六十話 ユーフテン王国です!
飛び込んだはいいが、かなりの高さだ。ジャンプしてから下に届くまで、なまじ時間があるもんだから、今になって恐怖心がどばどばと込み上げてきてたまらない。
「うわあああ!」
「ドボーン!」
「スタン。」
あれ?
今たしかに滝壺に突っ込んだと思ったのだけれど、気がついたら俺は原っぱに立っている。
「遅かったじゃないか。まったく、そなたたちは何をやるにつけてもいちいちそんなに時間をかけなくてはならないのか?」
目の前には呆れ顔のカティーヌが立っている。
「うわーー!」
上から声が聞こえ始め、大きくなり、やがてその声の主が上から落ちてきた。
「おおっと! あれ? なんでこんな?」
トルクも俺と同じような反応をしている。気持ちはわかる。一瞬理解が追いつかない。
滝壺を通り抜けたら、別の場所に来ることができるというやつなのか。
「きゃーーーー!」
また声がして、今度はミヤビが落ちてきた。
「そなたたちは声を出さないと飛び込めんのか?」、
そのくらいは許して欲しいな。
三人とも、不思議なことに濡れていなかった。
「よかったですよ。この新装備が早速びしょびしょにならなくて。」
新装備は群青と紫を織り混ぜたような、上品なデザインだった。おしゃれだが、目立ちすぎることもなく、まさに盗賊の装備である。
と、その装備にカティーヌが目をつけた。
「すまんが、そなた。王国に入る際に、そのローブを貸してはくれまいか?」
え、なんで? 服着てるじゃん。てかそもそもあんた男だろう。どうして女用を着ているミヤビに借りようとするのだろう?
ミヤビは露骨に嫌そうな顔をした。
「ええ? もしかして女装趣味とかそんな感じですか? 高貴な人ほど特殊な癖に目覚める的なやつですか?」
ストレートに言い過ぎだろ。俺も若干疑ったけどさ。
「違うわ! 向こうに着いたら嫌でも理由がわかるさ。」
と、カティーヌは歩き出してしまった。
彼について行くと、せっかく歩きやすかった平原を抜けてしまい、また峰々の間に入ってしまった。
「さあ、もうすぐだ。」
そうは言われても、まだ木しか見えていない。本当に国なんてあるのか?
そう疑い始めたころだった。
「うわ!」
木々を抜けた先に、それは突然現れた。
ずっと先、山肌に沿うような形で構えているのは、西洋風、されど自然と一体化したような雄大な城だった。
「おお、見えた見えた。あれだよ諸君。あれがユーフテン城さ。」
本当に見えた。それも、思っていたよりも数段の美しさ。遠目に見るこの景色でさえ、息を飲んでしまう。
その下の平坦になっている麓には、王国の町々が広がっている。
「このままこの道を行けば門に辿り着く。そこでそなたのローブが必要になるから、重ねて言うが、どうか貸して欲しい。」
ミヤビはやっぱりためらってはいたが
「うーん、まあ何か理由があるのなら、仕方ないですね……。」
というと、装備を前のやつに変えて、新しいステルスフライをカティーヌに渡した。
カティーヌはそれを受け取ると、さっそく着た。
「うん、これでいい! これならいけるぞ!」
なにがいけるのかは分からないけど、カティーヌは自信満々だ。
彼が意気揚々と進む先には、言ってあった通りの国の門が置かれていた。
「よし、そなたたち、ようやく着いたぞ。」
そういうと、彼は先頭だったのに、俺たちを前に押し出した。
門には守衛が五人ほど門番を務めていた。
「君たち、入国するのかい?」
カティーヌは口を閉じたまま俺に合図をするので
「え、ええ。そうです。入れてもらえませんか?」
「構わないが、少し身分を改めさせてもらう。つい今しがた、国賊カティーヌが投獄されていた牢から脱獄したとの報が届いたのでな。君たちの中で男は特に厳重に調べなければならないんだ。」
そういうと、俺たち四人に合わせて、四人の門番がそれぞれ俺たちの前に立った。
俺の前に立った門番は質問をしてきた。
「君、出身は?」
「ええと、ウエストエリアの六番地です。」
「うん、そうか。」
ゲーム上の地名で言ったけど、大丈夫だったか。カティーヌと同じ出身じゃなければ大丈夫ということか。
その後も、質問が続いたのだが、
「それじゃあ、ボディーチェックをさせてもらう。」
え? そこまでされるの?
正直、今の質問で疑いは晴れたものだと思ったのだけど、ほんとに念を入れるんだな。
でもそれだとカティーヌは危ないんじゃないかと横を見ると、すでにカティーヌ、それにミヤビは解放されていた。
「男はカティーヌが化けている可能性があるからな。少し辛抱してくれよ……。」
ああ、そういうことか。
女はカティーヌじゃないだろうということで、大して調べられないのだ。男の門番じゃ女の人をボディーチェックすることができないというのもあるのだろう。
それでカティーヌは、詳しく調べられないためにミヤビの女用のローブを借りたのだ。
実際、見た目は完全に女の人になっていた。彼の長髪は見事に女性のそれだし、体も華奢なので、ローブのフードを被ってしまえば、疑いようがないほどなのだ。
かくして、指名手配中のカティーヌは、まんまとユーフテン王国に入ってしまったのである。




