表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君がいるから呼吸ができる  作者: 尾岡れき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/156

閑話13 悪役(ヒール)の退場劇【後編】


【3ヶ月後】




 別に、保護して欲しいなんて思っていなかった。


 ――お父さん、分かってるの?! この子は……。


 あぁ、そう言いたい気持ちは分かる。親に捨てられた子だし、なんなら仮初(かりそめ)の権力でイキっていたガキだった。それに、最低の行為(コト)もした。自分でも、今さらって思うし。どの面さげて、って思う。


 ――それで?

 俺を拾った爺ちゃんは、涼しい顔をしていた。


 ――こいつがクソガキなのは分かったが、そのクソガキを叱れる大人はドコにいたんだ?


 なんで……? って思った。

 自分で言うのも可笑しいと思うが、高校生はもう大人だ。庇われる意味が、分からない。


 ただ――って思った。


 この勘違いしているクソガキを、甘やかす爺ちゃんじゃないことはよく分かった。朝、6時に起きなかったら叩き起こされる。


 井戸水から、水瓶にためるのも僕の仕事だ。

 米を炊くのも。

 風呂を沸かすのも。

 そして、食器を洗い。掃除をして。


 日中は爺さんや近所の畑の手伝いをする。

 泥だらけで――。

 最初は腰が、すぐに痛くなった。


(……どうして、ボクが)


 そう思ったことは、一度や二度じゃない。


 稲を上手く、植えられなくて。

 田んぼのぬめりに足をとられ、泥まみれの洗礼を受けたことが懐かしい。

 

 ぴちょん。

 釣り糸が反応した。僕は、釣り竿を振ろうとして――。


(そう)っ!」


 がさつな声に僕とターゲットの山女魚が驚いて。


 ぽちゃん。

 川面に波紋が広がる。

 魚が、逃げちゃった。


「……相変わらずヘタだねぇ」

「今のは菖蒲(あやめ)のせいだと思うよ」


 ジトッと僕は、張本人を見やる。


 爺さん達高齢者以外で、唯一、この集落で僕に声をかける変人一家。ほの一人、夏目菖蒲(なつめあやめ)がニシシと、僕に向けて笑っていた。





「良い加減、僕に構うのを止めたら?」


 呆れて言う。別にスレて言っているわけじゃない。自分という人間を知りながら、こうも当たり前に接してくる菖蒲のことを思って言っている。


 この集落から、電車で30分。菖蒲の高校までの時間。この時刻で帰ってくるということは、部活もせずに、友達とも遊ばずに帰ってきたということで。


 正直、菖蒲の時間を奪うほどの価値は、僕にはないと思う。


 何もかも、なくした。


 この自然のなかで、過ごすうちに。小さい世界で、僕は生きていたと気付いた――のは、つい最近のこと。今さら気付いたとしても、もう遅い。


 何度か、首を吊ろうと思ったこともあった。

 以外に苦しくて、人間って簡単には死ねないと知る。


 そして、不思議と朝倉の爺ちゃんに見つってしまうのだ。

 償うなら、これしかないと思ったのに。


 ――お前が死んだくらいで、誰が喜ぶか。

 そう言われた。


 償うつもりなら、生きろ。簡単に許してもらえるなんて思うな。


 ――それから、そんなクソガキでも……心配しているバカがいることを忘れるな。


 爺さんと、菖蒲が泣きじゃくるのを見て。

 はっと我に返ったんだ。



(誰かが泣いてくれたのは初めてかも)



 爺ちゃんに抱きしめられて――。

 髭が痛い。


 マジで、痛くて。

 泣きたくなるくらい、痛くて――。




「ちゃんと、授業は受けたの?」


 菖蒲が、俺の顔を覗きこむ。


「当たり前だろ。爺ちゃんに金を出してもらってるんだから」


 オンラインとはいえ、ここまで真剣に授業を聞くのは、初めてなんじゃないかって思う。


「偉いねぇ。私は今日の授業、よく寝たよ」

「勉強しろよ」


 コツンと、菖蒲の額を打つ。でも、それもブーメランだ。(あっち)にいた時の僕は、勉強はそこそこ。元親の金を、自分の財産のように散財して、人をオモチャのように扱った。生徒会の業務は、全部、音無に押しつけた。


 そんな僕が、高校卒業資格を得ようと通信制高校を受講しているのだから、おかしなモノだ。授業が終えたら、畑仕事の手伝いをする。おかげで、すっかり日焼けしてしまった。


「ねぇ、総?」


 年下のクセにまったく距離感を憚らない。この野生児、このまま社会に出て、大丈夫なんだろうか?


「スクーリングは(あっち)なんだよね?」

「そうだね」


 考えると、憂鬱だ。でも、自分が決めたことだ。


 一度は、戻って。

 下河と上川に謝る。


 許されることが目的じゃなくて。もっと憎んでもらって――自分の胸に楔を打つために。 


 彼女が、過呼吸になったのは、僕の責任だ。それ以上も、それ以下もない。


「その時は私も一緒に行くから」

「は?」


 予想だにしない言葉に、僕は目を丸くする。


「菖蒲、お前は何をいって――」

「私なんかが、一緒にいても許してもらえないかも。でも、総は後悔をしているんでしょ?」


「……後悔して、許されるのなら。刑務所なんかいらないでしょ?」


 むしろ、罰してもらった方が楽かもしれない。


「分かってるよ。だから、総の分まで一緒に背負うの」

「菖蒲がそこまでする理由ない――」

「あるよ。だって、総と私は友達じゃん」




 とくん。

 胸が脈打つ。




 ――それなら、さ。私と友達になってくれない? 集落の奴ら、私のことを男女(おとこおんな)って笑うんだよね。


 ――男女……いや、どう見ても君は、女の子でしょ?


 ――(あっち)の男って、みんなナンパ師なんだね。(こわ)


 ――なんでさ?!




 あぁ、そんなことも言っていたね。軽口でしかないやりとりだったけれど、菖蒲にとっては大きかったらしい。そんなことで――そう思った、言葉を噤む。


 ――病原菌。

 ――男女(おとこおんな)


 どっちだって一緒だ。言った奴らに、そんなつもりがなくても。本人に突き刺さる言葉があるんだ。そして、一度紡がれた言葉は一生、消えない。下河雪姫に、上川冬希がいても。その過呼吸がおさまらなかったように。


 僕が、彼女につけた傷が絶対に消えな――。





 ふぁさっ。

 菖蒲が、僕の髪を撫でた。僕は目を丸くする。





「私は、今の総しか知らないけど。どんな、総も受け止める。多分、朝倉のお爺ちゃんもそうだよ。うちのお父さんも、お母さんも――」


「……爺ちゃんも、晃さんも志保さんも……お人好し過ぎでしょ……」


 川面に、滴が落ちる。

 せめて、一人で。


 これまでの、自分を悔いることができたら。

 いっそ、この川に身を投げて。

 何もかも、なかったことにできたら。


 そう思うのに。


 何度も、何度も、そう思ったのに。

 ここの人達は、優しすぎる。



(どうして菖蒲まで、泣くんだよ?)



 ぽたん。

 ぽたん。


 川面に落ちる滴が、止まらない。


 清流が、感情まで飲み込んで――ドコまでも、澄んで。


どうしてだろう。

 川面が夕陽で乱反射して。


 目が痛くて開けられないくらい――この世界が、綺麗だったんだって。初めて、そう思った。 






作者より蛇足。

このENDを納得できない読者様もいるかと思います。


ただ、子を持つ親としては、後悔と反省をしながらも、再起を願ってしまうのです。


雪姫に対して元生徒会長が行ったことは、許されることじゃないと思います。それは、そう。だけれども、彼に加担した人、そしてスルーした人。全員が、加担者だと思います。


光や彩音がずっと、後悔していたのもそういうことです。

誰かが雪姫のことを「病原菌」と言うのを知りながら、止められなかった。


イジメは悪だし。

許してはいけない。


ただ、考え方を少しだけ変えて。

誰もが、加担する可能性があるということが、この物語で少しでも伝えられたらと思っていました。糾弾する側が、決して正義とは限らない。


ちなみに、すでにお気づきの方もいるかと思いますが、朝倉のお爺さんは夏休みに登場していた朝倉晋哉。御年、67歳。お爺ちゃんと言われるには、まだ、ちょっと複雑なお年頃。


娘は、朝倉志乃。保健室の朝倉先生です。

菖蒲の父母は、夏休みに登場していた、夏目晃と、旧姓玉置志保でした。


ということで、第1章も次話で、最終話。引き続き、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ