六十五話 四面楚歌です!
カティーヌは無責任にも俺たちを置いていきやがったから、この警備だらけの城に取り残されてしまった。
「どうやって出ればいいんだ? いや、その前に二人と合流しないと。」
二人は一緒に行動しているはずだ。
今俺がいるこのフロアは四階。二人が階段を使っていなければ、同じ四階にいる。
と、廊下の角を曲がろうとしたときだった。
「カツッ、カツッ。」
曲がった先から足音が聞こえて来た。
まずい、足音は一つだけだ。十中八九敵だろう。見つかったらほぼほぼゲームオーバーに等しい。
ん? よくよく考えたら、『隠密』があるじゃないか。カティーヌが使わなかったから、俺もついつい忘れていた。これを使えば、簡単に身を隠してしまえるじゃないか!
「『隠密』!」
……よし、これで大丈夫だ。自信を持って角を曲がることができる。
角を曲がった先にいたのは、予想通り敵の警備兵だった。
「貴様! 何者だ!」
「えええ! なんで?」
「なんで?って、こっちのセリフだ! 貴様! なぜこの城にいる!」
……ヤバいな、逃げちまえ。
「お、おい! 貴様、やはり賊だな! 逃がさんぞ!」
こりゃやばいな。なんでか分からないけど、見えてしまった。捕まったらゲームオーバー待ったなしだから、全力疾走で逃げる!
でもなんだか盗賊っぽいことしてるぞ。見つかってる時点でへっぽこ盗賊なんだろうが、今までで屈指の盗賊らしさを発揮してる気がする。
これで逃げおおせたら、盗賊として成長できそうだ。……あれ? 逃げる?
そもそもどうして逃げる必要があるんだ? だって、敵は一人じゃん。多分勝てるじゃん。じゃあ逃げる必要なくない?
いやはや、やっぱり固定観念に縛られてはいけないな。盗賊は人に見つかったら逃げるもんだと勝手に思い込んでいた。
大事なことは捕まらないこと。ならば、追っ手を撒かずに倒してしまっても問題はないのだ!
俺はくるりと反転、追ってくる警備兵と相対した。
「どうした? ようやく観念する気になったか!」
「そんなわけないだろう!」
大剣を大きく振り上げた。
敵の警備兵は剣一本のオーソドックスな装備だ。何か特別なものがあるわけでもなさそう。おまけにエルフだから、上背もない。
「どりゃ!」
振り下ろした大剣は敵には直撃しなかった。切っ先が敵の目の前の床をえぐる。
「うおっと! 貴様、あくまで反逆するつもりだな!」
剣は外したが、その切っ先から風が起こって舞い上がる。そのまま大きくなり、竜巻へと進化した。室内、それもこんな狭い廊下で使ってしまうと、かなりの大惨事になってしまうが、そもそも俺たちにとっては大ピンチだ。綺麗な城を傷つけてしまうのは心苦しいが、仕方ないだろう。
「グロロロロロ!」
廊下に置かれた種々の調度品や絵画などを根こそぎ巻き上げながら竜巻はどんどん大きくなり!ついにこの廊下に収まりきらなくなった。
「パリーン!」
風圧が窓ガラスを割ってしまい、音が激しくなった。
もちろん警備兵も無事では済まなかった。
「おのれ! 妖術を使うか! くそ、こんな賊に遅れをとってしまおうとは!」
恨み言をつらつらと並べながら、警備兵も窓の外へと吐き出されてしまった。
そのうち竜巻も収まり、また静かになった。残されたのは、俺とボロボロの廊下。
「ちょっとやりすぎたかな?」
廊下の俺よりも前の部分は、見るも無惨な有り様になっている。壁紙は剥げ落ちてしまい、壺やら彫刻やらも全て壊れてしまった。絵画なんかは、もう何が描いてあるのかさえよくわからない。
自分で壊した廊下をまじまじと見ていると、遠くから声がしてきた。
「こっちだ! 賊がいるぞ!」
しまった、新手が来たか。しかも今度は一人じゃない。大勢で来ている。これはさすがに相手にしきれないか。
そういうことだったのか。戦えば騒ぎになってしまい、さらなる追っ手を呼ぶことになってしまう。だから盗賊っていうのは敵に見つかったら戦わずに逃げるのか。俺があほだった。夢見心地で深く考えられなくなっていたんだ。
ともかく、そうと分かれば逃げるしかあるまい。他の二人も無事だといいが。今は自分の安全の確保だ。逃げているうちに合流できればいい。
俺は廊下をもと来た方へと戻った。後ろから追われているというのはなかなかのプレッシャーだ。後ろからはもう俺の姿が見えているに違いない。
階段まで戻ってきた。このまま下に降りて脱出かと思ったが、そうもいかなくなった。
「賊は上にいる! 僕たちも応援に行くぞ!」
と下から声がしたのである。降りられなくなってしまった。
くそ、じゃあ上に行くしかないじゃないか! 余計に遠ざかってしまうような気がしたけれど、今はそうしなければ捕まってしまう。
俺は五階に駆け上がった。五階には、異常なほどの警備は敷かれていなかった。巡回している者が数人いるだけである。きっと俺たちの件で下の階に人員が割かれているためだ。当の俺はここにいるっていうんだから、皮肉な話である。
俺は、見つからないようにそっと忍び足で廊下を奥へと進んだ。こんな時こそ必要になるっていうのに、『隠密』が使えないのは不便極まりない。
奥に進んだところで、突き当りにたどり着いた。引き返した方がいいのは分かっていたが、その突き当りにあった巨大な青い扉が妙に気になってしまった。




