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八十一話 姫の魔法……!

 関所の壁には大きな風穴があいてしまっていた。


「これは、簡単に逃げられるってことで、むしろ俺の手柄ってことでいいのかな?」


「まあ、それはそうですよね。」


さっきから俺のことを責めてばかりだったミヤビも、これは認めざるを得なかった。


「しかし、国民たちが汗水流して建てた建物を壊してしまったのは残念ですし、褒められたものではございませんね。」


「ぐっ……!」


王女さま、そこはさすがに許してほしい。


 風穴はデカデカと空いており、俺たち五人が横一列に並んで歩いても問題なく出られるくらいの幅がある。


「でもたしかにこれはやり過ぎですよね、ロータスさん。」


「しばらくはやっぱり封印だな。」


しかしまあ、今回は結果オーライだ。俺たちは誰一人として欠けることなくまんまとこの一つ目の関所を突破してしまったのである。


「さて、ここから二つ目の関所までは結構距離があるぞ。」


「ええ! なんで近くに作らないんですか? 歩くの大変じゃないですか。」


「当たり前だろ! 近くに作ったって意味ないだろうが。」


 関所を抜けた後も、谷沿いの一本道になっていた。


「物々しい関所さえなければただただきれいなだけの風景なんですけどね。」


「キューーン、キューーン。」


空高くを飛んでいる鳥が響き渡るような高い音色で鳴いている。もうしばらくは人は誰もいないらしい。


 それどころか、その鳥以外の動物さえも見当たらなかった。話すこともなかったので、五人の足音だけが聞こえる。足音で誰かが分かってしまうから不思議だ。間隔が狭いのが女性二人。ただ、ミヤビは力強く地面を踏みしめるのにたいして、リリィ王女はしとしとと、柔らかく静かに土の上にのるような足音をしていた。


 一番重い足音がトルクの足音。カティーヌのは砂を引きずるような音がかすかに聞こえるだけだった。


「ねえカティーヌ。私たちのこと、もう次の関所の方々には知られてるんじゃないかしら?」


「十中八九そうだろうな。もともとそのつもりで来ている。」


「そう、ならいいのだけど。」


情報は共有しているだろうから、さっきのような嘘は最初から通じなくなってしまう。


 次からは、もっとハードなことになるんだろうな。それをあと二回か……。本当に大丈夫なんだろうか? 不安になってきてしまう。


「サーーーー。」


「おや、音が聞こえてきましたよ。水の音でしょうか?」


「水の音……ああ、そうだったな。ここらにたしか滝があったな。」


「え! それじゃあ、そこで一休みしていきましょうよ。」


「……しかしな、急いでいるんだぞ。」


「そんなこと言っても、ここからまだまだ遠いんでしょ?」


「それはそうだが……」


「なら! どうせ休憩することになるんです! そしたら水のある場所の方がいいに決まってるでしょ?」


そんなに疲れたのかな? ミヤビはやたらと滝での休憩を推している。


 そんな彼女に押し切られる形で、俺たちは滝で一度休憩することになった。


「いいかお前ら、オレたちがいま追われる身であることを忘れるなよ。」


考えてみれば、関所と関所の間なんてそれこそ逃げ場がない。完全に袋のネズミ状態である。早く国外に脱出しなければ、全くもって安心などできないだろう。今まさにそこから追っ手が見えてもおかしくないような状況だ。


 しかし、心配とは裏腹に滝の水音ばかりが大きくなってきた。だんだんと空気が湿気てきたが、涼しい風が吹き抜けるので不快ではなく、むしろ気持ちがいい。


「もうすぐに感じるんですけどね。」


木々が重なり合う林の中なので、前方の十メートル以上先はもう見えない。薄暗いなかだから、きっとカティーヌ抜きでは迷ってしまうだろう。彼は一見して何の便りもないように感じる林の中を、少しの迷いもなく突き進んでいく。


 滝壺は突然目の前に姿を現した。


木々に阻まれていた姿は、光に淡く輝いて、天高く壮麗だ。


「ザーーーー。」


しぶきが頬に当たると、ひんやりしていてなおのこと気分が良かった。


 俺たちは休憩がてらに近くの岩に腰かけた。


「大丈夫ですか、王女さま?」


「大丈夫ですよ。私たちがあなた方を巻き込んでしまったのですから、私がきついだの疲れただの言ってられません。」


彼女は気丈だった。普段はこんな距離、自分の脚で歩くはずないのに、気品は全く崩れていない。


 「ああそれと、さっきは助かりました。王女さまが魔法を使うことができるだなんて知りませんでした。おかげで全滅の危機から逃れることができました。」


「いえいえ、お役に立てたのならよかったです。」


「ちなみにどこで魔法を?」


「ハーミーチルの修験洞です。」


「修験洞?」


「私たち王族は、十歳の頃から三年間親元を離れてそこで修行するという習わしがあるのです。」


「え! じゃあその間は家族に会えないんですか?」


「ああいえ、三か月に一度帰省するので。」


割かししょっちゅう帰るんだな。


「魔法はそこでの修行中に覚えました。人々を守るための魔法なら一通り使えます。」


「へえ、それはすごいですね。」


「ハーミーチル修験洞はあなたがたが来た世界の方にありますから、きっと行く機会もあるでしょう。」

 



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