下が見えなくなっている。
「ここから上ってずっと雲なんですか?」
「いや、ちょっと登ればまた雲が切れるはずだよ。」
「じゃあそこまで急いで登ってしまいましょう!」
多少天気が良かったからか、雲はさほど厚くはなかった。
「あ! 雲が切れました! すっきり周りが見えますよ!」
すっぽり顔を出すと、頭の上には目が痛くなるほどの青空が広がっていた。そして、目の前には真っ白い雲の海。
「まるで空と海が入れ替わっちゃったみたいですね。」
遠くはどこまで見ても雲ばかりだ。他にはもう何もない。
だが浮かれてもいられない。雲を越えたっていうのに、まだ頂上に着かないのである。
「ひぇぇ、まだ上があるだなんて、逆に向こうからはどうやって下にいる私たちのことを攻撃してたんでしょうね?」
まったくである。雲が遮っているっていうのに、どうやって狙ってきていたのだろうか。
雲を越えても、やることは変わらない。
「ちょっと疲れてきちゃいました。」
「でもこんなところで止まってるわけにもいかないだろ。だって、ほら。」
まだまだ高さはあったが、ついに頂上が視界に入った!




