六十四話 王女誘拐です!
美しい王女は、俺たち二人を部屋に入れて、扉を閉めるように指示した。カティーヌは扉を閉めて、静かにリリィ王女に駆け寄った。
「どうして来たのですか!」
「君を迎えにだよ。」
リリィの顔には、焦っているのと、それからよく分からない感情が渦巻いているようだった。兄妹が再会できたというのに、どういうことなのだろう。
「カティーヌ、確かあなたは捕まっているはずじゃなかったのですか?」
「抜け出してきたのさ、こいつのおかげでな。」
カティーヌは俺のことを王女に紹介した。
「そうですか、感謝しなければなりませんね、ロータスさん。申し遅れましたわ、私がこの国の王女、リリィ・ユーフテンです。」
やはり彼女は浮かない顔をしている。
「どうして、また罪をお重ねになったの? これ以上は私も庇いきれませんわ。」
ん? 罪?
「罪ってなんのことです?」
気になって聞いただけだったのだが、カティーヌはギクッとなった。
「どうしたのです?」
一瞬の間を置いて、カティーヌは平静を取り戻した。
「ああ、もう隠すことはないな。ここまできてしまえばそなた、いや、お前にバレたところでなんの問題もない。」
カティーヌの態度は急変した。
「オレこそがこの国一番の盗賊、カティーヌ・ドラヌ様だ!」
「ええ!」
と驚きの反応をしてみたはいいが、正直なところ、途中からすでに王子というのが怪しいとは思っていた。
怪しいと思い始めた理由はいくつかある。
まず、リキッドキーなんてものを知っていたことだ。普通の人間なら知らないような場所に売られている盗賊専用の道具を王子が知っているというのは、かなり不自然だ。
それに、さっきだって、当たり前のように城の裏手から登っていたが、普通は自分の家だったとしても、人目につかず中に入る方法なんて心得ていないものだ。
だから、盗賊なんじゃ? とは考えていたし、実際そうであっても大した衝撃ではなかった。ミヤビがこれを聞いたら仰天してひっくり返るのだろうが。
「あなた、見ず知らずの方に嘘をついて連れてきましたの?」
「おおっと、おいおい。人聞きの悪い言い方をしないでくれよリリィ。こいつのおかげでオレたちはまた会えたんじゃないか。」
「それですよ! どうして来ちゃったんですか!」
「おま、どうしてって。来てほしくなかったのかよ!」
なんだなんだ。よく分からないうちに喧嘩を始めちゃだぞ。
それにしてもおかしな関係性だ。盗賊に、それから王女。そもそもどこで接点を持ったのかが見当もつかない。
「そうではありませんが……。」
「じゃあなんだよ。」
「あなたは追われている身なのですよ?」
「盗賊なんだから、当たり前じゃないか。」
「違います! 私が申し上げたいのはそういうことではなく……。」
カティーヌは相変わらずしらばっくれたような話し方をする。
リリィ王女は振り回されている。
「あなた、今度は私のために追われる身になっているじゃありませんか!」
「追われるのは元々慣れているんだ。お前が気にするようなことじゃないさ。」
王女はやっぱり納得していないらしい。
カティーヌがのらりくらりしているのにだんだん苛立っている。
「分かっているのですか! もう一度捕まってしまったら、今度は私だって庇えないですよ。」
「元からお前に庇ってもらう義理なんてないさ。」
「じゃあ死罪になってもよろしくて?」
「その前に逃げ出してやるよ。」
「よく言いますね、今回だって見ず知らずの人の手を借りておいて……。」
「それでもオレは今ここにいるんだ。」
二人でずっと話されると、俺が蚊帳の外だ。二人にのっぴきならない事情があるのは分かったが、それが俺にも分かるように説明してほしいところだ。
聞いているだけだと、ただの痴話喧嘩。カティーヌとリリィ王女はただならぬ仲のようだけど、彼女はカティーヌに帰って欲しいらしい。また捕まってしまうのではないかと心配しているのだろう。
「どうか、お帰りくださいませ。ここにいては危険でございます。」
「それは同感だな。ただ、オレが帰るときは、お前も一緒だよ。」
と言うと、カティーヌは王女の手をパッと取ると、窓の方へと走り出した。
「何をなさるのです!」
「捕まってろよ!」
そのままカティーヌは王女を抱き抱えて、窓に突っ込んだ。
「タイセイ! これを渡しておく。この場所で落ち合おう!」
カティーヌは走りながら僕に紙切れを投げた。
おいおい、ここ四階だぞ。人を一人抱えた状態で下に落ちて大丈夫なのかよ。
「キャーーー!」
突然四階から飛び降りるリリィ王女が不憫だ。
「バリーーン!!」
二人は窓ガラスを破って外に飛び出した。王女の悲鳴がどんどん遠くなっていく。
いや、どうしよう。落ち合おうって言ったって、勝手に置いてけぼりにされてしまったのだが。
他の二人が無事なのかどうかも確かめなきゃいけない。ほんとに勝手だな、カティーヌ。まあ盗賊だからあたりまえか。
俺はミヤビとトルクを探さなきゃいけないので、もう誰もいなくなってしまった王女の部屋を出た。




