015 身勝手な人間
後半、少しダークな展開があります。
「な、なんで動けるんだ……。ラミアは冷気に弱い。冷気魔法はラミア狩りの常とう手段だぞ……」
仲間から吹き上がる血しぶきを目にし、唖然とした表情でぶつぶつとつぶやくロングソード男。
「毒ですよ毒。発熱毒を自身に打ち込んで体内で作る熱の量を増やしたのです」
「そ、そんなことが。聞いてないぞ! ぶべらっ」
オリオの射程内にいることを忘れていた男は、鞭のようにしなる強烈なしっぽの一撃を受けて吹っ飛んだ。
「大体、知将の私に何度も同じ戦法が通じると思うのが浅はかなのです」
オリオは胸の前で腕を組み、当然の結果だと言い放った。
魔術師風の男が倒れたことにより冷気魔法はすでに消え去っているが、なお余熱があるのかしっとりと汗ばんでいるオリオの上半身。
ああ、ちゃんと上半身には体温調節機能があるんだなと納得する。
当の本人の魔術師風の男はというと、地面に倒れたまま体をビクンビクンと震わせながら口から血の混じった泡を吹いている。
あの様子は神経毒と出血毒のどちらかか、あるいは両方か。
神経毒というのはいわゆる麻痺効果のある毒の事だ。すぐに効果の出る強力なものもあるという。
出血毒というのは血液の凝固作用を阻害して血が止まらなくしたり、血管の細胞を破壊して出血させる、そんな毒だ。
地球の蛇でもそれだけの毒をもつものがいるのだ。
この巨大な蛇の下半身を持つラミアならさらに上級の毒を生成できるのだろう。
いずれの毒にせよ。魔術師の男は終わったのが見て取れる。
そんな魔術師風の男には目をやらず、オリオは尻尾で高く跳躍する。
そして落下中にくるりと回転し、吹っ飛んで地面に倒れているロングソードの男に向けて重力と遠心力の相乗効果の乗った尻尾の一撃を食らわせた。
轟音と共に地面が揺れた。
空中に浮いている俺でもその振動を感じるほどだった。
ロングソードの男は手足の途中からあらぬ方向に曲がって地面にめり込んでいた。もちろん首もだ。
そんな様子を見た弓の男は小さく悲鳴を上げるやいなや逃走し始める。
恐怖に支配されているのかと思ったが意外と冷静で、何らかの魔法で姿をすっと消してしまった。
「逃がしませんよ!」
オリオはまるでその男が見えているかのように視線を向けると、またもや尻尾を使い跳躍する。
俺には見えないけど、たぶん熱感知によってその姿はまるわかりなのだろう。
オリオが何かに尻尾をぐるぐると巻き付けている。
「ぎやああああああ」
悲鳴と共に弓の男の体が見えるようになった。
痛みにより魔法が中断したのだろう。
オリオは男の足の先から頭の上までを、その長く艶めかしい尻尾で巻き取り、内側に力を加えているのだ。
蛇のしっぽとはいえ、女性に全身を包み込まれているのだ。
それはそれでうらやましいものだが、当の本人はそれどころではないだろう。
何かが折れる音がいくつもして、オリオが尻尾を解いた後、絞ったぼろ雑巾のようにねじ曲がった弓の男の死体が出来上がっていた。
残るはあと一人、短剣の男。
だが、その男もすぐにこと切れるだろう。
なぜなら、牛乗り、いや馬乗りになったシガが短剣の男の顔面を殴りつけていたからだ。
すでに顔の形は変形しており、再起は不能だろう。
つまりは大勝利。
俺はあたふたしていただけだけど、魔物娘二人の圧倒的なパワーで勝利したのだ!
ん? そういえば……いつの間にかこいつらの雇い主の男がいないぞ。
小物そうだったが、あいつがすべての元凶に違いない。
「(オリオ、雇い主の男を探すんだ!)――オリオよ、気づいているな?」
「はっ、ご心配には及びません」
オリオはそう言うと、乱雑に停車している馬車の影から男の首根っこを摑まえて戻ってきた。
俺の意訳発言もともかく、オリオはよくあの発言内容で俺が言いたいことが分かったな。
知将ポジションに加えて秘書ポジション候補だなこれは。
「ほら主様の御前だぞ、ひざまずけ」
オリオはポイっと男を放り投げる。
「ひっ!」
地面に尻を着いた男は、俺を見上げると小さく悲鳴を上げた。
いや、そんなに怖い風貌してないからね。
ただちょっと下半身が無くて、上半身が素っ裸な事と……。
赤いだけだから!
「(さて、ラミア達を返してもらおうか)――ラミアを解放するか死か選べ」
俺は男を睨みつけるようになるべく怖い顔をして、主というか魔王というかそんな威厳を保つ努力をする。
相変わらずの意訳だが、大体あってる上に今の場合は頼もしい。
「ら、ラミアだな、分かった、返してやるよ」
命がかかった場面でこの口の利き方。
場数を踏んでいる可能性があるので油断はならないな。
注意しながら男の後に付いていく。
そんな俺の目に異様な光景が入ってきた。
たき火の上に肉が焼かれている。魔物の。
一目で人型の魔物の死体だと分かる。
近くには綺麗にまとめられた羽根が置かれている。
俺は言葉を発することなく、男の首を掴み上げた。
「(これはどういうことだ!)――貴様、これはどういうことだ」
「く、苦しい……。放してくれ」
「(どういうことだと言っている!)――二度は言わんぞ?」
「たまたま見つけた、ハーピーだよ……。ハーピーの羽根は、高く、売れるんだ。
だけど、羽根以外は……大した金にならないから、新たな商品の、開発として、肉が、食えるか試しているだ、だけだ……。
別の種族、だし、お、お前らには……関係ないだろ……」
いけしゃあしゃあと話す男。
俺の心の内側からどす黒いものが満ちてくる。
じわり、じわりと……。
先ほど抑え込んだ怒りの衝動とが混ざり合って俺の思考を一色に染め上げる。
こいつら、救えねえな……。
ああ救えねえ。
生かしておくだけで世界の害になる!
魔物達を物としか見ていないクズ共。
自分の金銭的欲求を満たすためならば羽根を毟って死体を焼く事も、腹を裂く事も、首を切り落とす事も、いとも簡単に行うクズ共。
お前たちは自分がやっている事がどんなことか、自分が同じ立場になった場合にももちろん理解しているんだよな?
知りませんでした。こんなに酷いことだとは想像もしていませんでした。なんて言わないよな?
教えてやるよ、お前達がやっているのはこういう事なんだよ。
俺は首をねじ切ろうと手に力を込める。
「や、やめろ、生き返れるとは言えここで死んでしま――」
――ぱきゅっ
ねじ切ろうとした首から上は、俺が力を入れるより先に消えてなくなっていた。




