六十三話 ユーフテンの王女です!
トルクは俺たちがいる三階よりも、かなり上の階から城に突っ込んでしまった。それも、騒々しい音を立てながら。
「そなたたち、もう一度聞くが……本当に盗賊なのか?」
かなり怪しい。そもそも、盗賊らしいことをやろうとしてすんなりいった記憶が全くない。
「正真正銘盗賊です!」
「おまえ、どうしてそんなに自信満々でいられるんだよ。」
おっと、ミヤビはいたって真剣に盗賊をやっているつもりだったらしい。カティーヌもここまで言い切られては、それ以上何も言えなかった。
上が騒々しくなった。
「何者だ! 賊か?」
あ、やっぱり。トルクは早くも警備に見つかってしまったらしい。
「ほらみろ、まずいだろう。出直すか?」
「出直すにしても、トルクさんがまだ中に取り残されています。おいてはいけません!」
それ大分終盤になってから言うセリフなんだけどなあ。四人中三人がまだ城の中に入っていない最序盤で言っちゃってるよ。
「もとはといえばそなたたちの自業自得じゃないか!」
「それでも連れてきたのはあなたですよ? さあ、行きましょ!」
「あ、ちょ! やめっ!」
ミヤビはカティーヌの手を引っ張って城の中へと入ってしまった。
城の中にまで入ってしまってはもう引き返せない。ミヤビの強引さにカティーヌも観念したようである。
「それじゃあロータスさん。王子のこと頼みましたよ。私はトルクさんを助けに行きますから。」
そう言うと、ミヤビは城の中がどうなっているのかさえ知らないというのに、走り去ってしまった。
取り残されたのはおれとカティーヌの二人。この状況はかなり気まずいな。何か話さないと、沈黙に耐えられない。俺は、冷静になってようやく頭に浮かんできた疑問を彼にぶつけてみた。
「今更ですけど、どうして初っ端から城に来たんです? 国を取り返すにしても、もっと段階踏んだりっていうのがあったでしょうに。」
聞くと、カティーヌはなぜか少し考えるそぶりを見せてから答えた。
「この城にはな、私以外の王族がいるんだ。」
「ご両親とか?」
「いいや、両親はもういない。母は三年前辺りに、父王はついこの間亡くなった。そもそもこの国が乗っ取られたきっかけが、その父王の死なのだよ。」
「じゃあ、他の王族っていうのは?」
「ああ、王女がこの城に取り残されてしまっている。この王女を城から脱出させるのが今回ここにきた目的だよ。」
ほほう、囚われの王女ということか。これまたベタな展開だな。それを救出しに今から行くわけだ。
「でも、その王女様がいる場所なんてわかってるんですか?」
「心配するな。彼女だって王族の一人なんだ。いくら敵だと言えども、ひどい扱いにはするまい。きっと自室にいるさ。」
え、でも……。
「カティーヌ王子は思いっきり牢屋にぶち込まれてたじゃないですか。」
「そ、それはオレが男だからだろうよ。ともかく行くなら行くで、早くしなきゃならないだろう。さっさと行くぞ。」
カティーヌは背を向けて足早にバルコニー沿いの部屋から出ていってしまった。
彼の背中を追っていけば、王女の部屋にたどり着くことができるというのだろうか? カティーヌは少しも迷うことなく突き進んでいく。かなり複雑な構造になっているというのに、まったく迷うことがないから、よほどこの城のことを熟知しているのだろう。
と、彼が突然立ち止ったので、俺は彼の小さな背中に突っ込んでしまった。
「わっぷ!」
「おい! 静かにしろ!」
小声で言う。
俺たちが進もうとしていた先から、人の話し声が聞こえてきた。
「おい、侵入したっていう賊は捕まったのか?」
「いや、まだらしい。あんなにでかい音だしたっていうのに、見つからないのは不思議だよ。ともかく気をつけてくれ。あの階にはリリィ王女の部屋があるんだから。」
リリィってのが王女様の名前か。彼女の部屋が、トルクが突っ込んでいった上の階にあるようだ。彼とミヤビもまだ見つかってさえいないようだから、今のところは放置していても問題ないだろう。
話し声は聞こえなくなった。
「よし、一気に行くぞ。」
カティーヌはスピードを上げた。行く先には階段がある。
俺たちはそこを一気に駆け上がった。そこで気になったのは、カティーヌの足元だ。全く足音が聞こえないのだ。俺も気をつけてはいるのだが、急いでいる以上ある程度の音は出てしまう。それなのに前を走るカティーヌからは全く音が聞こえない。まるで俺が一人で走っているようだ。
階段をのぼりきって、王女の部屋があるというフロアに着いた。階段が終わってしまっても、カティーヌは走り続けた。
「さっきの話といい、ここの階は警備が複数人いるはずだ。見つかる前にさっさといくぞ。」
カティーヌが立ち止ったのは、長い廊下を三回曲がった後だった。巨大なヒスイ色の扉が構えていた。カティーヌは息を整えると、その扉を軽く、音が出すぎないようにノックした。
「はい。なんでしょうか?」
中から透き通った細い声が聞こえてきた。
「オレだ、リリィ。」
「!!…………とにかくお入りください。」
そう言われたので、カティーヌは扉を押し開けた。
「あなた、どうして来てしまわれたのですか?」
扉の奥に座っていたのは、絵画の女神と見間違えてしまうほどに美しい、若草髪の姫君だった。




