六十二話 大樹の城に侵入です!
裏手には人影がなかった。
「ここからだったら、人に見られずに行ける。指名手配中の私でも簡単に中へと入れるだろう。」
「でも、それは向こうも分かってるんじゃ?」
「なに、心配はいらないさ。奴らはこの前来たばかりなんだ。そんなこと把握してないさ。」
そんなに上手くいくもんかな? そもそも、裏手には入り口らしい入り口が見えないし。
カティーヌはそこで突然せっかく着ていたミヤビの装備を脱いでしまった。
「これ、そなたに返す。今から必要になるからな。」
そう言うと、ミヤビに向かって放ってしまった。
「え! もういいんですか?」
「今はな。また借りるかもしれないが。」
カティーヌはミヤビに返したステルスフライを着るように促した。
今の状況で、どうしてミヤビの方がステルスフライを着る必要があるのか分からないが、ミヤビは言われるがままに着なおしていた。
「よし、じゃあ城に入ろうか。」
と、カティーヌは城の壁の前まで近づいた。入口の扉はどこにも見当たらないので、そこからどうするのだろうと見ていると、
「ふわっ。」
とカティーヌは飛び上がってしまった。まるで重力を忘れたかのような軽やかさである。
「え、そこから入るんですか! 無理があるでしょう。」
カティーヌが着地したのは、三階のバルコニー。そこまでジャンプしてしまったのだ。
「まあ私ならこのくらい余裕さ。」
エルフの王子だからなのか? とにかくとんでもない跳躍力だ。
けれど、俺たちにはそんなことできない。
「俺たちはどうすればいいんですか? そんな高いジャンプなんてできないですよ。」
「何を言ってるんだ。なんのためにそのローブを着ていると思っているんだ。」
ローブ? このステルスフライのことか? これを着ていたからってどうなるっていうんだ。
ステルスフライの詳しい効果はあまり見ずに買ってきてしまった。もしかしたら、これで何かできるのだろうか?
「おま……そなたたち、盗賊だというのに本当に何も知らないんだな。そいつを着たまま姿を隠してみよ。」
姿を隠す?
「『隠密』を使えって言うことでしょ? とりあえず言われたとおりにしてみますか。」
何かが分かるかもしれない。
三人そろって「隠密」を使って身を隠した。と言っても、ここには敵のモンスターなんていないわけで、お互いのことはちゃんと見えているわけだから、見た感じは何も変わらない。ローブにしても、今のところは変化なしだ。
いったいなんの効果があるというのだろうか?
「そなたたち、そのまま跳んでみろ。」
言われた通りにジャンプしてみた。
「うおああ!」
俺の身体は、自分でもビビりあがるくらいに高く跳びあがってしまった。それこそ、カティーヌがいる三階のバルコニーに届いてしまうほどに。
他の二人も同じようなことになっていた。およそ人間の業とは思えないほどの跳躍。三人ともとんでもない高さまで跳びあがると、今度はそのまま地面に落ちた。
着地した時にケガしないか心配だったが、俺たちの体は地面に着くすれすれで浮いたように減速して、柔らかく着地した。
「おお! これがこのローブの力ですか。すごいですね!」
「逆にそなたたちはどうして知らないままそんな高いローブを買おうと思ったんだ?」
結構値が張ることまで知ってるんだな、この王子様。
だがしかし、このローブは出費分くらいの仕事はしてくれるらしい。
「さあ、もう効果は分かっただろう? それを使ってさっさとここに上がってこい。」
彼はバルコニーの柵にもたれかかって大儀そうにこちらを見下ろしている。
一回跳びあがってしまうと、「隠密」の効果は切れてしまうらしい。俺たちは、再度「隠密」を使いなおして、今度はカティーヌのいるバルコニーに狙いを定めた。
最初にミヤビが跳びあがった。
「フウゥゥゥゥゥ!」
見た目にも身軽な彼女は、難なくバルコニーに届いた。
次に、俺が跳びあがった。が、ミヤビよりかは随分と重い体なので、柵の中ほどに手をかけて、カティーヌたちに引き上げてもらうことで何とかクリアした。
「大丈夫かよ。」
「ええ、なんとか。」
最後に残ったのはトルクだ。
「ロータスさん! わりと力いっぱい跳んだ方がよさそうですか?」
「そうだね! 俺今ギリギリだったし、結構跳ばなきゃいけないかも。」
「分かりました!」
トルクは気合十分で助走をつけ始めた。
「とう!」
トルクは一際すごい勢いで跳びあがった。
「うおおおお!」
あ、まずい。あれは跳びすぎだ。トルクの体は俺とミヤビよりも大きいので上がってこれるか心配だったのだが、その逆だった。
「おいおい、程度ってものを知らないのか、あやつは。」
トルクは俺たちの目の前を高速で通り過ぎてさらに上へと行ってしまった。
本人も想定外の高さだったから、これにはビビったらしい。
「ちょ! ヤバいっす!」
「パリーーーーン!」
上で窓ガラスが割れる音がした。
「おい! 何やってくれてんだよあの野郎! これじゃ中の奴らにバレちまうじゃねえか!」
カティーヌはこれまでにないくらい取り乱していた。




