016 デスペナルティ
章分けを行いました。
001が「未来の片鱗」
002からが「第1章 魔王様召喚編」
となります!
「こんな小者のために、我が主の手を汚す必要はございません」
早すぎて見えなかったが、どうやら尻尾で男の頭を絡め取り、ねじ切ったようだ。
遅れて断面から赤い血が噴き出す。
「ちぇ、先を越されてしまったのダゾ」
見ればシガも臨戦態勢だった。
二人共……。
なんていうか……少し感動している。
俺みたいな今日会ったばかりの下半身無しの不審者を、主だと、忠誠を誓うと言ってくれたことは確かにうれしかった。
だけど、俺自身がそんな現実離れした状況を、彼女たちを受け入れていなかったのだ……。
俺だって魔物と話すのは初めてだ。多分誰だって初めてだと思うけど。
人間とは姿が違う彼女たち。
その生き方も考え方も、俺には理解が及ばないのではないかと心のどこかでは思っていたのだと思う。
だけど、そんなことは関係なかったのだ。
彼女たちは俺の事を考えて、思って行動してくれた。
俺の手を汚す必要は無いと、自らの手を汚してくれたのだ。
なんというか、人間の時も友達は沢山いたはずで、楽しい毎日を過ごしていたとは思うんだけど、今のじんわりとした心の温かさはその時を上回っている。
彼女たちのすべてを理解できたわけじゃないけど、そのきっかけというか手ごたえというか。それがうれしい。
この気持ち、それに二人の思いに応えて魔王をやってみてもいいのかなと思ったりする。
オリオの青い目がじっと俺を見ていることに気づいた。
「さあ主様、仲間を救い出しましょう!」
俺はその言葉に、小さく頷いた。
シガの鼻のおかげで俺たちはラミアが捕まっているコンテナ馬車を特定することができた。
幾重にも厳重に閂をかけられた重い金属製の扉を開いていくと、数匹、いや数人のラミアが折り重なって倒れていた。
ラミアたちはいくつかのコンテナに分散して押し込まれていたようで、俺たちは手分けしてコンテナを開放していく。
ぐったりとしたラミアたちをコンテナから外に運び出す途中、なにやら小さな生き物が俺の脇を通り過ぎ、森に向けて駆け出して行ったが何かにぶつかった音と共にその場に倒れてしまった。
囚われていたラミア達の話から、この一行が見世物小屋の一行であること、ここに囚われている魔物達は皆、主人の持つ何らかの魔法アイテムで作り出された一定範囲内の結界の外に逃げることができないことが分かった。
そんな中、俺たちの後ろで先ほど倒した人間の体が発光しているのに気付いた俺。
不思議に思いながらその光を見ていた俺にオリオが口を開く。
「主様、あの現象は人間が死んだ時に起こるものです。
いえ、死んだと言えるのかどうかはわかりません。
確かに心の臓は停止し、我々と同じく土にかえるだけの状態なのです。
ですが、人間はああやって光となって消えてしまい、後には残りません」
オリオの言葉に、俺は人間たちが口にしていた言葉を思い出す。
オリオを助けたときに殺した冒険者【殺すなら綺麗に】。
見世物小屋の主人【生き返れるとは言え】。
どちらも何か引っかかった言葉だ。
俺の頭の中で仮説が組みあがっていく中、オリオが言葉を続けた。
「ご想像の通りです。
ある時、死んだはずの彼らが再び目の前に現れたのです。
それも一人だけではありませんでした。そして一回だけでは無く、何度も……」
やはりか……。
人間は何らかの力……魔法か何かで死んでも復活している。
俺はすぐにその考えを受け入れた。
日本の高校生は、架空とはいえそういう事例をいくつも知っている。
ここが異世界だというのならそういう事もあるだろう。
いくつかの死体が光を放ち始めた。
その中では首から上がなくなった見世物小屋の主人の死体が一番明るい輝きを放っており、一際明るく光ったかと思うと、霧散するように消えてしまった。
身に着けた服や腕輪なども一緒に消えている。
先ほど結界にぶつかって気を失っていた小さな生き物が目を覚まし、再び森に向けて駆け出したが、今度は何にもぶつかることなく森の中に消えていった。
おそらく何らかの魔法アイテムが見世物小屋の主人と共に復活ポイントに戻ったことによって、結界が消え去ったのだろう。
次々と光を放ちながら消えていく死体。
光り方もその時間もバラバラだ。死んでから一定時間というわけではないらしい。
それにしても、身に着けた装備品まで持ったまま復活してくるとなると厄介極まりないな。
死んだことによるマイナス点とかあるんだろうか……。
おや……?
消えずに残っているものがあるぞ。ロングソードとかナイフとか武器の類だ。
もしかして体から離れたものは復活に乗らないのか?
「うわっ! びっくりしたんダゾ!」
ったく、何があったんだシガ。今大事な考え事してる途中なの。
ちょっと余裕そうな驚き方に、まあシガだからなと思うようになった事は俺も彼女達に順応してきたのかもしれない。




